私の婚約者は、今日も楽しい。

❄️冬は つとめて

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二度目出逢いは、御見舞です。

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「何とかしないと…… 」
リリースはベッドの上で天井を見上げていた。走り過ぎた所為で、未だ体は筋肉痛の悲鳴を上げている。あれから一週間、ベッドの上で金縛り状態だった。

気を失っている間に、いつの間にか王太子の婚約者になっていた。リリースは再び悲鳴をあげて気を失った。気を失った中で見る夢は、黒髪の死神王太子が微笑みながら手招きをしている。

「いゃあぁぁぁぁぁ!! 」
悲鳴をあげて、リリースは目覚めたのだ。心配そうに見つめる母や父、兄やメイドを追い出して、そして今に至る。

「何とかしないと…… 」
動けない体で、頭をフル回転して考える。乙女ゲームのストーリーをリリースは必死こいて思い出していた。

「たしか、この乙女ゲームは普通の在り来たりの頑張る平民のヒロインを、悪役令嬢が嫉妬で虐め倒してそれを庇うように王太子や攻略対象が落とされて行くゲームよね。」
リリースは在り来り過ぎて、題名さえ忘れてしまった。

「『君恋』『恋君』『トキ恋』、どれだったかしら? 」
(題なんてどうでもいいのよ、問題は婚約よ!! 悪役令嬢で婚約よ!! )
確かに、城で顔合わせした王太子はプレイした乙女ゲームの攻略対象である。どれだったかは既に忘れたが、ストーリーは大体一緒だ。

「十五歳で学園に入学して、ヒロインに出会って。イベントがあって、婚約者がふらふらとヒロインを好きになる。浮気男の、王道の乙女ゲーム。」
(ああ、なんてことなのヒロイン目線でプレイしていた時は、悪役令嬢てなんて酷い令嬢だと思っていたけど。)
リリースはグッと、布団を握り締めた。

「酷いのヒロインじゃない、人の婚約者に色目を使って。悪役令嬢が怒るのはあたりまえよ!! 」
(挙げ句に攻略対象達に思わせぶり、ふしだらだわ。何が真実の愛よ、別れてから言ってよね。)
リリースはベッドの上で目を見開いた。

「そうよ、別れればいいのよ。」
(婚約破棄よ、婚約破棄。学園にあがる前に婚約を解消すればいいのよ。)

リリースは目を閉じた、夢の中に現れた死神王太子が浮かぶ。十三歳の子供の姿ではなく、十八歳の青年の姿で。絞首台を背に、黒い服装と黒い大きな鎌を持ち微笑んでいる。

「死神王子なんて願い下げよ、ヒロインに熨斗をつけてくれてあげるわ。」
「死神王子て、誰のこと? 」

声に、目を開けて見ると其処に死神王太子がリリースを覗き込んでいた。

「ヒッ!! 」
リリースは心臓が止まるかと思った。いや、一瞬止まっていただろう。

「ねえ、死神王子て誰のこと。」
「ど、ど、どうし、」
リリースは言葉が出なかった。逃げたかったが、体は筋肉痛で動けない。

「御見舞に来たんだよ。声をかけたんだけどね、リリー、何か考え事に夢中だったようだし。」
王太子は既にリリースを愛称で呼んでいた、会うのは二度目であったが。

「今日は逃げないんだね。」
死神王太子が微笑みながら聞いてくる。その楽しそうな笑顔が、恐怖を増す。

「あ、筋肉痛で動けないんだったね。だから僕、御見舞に来たんだった。」
いけない、いけないと頭をコツンと叩いている。

「御見舞のネックレス何だけど、受け取ってね。」
キラキラと輝くブラックダイヤモンド『不動の愛』。

「また追いかけっこしょうよね。僕がきっとリリーを、また捕まえて見せるから。」
可愛らしく微笑む十三歳の王太子の笑顔に、十八歳の王太子の笑顔が重なる。
ゆっくりと首元に置くネックレスが、死神が笑顔で首に縄をかける仕草に見えて。

きゆ~う、とリリースはベッドの上で気を失った。

「あれ? リリー、眠ったの。」
白目を向いて気を失っているリリースを見て、王太子はくすくすと笑った。

「あははは。リリーは目を見開いて、寝るんだね。」
王太子はリリースに会えて、今日も楽しい思い出が出来たと喜んだ。





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