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やっぱり、私は悪役令嬢。
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次々と前の席から学生の自己紹介が続く。
「私は、ピーチア・リンク。趣味は体を動かすこと、現在彼氏募集中でーす。」
一人の女生徒が立ち上がり、自己紹介をする。肩までのフワリとしたピンクの髪が見える。
「ヒロイン!? 」
リリースは目を見開いて、悲鳴が出そうな口元を手で押さえた。
《ピーチア・リンク男爵令嬢。一年、スポーツ万能天真爛漫。好きな物は運動と甘い物。》
(間違いない、あのイラストの…… やっぱりここは乙女ゲームの世界なのね。)
カタカタとリリースの体が震えだす。乙女ゲームではないと安心した処に、ダミアンとの未来を夢見た処で足元が崩れ落ちた。絶望がリリースを襲った。
(酷い、酷いよ。諦めていたのに、期待させて。神様の意地悪。)
一度溢れ出した気持ちは、止めることはできない。リリースは自分からダミアンを奪うヒロインの顔を睨みつけた。憎しみと嫉妬が溢れる。
(これが乙女ゲームの矯正力。やっぱり私は悪役令嬢になって、ヒロインを虐めるんだ。)
リリースは唇を噛み締めた。
「リリー、どうしたのあの令嬢が何か? 」
「ダミアン様!! 」
(いや、見ないで!! 見たらきっと好きになっちゃう。)
「気分が悪いの、保健室に行きたい。」
「ああ本当だ、気づかなくてごめんね。リリー。」
真っ青のリリース。ダミアンはそっと抱きかかえるようにリリースを抱きしめて、教師に伝えて教室を出る。
保健室には誰もいなかった。
取り敢えずダミアンはリリースを椅子に座らせる。椅子に座り呆然としているリリース。
「大丈夫。何処か痛いところは? 」
「胸が、胸が痛いよ~。」
(ダミアン様は彼女を好きになっちゃうだ。私、虐めちゃう、ぜったい虐めちゃうよ。そして絞首刑になっちゃうんだ。)
ぽろぽろ涙が溢れる。
「リリー、リリー、泣かないで。」
ダミアンは椅子に座っているリリースを立ったままで抱きしめる。リリースの涙がダミアンのお腹の辺りを濡らす。
「誰が君を泣かすんだ? 」
(あの令嬢か…… )
ダミアンの黒い瞳すぅーと細まる。
リリースは暫くの間、ダミアンに抱きついて放さなかった。
「大丈夫? 」
「うん。ごめんなさい、ダミアン様。」
リリースは泣き顔を見られたくなくて、両手で顔を覆っていた。
「リリーの泣き顔も可愛いけど、笑顔の方がもっと素敵だよ。」
リリースの両手を離しながら顔を覗き込み、微笑むダミアン。優しく額にキスをひとつ。ぼっ、とリリースが顔を赤く染め上げた。
「あの~。」
保健室のドアからピンクの髪の女生徒が顔を出す。ピーチア令嬢だ。
「君は…… 」
「お邪魔しま~す。」
返事も聞かずにピーチア令嬢は保健室に入ってきた。
ダミアンは彼女を見た。じっとピーチア令嬢を見つめる。そんなダミアンにピーチアは、弾ける笑顔を向けた。
(嫌だよ、やめて。)
見つめ合う二人にリリースは声を上げた。
「貴方、返事もないのに勝手に入って来るなんて。礼儀も知らないのかしら。」
「リリー? 」
リリースは立ち上がって前に出る。自分でも驚くほどの冷たい声が、リリースの口から発せられる。ダミアンも驚いた顔でリリースを見ていた。
「ご、ごめんね。」
両手を合わせて首をくすませ謝るピーチアに、その可愛らしさにリリースはイラッとくる。
弾けるような笑顔と明るく可愛らしい顔のピーチア、それに比べて自分はツリ目のきつい顔。
「どうしたんだ、リリー。何時もの君らしくない。」
「私は、淑女として彼女に礼儀を教えて差し上げているだけですわ。」
自分に驚いた目を向けるダミアンに、悲しくなる。
(ああ……やっぱり私は悪役令嬢なんだ。そしてダミアン様に嫌われちゃうんだ。)
苦しくて悲しくてリリースはその思いを、目の前のピーチアに向けて睨みつける。
