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四度目の出逢いは、お見舞いです。

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「何とかしないと…… 」
リリースはベッドの上で天井を見上げていた。あまりの恐怖に腰が抜けたのだ、失禁しなかった事を褒めて欲しかった。あれから一週間、ベッドの上で療養中だ。

気を失っている間に、いつの間にか侯爵家に戻っていた。王太子がリリースを大事そうに抱きしめて、連れてきてくれたそうだ。気を失う寸前に見た、黒髪の死神王太子が微笑みながら肩を掴んだ。

「いゃあぁぁぁぁぁ!! 」
悲鳴をあげて、リリースは目覚めたのだ。心配そうに見つめる母や父、兄やメイドを追い出して、そして今に至る。

「何とかしないと…… 」
動けない体で、頭をフル回転して考える。
「このままでは絞首刑になる前に、ショック死してしまうわ。」
このままでは駄目だとリリースは頭では解っていた。しかし体が言う事を聞かない、王太子の声に姿に拒否反応を起こしてしまう。

(だって、怖いんですもの!! )
楽しそうに追いかけてくるあの笑顔が、自分を覗き込んで微笑む王太子が、いつの間にか後ろに陣取り囁く死神が。

(怖い、怖い、怖すぎる!! 私がアラサーじゃなかったら、失禁して死んでいたわ!! )
確かに子供だったら失禁してたかもしれない、しかしリリースなら乙女ゲームの事を知らないので王太子に一目惚れをしていたはずだ。それが本筋なのだから。

(なまじ顔が綺麗だから怖さが増すのよ!! 普通の顔だったら良かったのに!! )
普通の顔の攻略対象の乙女ゲームなど売れるはずわない。リリースは恐怖のあまり訳の分からない事を考えていた。

「何とかしないと…… 」
このままでは、死神王太子との会話もままならない。三度会ったが、会話をしたことがない。一度目は悲鳴をあげて逃げ惑い、二度目は会話も出来ずに気を失った。三度目は、言わずもがなである。会うたびに会話も出来ずに、恐怖で神経が事切れる。

「何とか、あの顔になれないと…… 」
目を瞑って、王太子の顔を思い浮かべる。黒髪 黒い瞳 綺麗な顔、綺麗すぎて恐ろしい。体が震えてくる、鼓動か速まる。


「リリー、大丈夫? 」
声まで聞こえてくる。肩に何か触れているのに気づく。

目を開けて見ると其処に、死神王太子がリリースを覗き込んでいた。

「ヒッ!! 」
リリースは心臓が止まるかと思った。いや、一瞬止まっていただろう既に何度めかの心肺停止だ。

「ねえ、リリー大丈夫? 」
「ど、ど、ど、」
心臓の音と同じように、リリースは言葉を紡いだ。逃げたかったが、体は腰が抜けて動けない。

「御見舞に来たんだよ。声をかけたんだけどね、リリー、何か考え事に夢中だったようだし。」
王太子はリリースに会えたのが嬉しくて満面の笑顔だ。

「ごめんね、僕が驚かしてしまって。」
死神王太子が微笑みながら謝ってくる。その楽しそうな笑顔が、恐怖を増す。

「腰、早く治るといいね。ごめんね、リリーに会えて嬉しくて。」
いけない、いけないと、微笑む顔を押さえる。

「そうだ、僕の誕生日には来てくれるよね。僕がエスコートをするよ。」
キラキラと黒い瞳を輝かせてお願いをする。

「僕の色のドレスを贈るから来てほしいな。」
可愛らしく微笑む十三歳の王太子。王太子の色、それは黒。髪も目も黒、黒いドレスは喪服を連想させる。それは一歩、絞首台に近づいたようで。いや、王太子が誕生日を迎えると言うことは、確実に一歩絞首台に近づくのだ。


きゆ~う、とリリースはベッドの上で気を失った。

「あれ? リリー、眠ったの。」
白目を向いて気を失っているリリースを見て、王太子はくすくすと笑った。

「リリーは、僕の傍で安心して眠ってくれるんだね。」
王太子はリリースに会えて嬉しいだけじゃなく、自分の傍で安心してくれる婚約者を愛しいと思った。

「リリー、大好きだよ。」
王太子の言葉は気を失ったリリースには届かなかった。

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