【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
上 下
8 / 40

日の沈む王都。

しおりを挟む
「うおおおおおおおおお……」 
リフターは遠吠えのように雄叫びを上げた。


辺境の騎士たちは雄叫びに同調し、感化され眼の前の門番を殺し王都に入る。主のいる屋敷へと馬を走らせる。行く間にすれ違う者を躊躇無く殺していく。夕闇に染まる王都は、西の外れから赤く染まっていく。



「助けて!! 」
「お願い!! 許して!! 」

逃げ惑うアニタの妹と娘のアクネラ、ゆっくりとリフターは後を追う。邪魔をする屋敷のお抱え騎士を素手で薙ぎ倒し、殺しながら後を追う。潰れ異様に曲がった亡骸がリフターの歩む後に転がる。上へ上へ逃げる二人を感情を伴わない琥珀色の瞳が追っている。

リフターを恐れ、使用人たちは屋敷を逃げようと扉の外に飛び出た。だが既に辺境の騎士たちが屋敷を囲っていた。使用人たちは驚く間もなく、殺されていく。屋敷の庭は夕闇とともに血の赤で染まった。

それでも彼らの殺戮本能は止まらない。


リフターの伸ばした手が、アニタの妹の髪を掴む。娘のアクネラ一瞬止まったが、母親を見捨てて逃げた。

「お願い……助けて……」
涙を流しながら懇願する。

「うるさい口だ。」
リフターはアニタの妹の口を握り潰した。ボキボキと嫌な音がする。そのままアクネラが逃げていった方へ放り投げをた。口が砕けても女はリフターから逃げようと床をよつんばで這いずる。ボキッと音がした。
リフターは女の足を積み付け、折った。

「ぉへなぃ、たちゅけ……」
上向いて助けをこう女の胸をゆるく踏み付ける、ボキボキとあばら骨の折れる音がする。ヒューヒューと空気の音がする、あばら骨は肺を破り女はもがき苦しむ。

リフターはアクネラの逃げた方へ足を向ける、もがき苦しむ女には目もとめず。

アクネラは屋根裏部屋に逃げ込んだ、そこは綺麗に整頓された部屋であった。アクネラ親子に自分の屋敷であるものの、リフィルは狭い屋根裏部屋に追いやれれていた。

「リフィル。」
扉を壊し入って来たリフターは、娘の匂いを感じた。部屋全体からリフィルの優しい姿が思い浮かぶ。

「ああ……リフィル。此処にいたのか。」
リフターの琥珀色の瞳が細目られる。

「わたしは悪くないわ!! お母さまが、お従姉さまを此処に追いやったなよ!! わたしは、わたしは、仲良くしたかったのよ!! 」
アクネラは、自分は悪くないと言い張る。総ては親がやったことだと。

「お母さまに、逆らえなかったの!! だから許して!! 」
リフターの向ける瞳に縮み上がる。

「お従姉さまを殺したのも、わたしじゃない!! アフォガードさまが、アマージョ王女さまと結婚するのに邪魔になって殺したの!! 同盟強化にどうしてもって、王族にわたしが逆らえるわけないじゃない!! 」
アクネラは自分は悪くないと叫びながら狭い部屋の中を逃げる。窓に行き着いて窓を開け外に出る、屋根伝いに逃げようと身を乗り出す。屋根裏部屋は四階にあたるので落ちれば命はないが、高さよりリフターの方が怖かった。

「みんながお従姉さまの死を喜んでたけど、わたしは違うわ!! 悲しかった、辛かったわ!! 」
アクネラは、自分は悲しかったと涙ながらに訴える。だがリフターの琥珀色の瞳が、自分の嘘を信じてないと震え上がる。

「ぎゃああああ!! 」

強風がアクネラの体を浮かび上がらせた。そのまま下に落ちるところをリフターは背中のドレスを掴んだ。アクネラはリフターによって下に落ちることを免れた。

「伯父さま、助けてくれたのね。許してくれるのね。」
日の沈んだ闇の中で、ぶら下がるアクネラ。下は暗くて見えないが、闇の中に琥珀色の光が星空のようにキラキラ輝いている。言い様のない不安が胸に押し押せる。

「伯父さま孝行をするわ、だから早く上に上げて!! 」
ビリリッとドレスが破れ、厚手の布が首元を締め付ける。まるで絞首刑のように、じわじわと首を締め付け闇夜に浮かぶ。

「くるしぃ……ぉじさま、早く助け……」
首元を手で押さえ、必死に助けを求める。

髪飾りが、リフターの胸ポケットから滑り落ちる。それを受け止めるために、アクネラを掴む手を離した。

「いやああああああ!! 」

闇に引き込まれるようにアクネラは下に落ちていった。グシャリと、嫌な音がした。



    
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

婚約破棄していただきます

章槻雅希
ファンタジー
貴族たちの通う王立学院の模擬夜会(授業の一環)で第二王子ザームエルは婚約破棄を宣言する。それを婚約者であるトルデリーゼは嬉々として受け入れた。10年に及ぶ一族の計画が実を結んだのだ。 『小説家になろう』・『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

断罪茶番で命拾いした王子

章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。 5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。 そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。 母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。 アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。 だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

処理中です...