上 下
14 / 30

お詫びの品、袋の中身は。

しおりを挟む
「昨日はやってしまったわ。」
ロロリイは可愛いリボンを付けた袋を抱き締めた。女子寮から学園へと続く廊下を渡りながら彼女は昨日の事を反省していた。
「だって、名前がアライグマなんて笑えるんですもの。」
アライグマではありません、ラスカルです。
「今日はこれを渡して、クマさんの機嫌をとらなくては。」
クマではありません、アライグマです。
「攻略対象じゃ無いけど、機嫌をとっておいて悪くわないわ。あの情報量。」
ロロリイは攻略対象の情報を知るべく、眼鏡君に媚を売ろうとしていた。二階の学園へと続く渡り廊下を歩くその先に、キラキラ輝く金髪を発見した。
「キラキラ王子と公爵令息。」
ロロリイは手すりに手を掛け、ひらりと飛び越えた。ここは二階だが、何時も木の上にから飛び降りていたロロリイにはたいしたことは無かった。
だが下に攻略対象の一人、カフェイン公爵令息が歩いていた。緑の髪で下の芝生と同化していたので彼女は気づくのに遅れをとった。そのまま音もなく令息の背中めがけて、◯◯ダーキックを食らわせた。
グキッと、嫌な音と共に令息は倒れた。そのまま令息は気を失った。
(しまった、殺ってしまった。)
彼女は倒れた令息の横で、頭を抱える。そして思案する、逃げるか助けるか。
「逃げましょう。」
彼女は逃げることを選択した。だが悪いことは続く、雨が降り始めた。
「うそ、雨……。」
ここは学園へと女子寮をつなぐ渡り廊下の下。即ち学園の外れ、校舎裏。そして時間はもう直ぐ学園の始まる時間、誰もここを通らない。放置すれば雨に打たれ、トドメをさしてしまうかもしれない。
「このまま放置すれば、死んでしまうかも。」
(駄目よロロリイ、『かも』は駄目よ。)
ロロリイと彼女の記憶が同化しつつあった。
「確実に見届けないと。」
見届けるかトドメを刺すか。
(駄目よロロリイ。人殺しはよくないわ。)
彼女は現在日本人(お亡くなりなっているが)人殺しはご遠慮したかった。そして何より彼を転がしたのは自分のキック、彼女は罪悪感に苛まれた。
「仕方がないわ、助けましょう。」
(イケメン顔を叩くのは悪いわね。顔が命の攻略キャラだから。)
そう彼女の、ロロリイの力で叩くと凄いことになる。仕方がないので彼女は彼の両肩を持って縦に揺さぶった。

「起きて下さい、起きて。」
可愛い声で声をかける。ロロリイの揺さぶりに、何度か彼は地面に後頭部を打ち付けた。
おかげで、気を失う前後の記憶が彼から飛んだ。ピンクのものが上から落ちて来た記憶が。

「ここは……。俺は……? 」
「こんな所で、眠ってたら雨に濡れますよ。」
ロロリイは可愛いらしく微笑んだ。蹴りを入れて落とした癖によく言ったものである。

「えっ、眠って? 俺、こんな所で? 」
どう見てもちょっと横になろうとは思えない場所であった。
「それでは私、行きますね。」
彼女は直ぐさま立ち上がり、その場を後にする。攻略対象には、関わりたく無かったからだ。
「待って、君は……。」
ピンクリボンを付けた大きな袋を抱き締めた少女は、ピンクの髪を揺らしながら去って行った。

これが、攻略対象ルイージとの出会いだとは彼女は知るよしも無い。まさか自分が落とした事が、出会いになるとは。


教室の中、眼鏡君ことラスカルは窓辺に佇んでいた。クラスメートが静まる中、ロロリイは直ぐに彼に近づいた。

「クマさん。」
「クマさん? 」
「あ、違った。アライグマさん。」
ロロリイはにっこりと笑う。
「アライグマ? 」
怪訝な顔で、ロロリイを見る眼鏡君。ガラスの奥の目が鋭い。
「あ、違った。ラスカル様。」
「………。」
昨日笑われたことを彼は根に持っていた。
「それで? 」
「昨日は、ごめんなさい。」
ロロリイは腕に抱えていた袋を差し出した。
「これお詫び、受け取って。」
可愛い少女が差し出す袋、彼女の事を知らないな者なら心ときめくシーンだ。クラスメート達の目が袋に注がれる。
彼は用心しながらリボンを解き、袋のなかを見た。
もふもふの長い耳らしきものが、見える。
(ヌイズルミ? ウサギの。)
彼は耳を持って袋から取り出した。ヌイズルミにしてはずっしりとする重さ。
「今朝、森で取ってきたの。」
ロロリイは、彼女は、頬を染めて微笑んだ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...