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氷の王子、クラウス。王子の行方。

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木々が青々と茂り、暑さが増してくる日々。蝉の鳴き声も、学園全体に響いていた。もう直ぐ夏、もう夏の暑さはやって来ていた。
今日は春学期最後の日、終業式が数時間前に終わっていた。殆どの学生は既に、帰路に付いていて学園には残っていなかった。
これから、三ヶ月間の夏休みに入る。三ヶ月間あるので、辺境の貴族達も自分の領土へ里帰りが出来る長さだった。
「アンジェリカ様は、里帰りなさるのですか? 」
学園の廊下を四人の学生が、歩いていた。手にはそれぞれ、荷物を持っている。声を掛けたのは、生徒会会計のジェームズ。短い髪が風になびく。父親似で、真面目な人柄である。
「ええ、父が首を長くして待ってますから。」
柔らかな銀色の髪を風になびかせながら、アンジェリカは緑色の瞳を細めた。だが、その顔は、憂いを帯びていた。
「アンジェリカ嬢のオヤジさんは、お嬢にデロデロだからな。」
アルバートが、口を挟んだ。人一倍、多くの書類を腕に持っている。癖のある赤い髪がワッサワッサと跳ねる。一応、生徒会副会長の任を持っている。
「アルバート様は、アンジェリカ様に感謝しなさいよ。会長の仕事、全部アンジェリカ様がして下さったんだから。」
ふわりとした薄い茶色の髪を、片手で撫でながら生徒会書記のシルビア言った。
「解ってる、だから力仕事は俺がやってるだろ。」
自分の持っている物を、シルビアに見せ付けた。アルバート以外は、片手で持てる位の書類であった。
「しかし、クラウス様は春学期出てこなかったわね。」
「馬鹿。」
シルビアの呟きに、アルバートは速攻で答えた。シルビアはそれに気づいて、そっとアンジェリカの方を見る。クラウス殿下の話題は、できるだけ避けて来ていたのに。
「いいのよ。」
アンジェリカは、寂しげに微笑んだ。人形姫と囁かれていた彼女も、生徒会の人達には笑顔を見せる様になっていた。
「殿下に逢うことも出来ないなんて、私 嫌われてしまったのでしょうか。」
「そんな事ありませんわ。ねっ、アルバート様。」
シルビアはアルバートの溝内を、肘で突いた。
『ぐぇ。』と、アルバートは声を上げた。
「そうですよ、アンジェリカ様は真面目すぎます。」
「それ、お前が言うか。ジェームズ。」
真面目にジェームズが答えると、ちゃらけた感じでアルバートが突っ込む。これが、今の生徒会だった。
「そうでしょうか。」
彼女は、首を傾げる。
「男の私達でさえ、逢えないのです。」
「そうそう。この病気が移らないアルバート様でさえ、出入り禁止なのですから。」
「人を馬鹿見たいに、言うなよな。シルビア。」
アンジェリカは、二人の掛け合いにクスクスと笑う。
「仲が、よろしいのね。」
「「よろしくない。」」
二人は、同時に声を上る。アンジェリカは、ますますクスクスと笑らった。
中庭に近い、屋根だけしか無い廊下。木々がザワザワと、風を受けて鳴いている。その木の影から、じいっと見詰める人影があった。
いち早く気が付いたのは、アンジェリカだった。
「クラウス殿下? 」
彼女の言葉に、アルバートとジェームズは『ばっ』と振り返る。
木の影から半分顔を出して、じいっと此方を見ているクラウスがそこにいた。
「えっ、クラウス様? 」
シルビアが振り向こうとした時。
「後は頼んだ、ジェームズ。」
と叫びながら、書類をシルビアに預けて立ち去るアルバート。
「解りました。」
と、ジェームズは頷く。
「ちょっと、重い。重いわよ。」
無理やり押し付けられた書類の重さに、ふらつくシルビア。アルバートは、クラウスを肩に担いで走り去る。それは、一瞬の出来事であった。
アンジェリカは、呆然とそれを見送った。そして、
「よかった。クラウス様が、ご無事で。」
アンジェリカは、書類を胸に抱き締めた。と同時に、シルビアの持っていた書類が花吹雪の様に空へ舞った。
「アルバート、憶えておきなさい。」
シルビアは、空に向かって叫んだ。
その後、三人で書類を全部集める事に奮闘するのであった。


一頻り笑ったアルベルトは、カイゼルに謝りを入れる。
「すまん、すまん。相変わらずお前は、泣き虫だな。」
「泣いてないもん。」
カイゼルは頰を膨らまして、言った。エドガーは、カイゼルの前に立って頰を引っ張った。
「いい年こいた大人の男が、頰を膨らまして『もん。』とはなんだ。」
「痛い。」
「痛くてけっこう、恥を知れ。」
何処かで見た光景が、此処でも繰り返されていた。
そんな事は無視して、ジェラルドはアルベルトに問う。
「それで、クラウス殿下は何処です? 」
「ああ、学園の前で降ろしてきた。」
アルベルトは、答えた。
「何故、連れて来てはくれなかった。どれだけ心配したか。」
カイゼルは、詰め寄った。
「学生の本分は、勉学だからな。」
「今日、終業式だ。」
アルベルトは、頭を掻きながら言った。
「あははっ、そうだったな。」
「「「『あははっ』じゃない!! 」」」
三人が、声を上げた。
「どれだけ私達が心配したか、解ってるんですか。」
「そうだ、そうだ。」
「軍事的にも、どれだけ時間を費やしたか。」
「そうだ、そうだ。」
アルベルトは、三人に責め立てられた。
「お前らも、俺に黙ってたじゃないか。」
「だって、クラウス病気だったもん。」
カイゼルが、頰を膨らまして言った。
「いい年こいた大人の男が、『だって』とか『もん。』とか付けてるんじゃない。」
エドガーは、カイゼルの頰を引っ張った。
「痛い。」
「痛くてけっこう、恥を知れ。恥を。」

「じゃ、俺はこれで。」
隙を突いてアルベルトは、部屋の扉を開く。
「アルベルト様、どちらへ。」
扉の前には、王妃クラリスが立っていた。
その後ろには、執事のジョルジュが控えている。
クラウスの居場所が解った途端、彼は暗部の如くこの部屋を出て王妃の処に知らせに行ったのであった。
「詳しいお話を、聞かせて頂けるのですよね。」
ニコリと、王妃クラリスは微笑んだ。アルベルトの両肩が、捕まれる。右側をエドガー、左側をジェラルド。カイゼルはクラリスの横に立ち、微笑んだ。
「詳しい話しを、聞かせてくれ。アルベルト侯爵。」
カイゼルは、王の権利をチラつかせた。
ちょっとしたイタズラが、大事になったなとため息を付くアルベルトであった。
愛娘、アンジェリカに逢えるのはまだまだ先だった。
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