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闇は形をもち、闇猫に。

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『何か変なことを考えていないか、お前は。』
「変なことなど考えていない。真面目に考えている。」
『お前は馬鹿だから、よく変なことを考えている。』
「馬鹿!? 」
馬鹿と言われてリンネルは、声を上げた。
『そうだ、お前は何時も馬鹿だ。』
闇は応える。
「良かった。」
『何が良い? 』
「だって、馬鹿は死んだら治るらしいから。ほら『馬鹿は死ななきゃ治らない』て、言うだろ。」 
押さえ付けられながらも、リンネルは笑顔で応えた。
『死なないと、治らないのだぞ。それの何処が良いのだ。』
「だって、もう直ぐ死ぬ予定だし。」
『何故、死ぬ。』
「君のご飯に成るから。」
リンネルは屈託無く、微笑む。
「さあ、ひと思いに。出切れば痛くなく。生きたまま、勘弁してくれ。」
目を閉じて、最後を待つ。

『やはりお前は馬鹿だ。俺はお前を食べたりはしない。』
「えっ? 食べないの。なら降りてくれないかな、私はお腹が空いてるんだ。」
覆い被さる闇に恐れることなく言う。
「早くー。お腹が鳴るー!! 」
闇は仕方がなく、リンネルから降りた。リンネルは立ち上がると転がったパンを手に取り砂を払った。
「食べれることに、喜びを。」
祈ると、ぱくっと噛みついた。
闇は茫然とした感じでその場に蹲っている。気付いたリンネルは
「ひみ、もぐっ。も、もぐっ。はべる、もぐっもぐっ。」
と聞いた。
『食ってから、喋れ。』
ごっくんと、飲み込む。
「君も食べる? 美味しいよ。」
大口で食べた後のあるパンを差し出す。赤い光か細まった。
「ヘンリーが用意させたパンだから、柔らかくって美味しいよ。」
ここら辺が口かな と、いう処の闇に押し付ける。
「ほら、ほら。あーん。」
闇は、形を保ってくる。大きな黒豹。では無く、大きな猫の姿に固定しつつあった。それはリンネルが、可愛がっていたあの黒猫がそのまま大きくなった姿。
(あ、やっぱり猫。)
ぐいぐいと、口元にパンを押し付ける。
「ほら、ほら、遠慮せず。」
『いらぬ。』
闇は猫パンチをパンに食らわせた。
パンが弾け飛び、ころころと転がる。
リンネルはパンを追い掛けた。
(そうか、猫は肉食か。)
パンを拾うと砂を払い、齧りついた。
パンを加えたまま鞄をあさる。
(確か、チキンがあった筈。)
チキンを鞄から取り出す。片手に持って闇に近づく。
「もぐっ、もぐっもぐっ。」
『食ってから、喋れ。チキンは食わんぞ。』
(チキンは嫌いか。)
リンネルは鞄へと、踵を返した。
(確か、他の肉が。)
もう一方の手に別の肉を持つ。右手にチキン、左手に何かの肉。口元にはパンを頬張っている。
闇の猫は絶句した。トコトコと、リンネルは近付いてくる。なんかの肉を、闇猫に押し付けようと手を出した。
『俺は、何も食べない!! 』

ぽろっと、リンネルの口からパンが転がり落ちた。
「何も食べない? 」
『そうだ、俺は食事はしない。』
リンネルは驚愕して膝を着いた。手はチキンと何かの肉を持っている。
「そんな……。食べれる喜びを知らないなんて。」
『俺は食べなくても存在できる。俺は、(ガボッ)』
リンネルは闇猫が喋る為に開けた口にチキンを突っ込んだ。
「騙されたと思って、食べてごらん。美味しいから。」 
口の中にチキンを放り込んで、口を押さえる。口の中から出ないように両手で押さえ込んだ。
「もぐっ、もぐっもぐっ。」
リンネルの口元には何かの肉が食わえられていた。
『だから、食ってから喋れ!! 』
(あれ、口を押さえてるのに声が聞こえる。何でかな? )
リンネルは、もぐもぐと何かの肉を食べた。
「ほら、君も。もぐっもぐっもぐっ。」
闇猫の口を押さえたまま、子供に言うように促す。食べるまで離さないと解った闇猫は、仕方なくチキンを食べた。ごっくんと喉の鳴る音がする。

「ねっ。美味しいだろ。」
ドキドキしながら、リンネルは闇猫に聞いた。リンネルは闇猫に食べる喜びを知って欲しかった。
リンネルのキラキラした目に、闇猫は仕方なく応えた。
『まあな。』
途端、リンネルは満面の笑みを闇猫に送った。
「まだあるよ。食べる? 」
『もう…いい。』
闇猫は、リンネルから目を反らした。笑顔が眩しすぎたからだ。
「そう? あっ。」
リンネルは立ち上がって転がり落ちたパンを拾う。砂と払って、再び食べ出した。
「もぐっもぐっ、もぐっ。」
『だから、食ってから喋れ。』
ごっくん。
「君、名前は? 」
『名前など無い。』
リンネルは目を開いて、そして細めた。闇猫に近づき微笑んだ。
「じゃあ、私の名前をあげるよ。」
『お前の名前? 』
「リンネルて、言うんだ。お祖父様と同じ名前。君にあげるよ。」
『俺に名前をくれて、お前は如何する? 』
首を傾げながら闇猫は問いただした。

「大丈夫。私はもう直ぐ死ぬから。君が、その名前を貰ってくれると嬉しいな。」
『お前はさっきから、死ぬ死ぬと。』
闇猫はイライラしてきた。

「仕方がないよ。食料が一週間分しかないから。」
リンネルは、闇猫の頭を撫でた。

「私の名前を、君にあげる。」
嬉しそうにリンネルは、闇猫に抱き着いた。


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