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アテムを抜けさせたい理由。

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不思議なほどにギルド内は静まり返っていた。居酒屋で飲んでる冒険者達は『ディールークルム』の話を耳をすまして聞いていた。セト達は目立った、どう見てもアテムは麗しいハーレムの中にいる羨ましい男であった。アテムが抜けるなら「俺が」と言う男は数多く存在していた。男達は内心アテムに『ざまぁ』と細笑んでいた。


「どうしてみんなは、僕をパーティーから抜けさせようとするんだい? 」
テーブルを拭きながらアテムはみんなに問いかけた。

「貴様は、戦いの邪魔だ。」
セトが腕を組んで見下すように言った。床を拭こうと給仕が持ってきた雑巾を取り上げ、アテムはエールが溢れた床を屈んで拭いている。

「そうよ、メーワクなの。」
「アテムがいると、私達強くなれないの。」
「同感だ。」
セトに続いて、三人の幼なじみは辛そうに言った。

「そ、そんな……。でも僕は役に立ってるだろ。」
アテムはセトの足に縋り付く。セトは思いっ切りアテムを蹴り離した。ころころと床を転がるが、直ぐに起き上がった。

「冒険の時はみんなの荷物を持ったり。」
床に手を付き鼻血を流しながらアテムはみんなに自分の必要性を説明する。

「それは……感謝している。」
「そうね、有り難いわ。」
「重たいのは嫌。」
三人の幼なじみは頷く。アテムはみんなの荷物を冒険の旅の間、一人で担いでいた。

「宿の手配も依頼の確保も、僕がやってるし。」
「それは……感謝している。」
「そうね、有り難いわ。」
「だって、朝は苦手。」
アテムは一人でどんなに遅くなっても泊まれる宿を見つけ出し、朝は早くからギルドに行き依頼を取って来る。

「武器の手入れもお金の管理も、僕がしているし。」
「それは……感謝している。」
「そうね、有り難いわ。」
「お小遣い上げて!! 」
アテムは一人で夜遅くになってもみんなの武器の手入れを欠かしたことはない、おまけにパーティーの家計簿も付けていた。みんなはアテムにお小遣いを貰って使い放題だった。

「それに、野営の時は必ず僕が寝ずの番をしてるだろ。」
「それは……感謝している。」
「そうね、有り難いわ。」
「だって、眠いし!! 」
アテムは一人で野営の時は寝ずの番をしていた、それが何日続いてもセト達にやらせたことはない。ついでに食事の用意と野営の準備もアテム一人でやっていた。

「ねっ、僕は役に立ってるだろ。」
アテムは満面の笑みでセトの足に縋り付いた。ついでにすりすりと頬を太ももに擦り付ける。ツツーッと、赤いものが一筋鼻の下を流れる。

「キモいんだ、貴様は!! 」
セトは長く細い脚でアテムを蹴り上げた。アテムはころころと床を転がる。

「戦闘の時に、貴様は邪魔だ!! 」
セトが立ち上がって、アテムを見下ろす。ついでに踏み付けた。

「そ、そうよ、アテムあなたは邪魔なの。」
「同感だ、アテムがいると強くなれない。」
「あたし達、強くなりたいの!! 」
三人の幼なじみもセトに同意する。

「そんな……僕はみんなの為に……。」
アテムは拳を握りしめた。何時だってアテムはみんなの為に頑張ってきた。みんなに頼られているとずっと思っていた。みんなの為に馬車馬のように、朝から夜遅くまで奉仕し続けていた。

「僕の、僕の、何がいけなかったの? 」
アテムは震えながら言った。

「言ってくれ、何がいけなかったのか。直すから、みんなの為に直すから。お願いだ、僕を見捨てないで。」
アテムは床に座り込んて、縋るようにセト達を見つめた。

ごくりっと、居酒屋の静まり返った部屋に唾を飲む音が響いた。

ゆっくりとセトが動いた。

「ならば、敵を総て倒すな。」
「そうよ、自分一人で総て倒すなんて。」
「強くなれない。」
「魔法撃ちたい!! 」
セトに続いて、三人の幼なじみもアテムを非難した。

「えっ、だって危ないし。」
アテムは普通に答えた。






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