上 下
29 / 30

彼女、目覚める。

しおりを挟む
凛とした佇まいでマリィアン公爵令嬢はオスカルを庇うために身を呈した。
流れる金髪、きりりとした青色の瞳は恐れることなくロロリイを見つめた。

足を振り下ろそうとするロロリイのピンクの瞳が見開かれる。

(首ちょんぱ令嬢!! )

首ちょんぱ!? 彼女か、彼女が戻ってきたか!!

ロロリイの動きが遅くなった、しかし振り上げた足は止まらない。

「マリィ!! 」

ガシッとロロリイの足が肩に食い込んだ。だらりと右肩が力なく揺れる。

「オスカル様!! 」
「マリィ、大丈夫か? 怪我はないか? 」
身を呈して庇うマリィアンをオスカルもまた身を呈して庇った。ロロリイの足はマリィアンを庇うために抱き締めたオスカルの右肩に食い込んでいた。

折れたか? いや、すんでんの処で脚の力を消したので脱臼ですんだか。でもどうするんだ彼女? 王太子やっちゃったぞ。

(まずい、やっちゃった。これって、私が首ちょんぱ!? )
彼女は腕を組んで二人を見下ろしていた。何故か彼女には恐怖感がない。

(おかしいわ、恐怖感が無い。)
彼女は高揚していた。前世の常識を持つ彼女なら、国家を恐れ王太子を傷つけた事で罪を問われることを恐れただろう。

(むしろ、わくわくしている。)

わくわくて、戦闘民族サ○ヤ人か!! 

「ああ、私はロロリイ・エボックなんだわ。」
彼女は自分がロロリイだと確信を持った。目を瞑り、頬を高揚と赤らめる。

(王太子を傷つけて、きっと多くの者が私を追ってくる。)
ロロリイはうっとりと両手で頬を押さえた。

(沢山の者と戦える。)

サ○ヤ人か!! 

(お母様、お父様、お姉様には悪いけどロロリイは頑張ったわ。)

何を頑張ったんですか!?

(それにこんなシーンは(乙女ゲームで)見たことないわ。)
ロロリイは目の前でイチャつくバカップルを目にする。

「オスカル様、オスカル様!! 死なないで、貴方が亡くなられたらマリィはマリィは生きていけません!! 」
「大丈夫だ、マリィ。私が君を置いて死ぬわけはない。絶対に死なない!! 」
「ああ、オスカル様!! 」
「マリィ、私は君を愛している!! 」
「わたくしも愛しておりますわオスカル様!! 」
たかが脱臼で命の生き死にで盛り上がっている。

「ああ、宜しゅうございましたわマリィアン様。」
「お気持ちが通じ合えたのですね。」
「私達は嬉しく、ございます。」
マリィアンの取り巻き令嬢(他の悪役令嬢)達は涙を流しながら二人を祝福している。

「やっと言ったか、オスカル。」
「お前が言うか? 」
「お前こそ。」
フェルゼンはオスカルの告白をやっと言ったかと言えば、ルイージがフェルゼンにお前もまだ言ってないだろうと突っ込んた。それをアンドレはお前こそ、婚約者に何も言って言ってないだろうとたしなめた。しかしアンドレもまた令嬢に愛の告白はしていなかった。つまりはキラキラ令息達はみんなヘタレであった。

政略結婚の婚約者を本当は思いながら、ヘタレ故に何も言えず。その隙きをロロリイと言うヒロインが突き、ひっちゃかめちゃかにして落としていく乙女ゲームであった。

そう前世の彼女の記憶が戻った為戦闘心を隠してキラキラ令息に近づく筈だったロロリイは、前世の彼女の『攻略対象』『悪役令嬢』と言う戦闘心をくすぐる言葉で開花した。

今ここにいる、ロロリイ・エボックは乙女ゲームの『愛と希望と青春と、私の愛しの王子様♡』(ダサいネーミング)のヒロインではなく。

戦闘をこよなく愛する、戦闘民族エボック家の真の姿の令嬢であった。

「オスカル様。」
「マリィ。」
バカップルの抱擁は続く。

「「「宜しゅうございましたわ、マリィアン様。」」」
取り巻き令嬢(他の悪役令嬢)達は感涙している。

「ロゼリィ。」
「ナタリア。」
「フレデリカ。」
「「「愛している!! 」」」
この雰囲気に便乗してヘタレのキラキラ令息は、婚約者に告白をする。

「「「私も、愛してますわ。」」」
令嬢達は涙を溢れ出しながら、告白に応えた。それぞれ二人、手を取り合い見つめ合う。

バカップルが増えたな。

「よかった、これで首ちょんぱ令嬢は首ちょんぱにならないわね。」

せめて悪役令嬢て言ってやれ。

愛を確かめ合うバカップルに向け何処からか拍手が聞こえた、それに合わせて会場内の令息令嬢は拍手喝采を贈る。会場内が幸せに包まれた。

いいのか!? これで!!





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...