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夢。
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彼は走る。
薄暗く開けた空間のひとつの道を、白く輝く光に向かって。
彼は走る、走る。
ある少女の名前を呼んで。
彼女は微笑む、彼に。
彼の伸ばした手は彼女に届かない。透明な何かによって阻まれる。
彼は叫ぶ、彼女の名を。
何度も、何度も。
静かに、彼女はその中に溶け込むように消えていった。
彼は、俺は、悲痛な声をあけて、
目覚める。
「で、その娘てカワイイい? 」
彼の目の前に座る話を聞いていた男が聞き返す。薄緑色したサラリとした髪の顔立ちの優しい男の名はレスト。
「お前の気になるところは、そこか…… 」
はぁーと、ため息をつくのは夢を見ていた男。短い赤毛の強面の青年シン。
「どうぜんだろ!! やはりカワイイとテンション上がるだろ!! 」
「いやお前、女性だったら何時もテンション上がってるだろ。」
レストの言葉に再びため息をつくシン。
この世界で18歳となったからと、親に家から追い出されたシン。旅に出ろと、軍資金をもらって。
それに村を追われた、幼馴染のレストであった。
ざわざわとざわめくギルド内の朝の食堂で、安いお酒を飲みながらシンは近頃見出した夢をレストに相談していた。
悲痛なほどの悲しみと無力感を。
「それはきっと神様の御告げだ。シンも恋をせよとの、命短し~恋せよ乙女~♪と。」
「はぁーー お前に相談した俺が馬鹿だった。」
シンはエールを飲み干した。
村から旅立って一年、親からの旅立ちの軍資金はレストのお陰で既に底をついていた。後ろ盾のないシン達が簡単に金を稼ぐとなれば、なんでも屋しか他ならなかった。
彼等は冒険者として、今日これからダンジョンと化した古代遺跡へと向かう予定である。
彼等シンとレストは人間族である。壊れた世界に適合する為に融合した人類と別に、人間のまま世界に適合出来た生き残りであった。
新しい種である人類は、融合した獣の特徴を持つ者である。犬耳・猫耳・兎耳を持つ者は数多く。植物と融合した人類は、エルフと呼ばれ尖った耳を持つ。
それぞれの人類は、その種の特徴的な身体能力と固定された魔法を使い。生き残りし人間種は人それぞれにひとつの魔法を使う。
しかし再生した世界で、人間種は繁殖力が強く人類の種体になっていた。
「そろそろ行くか。」
夢の中の少女の残像を振り払いシンは席を立つ。厚手に作られた体にピッタリのハイネックのタンクトップの服と、フード付きのマント。親から譲り受けた剣の他に短剣を腰にさしている。ごく普通の冒険者が着る厚手の長袖の服と普通のマント、手に槍を持ってレストも席から立ち上がる。
「今からでもカワイイ娘ちゃん、勧誘しない? 」
「するか、阿呆!! 」
「えーーっ、女子がいると頑張れるのに!! 」
レストは今からでもパーティーに女の子を入れようとシンに打診する。だがきっぱりとシンは拒否する。
「お前、女性に気を取られて連携も何も合ったもんじゃないだろ。」
「えーーっ、女の子は守らなきゃ!! 」
「はあーーっ。」
シンはため息をつく。
レストが勧誘していた女性とパーティーを組んだ時、散々な目に合ったシンである。
『女性を守るは、紳士のつとめ。』
とか言って、女性を守って戦闘に加わらなかったのはつい最近の出来事だ。その時シンは一人で妖魔と戦った。
「組むなら、男だ。」
「男は、嫌だね!! 」
と、言う訳で彼等は何時も二人パーティーであった。
席を離れよう体を動かした時、シンは誰にぶつかった。
「あ、悪い。」
ぶつかった相手が振り向く、サラリと黒髪が流れた黒い瞳が細められる。少し会釈をして去って行く。
シンは目を見開いて、立ち尽くした。声も出ない。
「おい、どうしたんだシン。」
立ち尽くしているシンに声をかけるレスト。
「似ている…… 」
「えっ? 」
「彼女に…… 」
「夢の中のか!? 」
ギルドの出口を見つめながらシンは応える。
「クソ!! どこだ、カワイ娘ちゃん!! 」
きょろきょろと辺りを探すレスト。そこにはむさ苦しい男ばかり。
