【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて

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ソルトルアー国の終わり。

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辺境の者たちの歩みは緩やかであった。シュガーレ国へ行くときと違い、リフターも急いてはいなかった。

ただ、確実に帝国へと進む道すがらにある村や町は哀れにもリフターたちに根こそぎ刈られていった。
ゆっくりと、確実に帝都を目指す。



帝国では軍を任されている元帥の公爵が、皇帝と重臣を会議室に呼び出し話をしていた。

「ソルトルアー国の王都が、全滅しただと!! 」
帝国の皇帝は立ち上がり、報告を告げた公爵に叫んだ。その場にいる重臣たちがざわめく。

「はい。ソルトルアーに潜伏している者からの連絡が途絶え、近くの者に探りに行かせた処。ソルトルアーの王都の住民総てが殺害されていたとの事です。」  
青ざめながら元帥の部下がもたらされた、報告を告げる。

「いったい、何処の国が……。」
「キャンベル辺境伯だ。」 
宰相の呟きに、元帥が応えた。

「なっ、馬鹿な。」
「なぜ、わかるのです? 」
驚く皇帝に、冷静な皇太子が問い掛ける。

「まだ、息のあった王族に聞いたそうだ。」
「まだ? 亡くなられたのですか。」
「そうだ。息を引き取る間際まで、キャンベル辺境伯の事を呪っていたそうだ。」  

ソルトルアー国の間者から連絡が途絶え、近くの町のから様子を見にやって来た者は絶句した。王都の門は開け放たれ、街中に近くの森からやって来た野獣が遺体を食い漁っていた。血の匂いと、腐った匂いが入り交じる中を数人は状況を知るために別れた。野獣は食事に夢中で、彼らに気を取られることはなかった。力の強い野獣は既にお腹がいっぱいで、眠っている物もいた。それでも気を張りながら、間者たちは王都を詮索する。

ばさばさばさ、と黒い鳥が羽根を散らしながら何十羽も飛び上がる。頭の上で、何十羽もの黒い鳥が飛び回るのにゾッとしながら前に進む。野獣以外の気配はしない。間者たちは王城を目指した。

「いったい何が……。」
「「「………。」」」
王城ヘ向かう道にも遺体か転がっている、それを黒い鳥がついばんでいる。
目を反らしながら、間者たちは王城に入る。やはり血の海と、遺体か転がっていた。胴から半分になった者や、頭がない者。首がまだ乾いてないどす黒く変色した血の海に転がっている。

「や、やめろ!! くそう、くそ!! ロレーヌ助けろ!! 」
生き残りがいると、間者たちは声のする方へ駆け出した。

やはり絶句する。
ネズミの一団が、まだ生きているであろう者の体の上半身をむさぼり食っていた。食われている者は、必死に手で払い除けている。それを一人の美しい女性が、遺体の上に乗って首を傾げて見下ろしている。

「ロレーヌ、助けてくれ!! 」
「ふふふふっ。」
ロレーヌという女性は笑った。くるりと背を向け、遺体から遺体へと飛び回って遊び出した。

「ロレーヌ!! 」
男は叫んだが、女性が振り向くことはなかった。

「おい、大丈夫か!? 」
間者たちが駆けつけると、ネズミたちはその男から離れるように逃げ出した。

「助けてくれ!! 助けてくれ!! 助けてくれ!! 」
男は、間者を見咎めると叫んだ。

「何があったんだ、いったい? 」
「「「うっ!! 」」」
男に近づくと、その状態が分かる。足は骨がむき出し、腸が変色して腹から溢れて所々に食われていた。今生きてるのが不思議な程だった。

「くそ、くそ、くそ、キャンベルのヤツ!! 絶対に、絶対に、許すものか!! 下郎の血の分際で、王太子である私を!! 私を……。」
助けが来たことで、緊張がほぐれ急速に体の状態が悪くなる。

「うわぁああああ!! 」
ネズミで埋まっていた下半身が見えて、王太子だった者が自分の体の状態を視覚で確認して悲鳴をあげた。

「嫌だ、死にたくない!! 死にたくない!! 助けてくれ!! 助けてくれ!! たす、け………て……… 」
間者に縋りつき、最後の力を振り絞り助けを求めて息絶えた。

「ふ、ふふっ。ふふふふっ。」
静まり返った広い舞踏会会場で、一人楽しそうに遺体を飛び回り踊っているロレーヌがいた。





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