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悪い男、ウイリアム。

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ナンシーは、ウイリアムの侯爵家へと馬車を走らせた。
「ウイリアム様は、私との婚約を後悔なさっているの? 」
ナンシーは怖いけど、真実が知りたかった。
「ああ、ウイリアム様。違うと、言って。」
ナンシーは、祈るように手を組んだ。

「これは、ナンシー様。」
急に訪れたナンシーに執事は、驚いた。
「あの、ウイリアム様に お逢いしたくって。」
「其れは、構いませんが。今
ウイリアム様は、商談中で。暫し、お待ち頂くことになりますが。宜しいでしょうか? 」
「それは、構いません。」
「解りました。では、客間にお通しいたします。此方へ。」

ナンシーは、客間に通された。質のよい家具が配置された部屋で、考える。
「あの美しい人に、婚約解消を進められて。つい来てしまったけど、どうしょう。」
ナンシーは、感情のまま侯爵家へ来てしまったことを後悔し始めていた。
「ウイリアム様に、何を話せばいいの。」
窓辺から外を見ると、庭に咲く薔薇の花が見える。
直ぐ傍にウイリアムの姿を見つけ、ナンシーは窓を開けた。

「あの女性を、また頼む。」
男性の声が聞こえた。
「彼女を、ご指名ですか。」
ウイリアムの声が応える。
「彼女は、口が硬く。礼儀も、なっている。」
男の笑い声が、聞こえる。
「彼女は、とても人気がありまして。」
ウイリアムも、笑っている。
「そこを何とか、頼む。」
「解りました。では、今宵。屋敷に、覗わせます。」
「ふむ、頼む。」

ナンシーは、その会話に震えた。体を抱き締める。
(女性を、紹介しているの。)

「そうだ、2 3人。生きの良い、男も頼む。」
「新しく入った者が、降りますがその者達でよいですか? 」
「ああ、それでよい。体が丈夫であればな。」
「馬車馬の如く働かせる積もりですか。」
ウイリアムが、笑っている。

「それに見合った、金は出す。使い潰れるまで、働いて貰おう。」
男の笑い声が、上がる。

「使い潰す積もりですか。」
ウイリアムも、笑っている。

「その時は、また啓に新しい者を用意して貰おう。」
「解りました、何人でも調達いたしましょう。」
二人して、笑い合う。

(何? 男の人を調達。使い潰す。ウイリアム様は、何の話をしているの。)
「まさか、奴隷商人。」
ナンシーは、身を屈めた。


「そう言えば、啓の婚約者殿にはいつ紹介をしてくれるのかね。」
「婚姻をした後にでも。」
笑いを含んだ男の問に、ウイリアムは応える。

(私? )

「ウイリアム殿。約束通り、一度お相手をさせて貰えるのかな。」
「彼女は、まだ婚約者なので。」

(一度、お相手て? )
身を屈めたナンシーには、二人の姿は見えない。声だけが、聞こえてくる。

「勿論、君のものに成ってからの話だ。」
「まあ、一度だけなら。」
クスリと、ウイリアムの笑う声が聞こえた。

(ウイリアム様? )

「ははははっ!! 儂らの年齢の男には、華やかな女性より。啓の言う、清楚な女性の方がよい。逢うのが楽しみだ。」
「きっと、お気に召して貰えると思います。」
「自信満々だな。」
男の感心した声が、届く。

「啓の本性を知られたら、逃げられるかもしれんぞ。」
「まさか、逃がしません。」
間を置かず、ウイリアムは応えた。
「取り敢えず、結婚をしてしまえば此方のものです。」
「ははははっ、悪い男だ。」

「きっと、啓の言う婚約者は、人気者になるぞ。」
「その時は、可愛がってやって下さい。」
「その時が、楽しみだ。」
二人は、笑いながらナンシーのいる部屋の前から離れて行った。

「なに、今の? 」
ナンシーは、体を震わせながら呟いた。
「私を、あの男性に? お相手。ウイリアム様は、私の事を・・・。」
ナンシーは ふらふらと、立ち上がった。
(うそ、うそよ。きっと、聞き間違いよ。ウイリアム様が、そんな。)
静かに部屋を出る。
 
(きっと、夢よ。家に戻って、眠れば。目が覚めれは、夢だったって。)
ナンシーは、家に帰ろうと屋敷の玄関へ向かった。

そこには、ウイリアムと男が立っていた。ナンシーは、つい音を立ててしまった。


男と、目が合う。
強面の難いのよい男が、
「これは、これは、お嬢さん。こんにちは。」
男は、ナンシーを上から下まで見据える。

「ウイリアム殿。此方も、商品の1人かな? 」

『商品』と言う言葉に、ナンシーはゾクッとした。
何も言えず、立ち尽くす。

「彼女は、私の婚約者です。」

ウイリアムは、男との間に入った。『ほう。』と 男は、再びナンシーを見据える。

「なる程、啓の言う通りだな。稀に見る女性だ。」
男は、ナンシーに笑いかけた。そして、ニヤニヤとした顔でウイリアムを見る。

「ウイリアム殿。楽しみにしているよ。」
男はウイリアムに言って、笑いながら去って行った。


「ナンシー。」
優しく語りかける、声がする。
「私に、会いに来てくれたんだね。」
ウイリアムは呆然と立つナンシーに、近寄る。
「劇場には、一緒に行けなくて。済まなかった。」
ナンシーは、優しい微笑みを称えるウイリアムに怯える。
「ウイリアム様、今の方は。」
紛らわすように、問い掛ける。ウイリアムは、男の方をちらりと見て、
「ああ、仕事上のお得意さんだよ。ナンシーも、彼には粗相の無いようあたってくれ。」
ウイリアムは、優しく微笑む。ナンシーは、体を震わせる。

「どうしたんだい? ナンシー。恐いのかい? 」
体を震わせ顔色の悪いナンシーに、ウイリアムは慌てる。

「彼は、強面だが優しく扱って下さる。大丈夫だよ、心配しなくていい。」
「あ、私。今日はもう、帰ります。」
体を抱き締めて、呟いた。

「ナンシー。気分が悪いなら、少し部屋で休んでから帰るといい。」
「大丈夫です、ウイリアム様。今日は、もう帰ります。」
無理に、微笑んで見せる。

「なら、送って行こう。」
「大丈夫です!! 」
ナンシーは、声を荒げた。

「ナンシー!? 」
「あ、馬車を待たせてありますから。」
そう言うと ふらふらと、歩きながら馬車へ向かった。

ウイリアムは、黙って馬車が動き出すまで見送った。
馬車が、門を出ると。
「くそっ!! 」
イライラとした、口調で爪を噛むのであった。





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