【小ネタ集②】虐げられた、令嬢は……

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
上 下
15 / 16
人の振り見て我が振り直せ。  ✥

それが、殿下の考えなのですね。【上とは別の話です。前編】

しおりを挟む
「近く、ありませんこと? 」
目の前で肘が触れ合う程近くで勉学に励んでいる男女に一言、女生徒は物申す。

「えっ、あっ、そうかなっ? 」
その言葉に男子生徒の方が距離を取ると。

「えーーっ、そんなことないよ~~ 」
女子生徒の方は離れる男子生徒に、椅子ごと近づく。

「近くじゃないと、よく見えないし~~ 」
語尾の甘い喋り方で、男子生徒に近づく。肘にその女子生徒の胸の柔らかい感触に、男子生徒顔を赤らめる。

「アイボン令嬢。メディカル子息が、困ってますよ。」
柔らかく、と彼女ティアーレ・フォン・オフテクス公爵令嬢はアイリス・アイボン男爵令嬢に言っていた。

「えっ、そうなの? サンテさま~ 」
覗き込むように上目遣いで男子生徒を見上げアイリスに、サンテは困ったような嬉しそうな複雑な笑顔を彼女に向ける。

「メディカル子息! 」
「あ、喉乾いたな~ お茶、お茶。」
ティアーレの非難する目に、サンテは立ち上がってその場を離れた。

「アイボン令嬢。何度も言いますが、気安く殿方を名前で呼んだり触れるのは淑女としてよくありませんわ。」 
「はい、はーーい。」
ティアーレは注意をするが、アイリスは聞く耳をもたない。

「何か揉め事かい? 」
生徒会室の扉が開いて入って来た生徒会長は、ティアーレの声に反応する。

「殿下。」
「ロートさま~~ 」
ロートに縋り付こうとアイリスは立ち上がったが、ワイビー伯爵令息が身を呈して間に入った。

当然だ、ロート・フォン・アルガードはこの国の王太子殿下である。気安く触れる事は許されない、婚約者でもあるまいし。

「ロートさま~~ 」
ワイビー子息に阻われながらも、語尾の甘い喋り方でロートの名を呼ぶ。

「ティアが、声を荒げるなんて珍しいな。」
「そうなんです!! ティアさまが、酷いんです!! ロートさま~~ 」
「酷くはありません。淑女としての基本を言っているだけです。」
ティアーレはアイリスの言葉を否定する。

「そんな強い言い方しなくてもいいじゃない!! ぐすっ…… 」
アイリスは涙を流して泣き出した。

「アイボン令嬢、すぐに泣くのもやめなさい! 」
「ロートさま~~ キュアスさま~~ ティア様はアイリスに酷い言葉をぶつけるんです~~ 」
ワイビー子息に阻われながらも、とした瞳を必死にロートに向ける。勿論キュアス・フォン・ワイビー伯爵令息に縋りつきながら。

アイリスの言葉に、ぴくりと反応するロート。

「アイボン令嬢。気安くの名前も呼ばないでくださいませ。」
ティアーレは再びアイリスを叱咤する。

「貴方とは友達になったつもりは、ありません! 」
「ひ、ひどい!! アイリスが、市井しい育ちだからて差別するんだ!! 」
うううっ、とワイビー子息に縋り付いて泣き出した。

「差別ではありません。礼儀をわきまえない貴方とは、友達にはなれません。」
ティアーレは、毅然と言った。

「貴方が生徒会室ここにいられるのは、淑女の基本をわたくしが教えるためです。なのに、貴方はわたくしの言葉を聞こうともしない。」
市井しいで育ったアイリスが生徒会室にいるのは、淑女として振る舞いができなさ問題をおこしすぎて強制収容保護をしていたのである。

「憶える気がないのなら、生徒会室ここには来る意味がありませんわ。」
「ひどい!! アイリスだって、がんばってるのに~~!! 」
と、瞳を潤ませながらロートに近づこうと体を動かす。だが、ワイビー子息の捨て身のガードは鉄壁であった。