「くそっ、行くぞシン!! カワイ娘ちゃんを見つけ出すぞ!! 」
シンの方を掴み、はりきるレストであった。
薄暗く開けた空間のひとつの道を、白く輝く光に向かって。
彼は走る、走る。
ある少女の名前を呼んで。
彼女は微笑む、彼に。
彼の伸ばした手は彼女に届かない。透明な何かによって阻まれる。
彼は叫ぶ、彼女の名を。
何度も、何度も。
静かに、彼女はその中に溶け込むように消えていった。
彼は、俺は、悲痛な声をあけて、
目覚める。
「で、その娘てカワイイい? 」
彼の目の前に座る話を聞いていた男が聞き返す。薄緑色したサラリとした髪の顔立ちの優しい男の名はレスト。
「お前の気になるところは、そこか…… 」
はぁーと、ため息をつくのは夢を見ていた男。短い赤毛の強面の青年シン。
「どうぜんだろ!! やはりカワイイとテンション上がるだろ!! 」
「いやお前、女性だったら何時もテンション上がってるだろ。」
レストの言葉に再びため息をつくシン。
この世界で18歳となったからと、親に家から追い出されたシン。旅に出ろと、軍資金をもらって。
それに村を追われた、幼馴染のレストであった。
ざわざわとざわめくギルド内の朝の食堂で、安いお酒を飲みながらシンは近頃見出した夢をレストに相談していた。
悲痛なほどの悲しみと無力感を。
「それはきっと神様の御告げだ。シンも恋をせよとの、命短し~恋せよ乙女~♪と。」
「はぁーー お前に相談した俺が馬鹿だった。」
シンはエールを飲み干した。
村から旅立って一年、親からの旅立ちの軍資金はレストのお陰で既に底をついていた。後ろ盾のないシン達が簡単に金を稼ぐとなれば、なんでも屋しか他ならなかった。
彼等は冒険者として、今日これからダンジョンと化した古代遺跡へと向かう予定である。
彼等シンとレストは人間族である。壊れた世界に適合する為に融合した人類と別に、人間のまま世界に適合出来た生き残りであった。
新しい種である人類は、融合した獣の特徴を持つ者である。犬耳・猫耳・兎耳を持つ者は数多く。植物と融合した人類は、エルフと呼ばれ尖った耳を持つ。
それぞれの人類は、その種の特徴的な身体能力と固定された魔法を使い。生き残りし人間種は人それぞれにひとつの魔法を使う。
しかし再生した世界で、人間種は繁殖力が強く人類の種体になっていた。
「そろそろ行くか。」
夢の中の少女の残像を振り払いシンは席を立つ。厚手に作られた体にピッタリのハイネックのタンクトップの服と、フード付きのマント。親から譲り受けた剣の他に短剣を腰にさしている。ごく普通の冒険者が着る厚手の長袖の服と普通のマント、手に槍を持ってレストも席から立ち上がる。
「今からでもカワイイ娘ちゃん、勧誘しない? 」
「するか、阿呆!! 」
「えーーっ、女子がいると頑張れるのに!! 」
レストは今からでもパーティーに女の子を入れようとシンに打診する。だがきっぱりとシンは拒否する。
「お前、女性に気を取られて連携も何も合ったもんじゃないだろ。」
「えーーっ、女の子は守らなきゃ!! 」
「はあーーっ。」
シンはため息をつく。
レストが勧誘していた女性とパーティーを組んだ時、散々な目に合ったシンである。
『女性を守るは、紳士のつとめ。』
とか言って、女性を守って戦闘に加わらなかったのはつい最近の出来事だ。その時シンは一人で妖魔と戦った。
「組むなら、男だ。」
「男は、嫌だね!! 」
と、言う訳で彼等は何時も二人パーティーであった。
席を離れよう体を動かした時、シンは誰にぶつかった。
「あ、悪い。」
ぶつかった相手が振り向く、サラリと黒髪が流れた黒い瞳が細められる。少し会釈をして去って行く。
シンは目を見開いて、立ち尽くした。声も出ない。
「おい、どうしたんだシン。」
立ち尽くしているシンに声をかけるレスト。
「似ている…… 」
「えっ? 」
「彼女に…… 」
「夢の中のか!? 」
ギルドの出口を見つめながらシンは応える。
「クソ!! どこだ、カワイ娘ちゃん!! 」
きょろきょろと辺りを探すレスト。そこにはむさ苦しい男ばかり。
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