悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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砦の作戦会議室でのお茶会。

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握り潰された親書はコロリとテーブルの上を転がる。

「馬鹿です、直ぐにでも攻めて来ればいいのに。」
砦の作戦会議室で、お茶を飲みながらセルビィは言った。なぜか髪はツインテールに結ばれている。

「三日も有余をくださるなんて、お優しい皇帝陛下です。」
「その間に兵を集めると言うことでしょう。」
セルビィの言葉にロレンスが応える。

「馬鹿です。これ以上兵を集めてどうするのです。」
セルビィはお菓子を食べながら、くすくすと笑う。

「まだ夜は肌寒いといえども、昼は鎧は暑いです。」
何もない小高い丘に照りつける太陽は鎧を熱くさせる。

「食料はどうします? 人が増えれば増えるほど必用です。」
兵に食べさせる食料を国から掻き集めなければならない。水の量も莫大になる。

「食べれば、生理現象は否めないでしょう。衛生面に問題が出ます。」
食べれば出るものが出る。ひきめき合う程の場所でどう処理をするのか。

時間をかければをかけるほど、何もしなくても兵士は神経を削り取られる。

「馬鹿です。」
セルビィはくすくすと笑う。

「あれだけの兵がいるなら、直ぐにでも仕掛けてくるべきです。」
「だが、此方から矢で一方的に殺られるぞ。」
ナルトは空になったセルビィのカップにお茶を注ぎながら言う。

「どのみち矢がなくなるまでは、一方的に殺られるのですから疲弊する前に仕掛けるべきです。」
セルビィはカップを両手で可愛らしく持ち、首を傾げる。

「亡くなられたら方を積み上げ砦に食らいつけば、あの圧倒する数で勝てるでしょうに。」
恐ろしいことにセルビィは皆に砦の落とし方を説明する。

「馬鹿です。この三日間、僕が何もしないと思います。」
微笑むセルビィに、ぞっとする。

「ああ、お前は魔王だったな。」
ナルトが感嘆と言うと、ロビンとビウェルも頷いた。リオルとロレンスは目を合わせ味方で良かったと、心の中で思った。

「そんなことを言うのはナルト様だけです。」
嬉しそうにセルビィは笑う。 

「ある程度兵士にはお帰り願って、最終的には『聖戦』に持ち越しましょう。」
「聖戦にするのか。あの数を見たらビビるんじゃないのか? 」
「そうだな、王都にいる信徒だけでは雲泥の数だ。」
セルビィの言葉に、ロビンとビウェルが意見を言う。

「ですから、ある程度間引くと言ってます。」
「先制攻撃ですか……。」
神妙にロレンスは問い掛ける。

「そんなことをしたら、戦争になります。イタイケな僕が、先陣を切るなんて怖くてできません。」
「あ、そう。」
セルビィは震えながら自らを強く抱きしめる。白々しい態度にナルトは見もせずに応えた。

「なら、どうするつもりです。」
ビウェルが真面目に聞いてくる。

「ちょっとした『いたずら』を。」
「「いたずら? 」」
リオルとロレンスは声を合わせた。

「はい。少々の負傷をしてもらい、引いて貰いましょう。」
「負傷? 殺さないのか。」
ナルトが問い掛ける。戦なら、できるだけ戦力を削りたい筈なのに殺さず負傷をさせると言う。

「殺すのは簡単ですが。」
「「簡単なのか!! 」」
リオルとロレンスが、声をはる。

殺すだけなら簡単であった。セルビィの趣味は薬を作ること、その薬が治療薬とは限らない。正攻法で無ければ、いくらでもやり方はある。

でもそれをセルビィは好まない。

「殺すと亡骸がが出るじゃありませんか。面倒です。」
リオル達を無視してセルビィは言葉を続ける。

セルビィは、只々面倒臭がりだった。

「戦闘不能者の処理は皇帝陛下にお任せをすれば宜しいです。」
「「処理………。」」
リオルとロレンスは乙女のように互いに手を握りしめた。

なんの戦果もあげられず負傷した帝国兵がどう成るかは、セルビィよりも二人の方がよく知っている。

上の者ならよくて左遷、下手をすれば首が飛ぶ。(文字通り実際に)下の者なら、他の部隊に移動になる。だが負傷して戦えないのなら話は別だ。戦果をあげられ者として、軍制の引き締めの為に上の者と同じく首が飛ぶかも知れない。何より今は戦時下に入る戦えない者に食べさせる食料は、高価な医療はない。

考えるだけにぞっとする。

この目の前で微笑む天使のような少年は自らの手を汚すことなく、兵士を間引かせる。

「それに……最終的には『聖戦』に。聖徒の方々に神の御許に行ける場を作って差し上げないといけません。」
手を合わせ、またも笑顔でさらりと怖いことを口にする。

「神の御許か……。」
ビウェルは、ため息交じりに呟いた。

神の御許に行くには現世を離れなければならない、簡単に言えばお亡くなりになると言う事だ。その場を作るとセルビィは言う。

「な、魔王だろ。」
ナルトは静まり返った会議室で、目の前に座る四人に目を向けながら共感を得るように囁いた。 

((((魔王だな。))))

その場にいる者は(セルビィ以外は)静かに、確信を持ってナルトに向け頷いた。

「そんなことを言うのは、ナルト様だけです。」
ころころと笑いながらセルビィは嬉しそうに言った。


その日からアメリゴ帝国の兵士への、セルビィのささやかな『いたずら』が始まった。


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