【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて

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呪われた血。

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総ての者を刈り尽くした辺境の者たちは、血と人間だったものの転がる帝都で休息を取っていた。むせ返る血の匂いや内臓の汚物の匂いも気にすることなく、口の中に何かしらの食べ物を詰め込んでいる。
その中にリフターも混じっていた、しかしその目には希望の光が輝いていた。

世界中を回っても、世界中の者を消し去っても、愛する娘 リフィルを見つけ出すという希望に輝いていた。

(リフィル、リフィル、愛しい娘。ああ……早く早く、お前に会いたい。)

リフターはリフィルを諦めてはいなかった。


帝都で休息を取っている辺境の者たちを見ている神たちがいた。大きな水鏡に映ったリフターを見下ろすように見ている。

その一部の神以外の顔は、苦虫を噛み潰したような険しい顔であった。

「主神、このままではあの者たちは世界中の人間を抹殺してしまいます。」
「何たることだ。」
ひと柱の若い神が、主の神に進言する。足元に円形状に広がる水鏡の縁に立ち、玉座に座る主神を見る。

「他の地の神々からも、抗議が届いていますわ。」
主神の隣の玉座に座る、女性のひと柱が言った。

「勝手なことを吐かす。」
「しかし、このままでは不味い。」
頭を抱える主神に、水鏡を維持しているひと柱が言った。

「いくらわたしたちが、人間に加護を与えても。」
「人間では、奴等に勝てない。」
鎧を着た男女のひと柱たちが、人間ではリフターたち辺境の者には勝てないと進言する。その言葉に主神は唇を噛む。

「ここはもう彼に、頼むしかありませんわ。」
「そうですね、あの者は娘を求めています。」
一番美しいひと柱が言葉を紡ぎ出すと、それを肯定するように女性のひと柱が頷く。

「神器を渡しても無駄か? 」
「無駄だ、扱える人間は、いない。」
主神が足の悪いひと柱に問いかけると、首を振って応える。

「人間への干渉は、許されておりませんわ。」
おっとりとしたひと柱が、主神を嗜める。主神は深いため息をついて、この場にいるひと柱の娘を見る。その目を遮るように、金髪巻毛の娘によく似たひと柱が前に立った。

「大丈夫です。」
「……。」
白銀の髪のひと柱は、自分を護るように前に出ていた兄を制して前に出る。

「私が。かの地の名をもって、御方の元に主神を案内いたします。」
そう言うと、白銀の髪は黒く染まっていく。足元にまるで奈落の底と思えるような闇が空いている。そこに沈むことなく立っている娘が、主神を促す。渋々主神は玉座から立ち上がり、闇に足を進めた。

「かの地の御方の元へ、かの名を使い扉を開ける。かの名はヘカテー、冥府の門を開く者。」
娘が、名をあげると足元の闇が門に変わり開く。まるで吸い込まれるように、闇に消えていった。


主神が目を開けると、玉座に横柄に座る長い黒髪の男がいた。真っ白な宮殿の間にある玉座に座っている、黒い髪と黒い衣服は浮き上がるように目を奪う。

「冥府の王よ。」
「久しいな、弟よ。」
冥府の王は琥珀色の瞳を細めて、主神に挨拶をした。

「あの者たちをどうにかしてくれ。」
「あの者たち? 」
「お前の眷属だ。」
ヘカテーを下がらせ、話が始まった。長いをしたくない主神は直ぐに、核心を話し出す。

「ああ、使命をまっとうしているようだな。」
「このままでは、人間を総て抹殺してしまう。」 
その言葉に冥府の王は高らかに笑った。鋭い目を主神に向ける。

「お前たちが、望んで生み出した一族だ。俺の血を混ぜ、神に反する人間を刈る為に。」
「だが、今は人間は神に敵対してはいない。」
冥府の王はくぐもった声で笑う。

「仕方がないだろう、司令塔である者が壊れてしまったのだから。あれが止めない限り、止まらない限り、刈は終わらない。」
「お前の眷属だろ!! 」

「確かに、お前たちが勝手に創り出した俺の血を混ぜた俺の眷属だ。」

リフターは、辺境の者たちは、神々に反する人間に罰を執行するために生み出された存在であった。

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