(乙女ゲームの矯正力からは、逃れられないんだ。)
リリースは静かに目を閉じた。
「私は、ピーチア・リンク。趣味は体を動かすこと、現在彼氏募集中でーす。」
一人の女生徒が立ち上がり、自己紹介をする。肩までのフワリとしたピンクの髪が見える。
「ヒロイン!? 」
リリースは目を見開いて、悲鳴が出そうな口元を手で押さえた。
《ピーチア・リンク男爵令嬢。一年、スポーツ万能天真爛漫。好きな物は運動と甘い物。》
(間違いない、あのイラストの…… やっぱりここは乙女ゲームの世界なのね。)
カタカタとリリースの体が震えだす。乙女ゲームではないと安心した処に、ダミアンとの未来を夢見た処で足元が崩れ落ちた。絶望がリリースを襲った。
(酷い、酷いよ。諦めていたのに、期待させて。神様の意地悪。)
一度溢れ出した気持ちは、止めることはできない。リリースは自分からダミアンを奪うヒロインの顔を睨みつけた。憎しみと嫉妬が溢れる。
(これが乙女ゲームの矯正力。やっぱり私は悪役令嬢になって、ヒロインを虐めるんだ。)
リリースは唇を噛み締めた。
「リリー、どうしたのあの令嬢が何か? 」
「ダミアン様!! 」
(いや、見ないで!! 見たらきっと好きになっちゃう。)
「気分が悪いの、保健室に行きたい。」
「ああ本当だ、気づかなくてごめんね。リリー。」
真っ青のリリース。ダミアンはそっと抱きかかえるようにリリースを抱きしめて、教師に伝えて教室を出る。
保健室には誰もいなかった。
取り敢えずダミアンはリリースを椅子に座らせる。椅子に座り呆然としているリリース。
「大丈夫。何処か痛いところは? 」
「胸が、胸が痛いよ~。」
(ダミアン様は彼女を好きになっちゃうだ。私、虐めちゃう、ぜったい虐めちゃうよ。そして絞首刑になっちゃうんだ。)
ぽろぽろ涙が溢れる。
「リリー、リリー、泣かないで。」
ダミアンは椅子に座っているリリースを立ったままで抱きしめる。リリースの涙がダミアンのお腹の辺りを濡らす。
「誰が君を泣かすんだ? 」
(あの令嬢か…… )
ダミアンの黒い瞳すぅーと細まる。
リリースは暫くの間、ダミアンに抱きついて放さなかった。
「大丈夫? 」
「うん。ごめんなさい、ダミアン様。」
リリースは泣き顔を見られたくなくて、両手で顔を覆っていた。
「リリーの泣き顔も可愛いけど、笑顔の方がもっと素敵だよ。」
リリースの両手を離しながら顔を覗き込み、微笑むダミアン。優しく額にキスをひとつ。ぼっ、とリリースが顔を赤く染め上げた。
「あの~。」
保健室のドアからピンクの髪の女生徒が顔を出す。ピーチア令嬢だ。
「君は…… 」
「お邪魔しま~す。」
返事も聞かずにピーチア令嬢は保健室に入ってきた。
ダミアンは彼女を見た。じっとピーチア令嬢を見つめる。そんなダミアンにピーチアは、弾ける笑顔を向けた。
(嫌だよ、やめて。)
見つめ合う二人にリリースは声を上げた。
「貴方、返事もないのに勝手に入って来るなんて。礼儀も知らないのかしら。」
「リリー? 」
リリースは立ち上がって前に出る。自分でも驚くほどの冷たい声が、リリースの口から発せられる。ダミアンも驚いた顔でリリースを見ていた。
「ご、ごめんね。」
両手を合わせて首をくすませ謝るピーチアに、その可愛らしさにリリースはイラッとくる。
弾けるような笑顔と明るく可愛らしい顔のピーチア、それに比べて自分はツリ目のきつい顔。
「どうしたんだ、リリー。何時もの君らしくない。」
「私は、淑女として彼女に礼儀を教えて差し上げているだけですわ。」
自分に驚いた目を向けるダミアンに、悲しくなる。
(ああ……やっぱり私は悪役令嬢なんだ。そしてダミアン様に嫌われちゃうんだ。)
苦しくて悲しくてリリースはその思いを、目の前のピーチアに向けて睨みつける。
(乙女ゲームの矯正力からは、逃れられないんだ。)
リリースは静かに目を閉じた。
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