「語尾を延ばすのはおやめなさい。自分を名前で呼ぶのも、子供ではないのですからおやめなさい。」
ティアーレは、次から次へとアイリスの駄目な部分を指摘する。

「ひどい、ティア様は意地悪です!! そうやってアイリスを虐めるのです~~ 」
アイリスもワイビー子息にしがみつきながら負けずに言い返す。

「まあ、まあ、2人共落ち着いて!! 」
先程席を立ったメディカル子息がお茶を入れて戻って来た。

「取り敢えず、落ち着いてお茶でも飲んで!! 」
メディカル子息は机の上にトレーごと皆の数のカップを置いた。

「さあ、みんな座った! 座った! 」
メディカル子息が場を明るくするために笑顔で言った。

「サンテさま~~ ティア様がひどいんです~~ 」
アイリスはメディカル子息に直ぐ様飛びついた。腕を絡ませて胸を押し付け、した瞳でメディカルを見上げた。

「あ、そう。うん。オフテクス様は言い方がきついかな~ 」
嬉し恥ずかし、鼻の下を伸ばしながら応える。

「メディカル子息。リセリア様に言いますよ。」
冷たい目で冷たい言葉を呟いた。

リセリアとは、メディカル子息の婚約者である。

ガタンと椅子にあたりながら、アイリスの腕から自分の腕を引き離す。だが、アイリスは底なし沼の泥のように離そうとしない。

「サンテさま~~ 」
縋り付くアイリスを引き離しなんとかに避難する。恐ろしくも尊い、王太子殿下ロートの後ろに。なぜなら、ロートを護る鉄壁のワイビーガードがいるからだ。


「アイボン令嬢、いい加減になさいませ!! 殿方に安易に近寄りすぎです。」
「きゃ~~ こわい~~ ロートさま~~! 」
本当はロートに縋り付きたかったが、鉄壁のワイビーに縋り付いた。

「市井ではこれくらい、普通なんです~~ 」
「此処は市井ではありません!! 殿下への言葉遣いもあらためなさい!! 」
猫なで声でロートに訴えるアイリスに、ティアーレは叱咤する。

「そうか…… 市井では普通なのか。」
「殿下? 」
ロートは呟いた。

「そうなんです~~ 普通なんです~~ 」
縋り付こうとするアイリスに、鉄壁のガードのワイビー子息。

「ならば、仕方ないな。」
「殿下、此処は市井ではありませんわ。」
ティアーレの声にロートは顔を上げる。

「市井ではないが、私達は。少しぐらい、いいのではないか。」
ロートはティアーレを見つめて、微笑んだ。

「でしょ~ でしょ~ でしょ~~ 」
アイリスは勝ち誇ったように声をあげた。

「ロートさまもこう言ってるんだから~~ ティア様。」
鉄壁のワイビーからティアーレに顔を向けて、勝利の微笑を向けた。

「それが、殿下の考えなのですね。」
「そうだね。だか「わかりましたわ。」
応えたロートの言葉に被せるようにティアーレは返事をした。

「わたくし、失礼致します。」
ティアーレは強張った顔のまま生徒会室を出ていった。

「ティアは、なにを怒っているんだろう? 」
ロートはワイビー子息に振り向いて聞いた。

「そりゃ、怒るだろ。」
応えたのはメディカル子息であった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

私は恋をしている。

はるきりょう
恋愛
私は、旦那様に恋をしている。 あれから5年が経過して、彼が20歳を超したとき、私たちは結婚した。公爵家の令嬢である私は、15歳の時に婚約者を決めるにあたり父にお願いしたのだ。彼と婚約し、いずれは結婚したいと。私に甘い父はその話を彼の家に持って行ってくれた。そして彼は了承した。 私の家が公爵家で、彼の家が男爵家だからだ。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

処理中です...