記憶の中の伝説

❄️冬は つとめて

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第一章【完】

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手がとどかない。

彼を救うため突き飛ばした彼女の手を掴もうと、振り向きながら伸ばした手。

今迄いた場所に、彼女のいる場所に、容赦なく瓦礫は落ちてくる。

もうもうと土煙がたち、彼の目に見えるのは虚しく伸ばされた自分の手の甲。

(助けられなかった…… )

彼は、俺は、

土煙がおさまると、下半身が瓦礫に隠された彼女が倒れている。

段々近づいてくる彼女、いや彼が近づいているのだ。彼女は下半身が瓦礫の下にある。動く事などできるはずはない。

ポタポタと彼女の顔に降りそそぐ大粒の雨。いや、涙か。

「泣かないで…… 」
彼女は微笑む。

「大丈夫、だから…… 」

(何が、大丈夫なんだ? )

そっと、彼女が握り込んだ彼の、俺の拳に触れる。

「ここで、さよならだね。」

(痛くないのか、苦しくないのか? )

彼女は微笑む。

「もう、十分だよ。」

(何が、十分なんだ? )

微笑む彼女。

「今迄、ありがとう。」

(何故笑っていられる? )

満面の笑みを彼に、俺に向ける彼女。

「後はわたしが…… 」

(後? 後ってなんだ? )

彼女は彼の、俺の後ろに目を向ける。後ろに誰かが立っている。

「彼を、おねがい…… 」

「はい。承りました、ーー様。」

(彼女の名前、思い出せない。)

立っている者が、彼の横で膝を付く。薄紫色の髪が頭を下げたことで顔を隠している。女性のようだ。

「ありがとう、マリ…… 」

(駄目だ、駄目だ!! 死なないでくれ!! )

静かに目を閉じる、彼女。目に見えるのは大地を削り取っている彼の、俺の握り拳。

「いつまでそうしているつもり。ーーを、助けたくないの? 」

(助ける、どう言うことだ? )

俺は、彼は顔を上げる。

そこには女性が立っていた。

「それはーーの傀儡。彼女の本体は彼処にある。」
女性が見つめる先に目を向けると、そそり立つ大きな塔が見える。

「(あそこに、彼女が…… )」

俺と彼の、意識と声が重なった。









目の前にレストの顔があった。
ベットに寝かされたシンを覗き込むように上から見ている。

「目が覚めたようだなシン。」
「彼女は…… 」
「彼女? 」
レストは横にいるマリリンを持ち上げた。

「ラブリーちゃんなら、無事だ!! 」
「ラブリーじゃないわ、マリリンよ!! ちょっと、おろしなさいよ!! 」
ベットの横でレストに、高い高いされるマリリン。怒ったマリリンが、レストの大切な部分に猫キックを食らわせる。静かにマリリンを降ろして、前屈みに座り込むレスト。

「彼女じゃないけど、ラッシュなら無事よ。」
「ラッシュ…… 」
ズキッと頭が痛んで手を当てる、手に布の感触が感じる。

「どこまで覚えてる? 」
「……… 」
マリリンに目を向けるシン。

「そうね、あの後。」

シンの伸ばした手はラッシュの腕を掴んた。その時、小さな瓦礫がシンの顔(額)にぶつかった。

そこからシンは意識を飛ばしたのである。

「シンが意識を飛ばしたから、アイテムの『帰還の札』が生命の危機として発動したのよ。」

そう、生命の危機を発動しないレア物の帰還の札である。

「助けてくれてありがとう、と言っていたわ。」

「俺の手はとどいたのか…… 」
「ええ、とどいたわ。」
シンは呟きながら自分の手を見ている。その耳にマリリンの優しい声が聞こえる。
 

東の塔【ミネルヴァ神殿】から近くの村に運ばれたシン。

東の塔が崩れ落ち崩壊した。
上からの崩壊で、下にいた者達は無事に脱出できていた。妖魔が消えていたおかげでもある。

東の塔が崩れたことにより、世界のマナの流れか何かが変わり転移魔導が使えなくなってしまった。
人々は、歩きか馬車移動となってしまった。 

冒険者達は崩壊した塔の近くの暫く近くの村ブックに逗留し、散り散りにその村を離れていった。


彼等はまだ知らない。


伝説の扉が、再び開こうとしている事を。



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