悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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新たなる王の誕生。

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城内も城外も静まり返っていた。
戦の後とはまさに虚しいものである。むせ返る血の匂いが、王都を包み込んでいる。陽は登ったが、まだ戦の終わりの声は聞こえない。アメリゴの軍が城に入ってからかなりの時間が立っている。外にいる国民達は、城の中では虐殺が行われているのではと体を震わせている。次は自分ではないかと。

「それで、公爵閣下は何ができます。」
「私なら信者を押さえることかを出来る。」
鼻高々に公爵は言う。

「それだけです? 」
セルビィは小首を傾げた。

「押さえるだけなら、リオル様達にもできます。亡くしてしまえばいいのですから。」
さらりと虐殺めいた事を言うと、残念ですと頭を振った。セルビィは目の前のカップを手に取りお茶を飲む。

「それで。」
「私なら、信者を動向を把握することが出来る。」
ふうっ、と目の前で落胆したように溜息をつく。他にも色々自分が出来る事をアピールする公爵に、セルビィは落胆の表情を向ける。

セルビィが関心を示さない事に公爵は焦る、この場を支配しているのは彼なのだから。彼の求める答えが見つかるまで公爵は不安を抱えつつ話続ける。

(こいつ、まさか!! )

「私なら、リオル様をこの国の王にして差し上げられる!! 」
「それは、素晴らしいです。」
セルビィは満面の笑みで、公爵に向けた。やっと問題の答えに正解した公爵を、セルビィは母親のように誉める。

(やっぱりか!! )
ナルトは頭を抱えて俯いた、その肩にビウェルが慰めるように手を置いた。

「こいつ『リオルの王様にしよう問題』公爵に丸投げしやがった!! 」
「宗教問題は厄介だからな……。最初から考えていたのか。」
「この……、魔王め!! 」
ナルト達二人はセルビィの後ろでヒソヒソと話をしている。 

(そんなことを言うのは、ナルト様くらいですよ。)
前に座るセルビィにも、リオルやロレンス達にもその声は聞こえていた。

「「「………。」」」
リオル達三人は黙っていた。確かにセルビィは、リオルをこの国の王にして見せると言っていた。だが宗教国家であるオースト国の信者達をどのように諌めるのかは分かっていなかった。リオルもセルビィも、オースト国の宗教者に何を言っても受け入れられる信用を持たない。だが、聖教長まで登り詰めた公爵なら信者達も耳を傾ける筈だと。あの時からセルビィはこのことを考えていたのか、そのために国王を外に逃したのか。

(あの時から……いや、違う。彼はずっと前から自分達は独立すると考えていたはず。だとしたら、子供の頃から? )
もし、自分が敵対する立場になっていたらと思うとリオルとロレンスは背中に冷たいものが流れた。

((み、味方でよかった。))
リオルとロレンスは心からよかったと安堵した。いや、協力者に選ばれてよかったと。

「私なら、リオル様を王にすることが出来る。」
セルビィが誉めてたので公爵は鼻高々に胸をはった。誉められて自信を取り戻す。

「リオル様は王の器です。私はそれを陰ながら推し出したい。」
「それは素晴らしいです。」
セルビィは誉めながら両手を合わせた。満面の笑顔のセルビィ以外の者は、顔を青ざめて二人の会話を聞いていた。

「公爵閣下のお手並みを拝見させていただきます。」
セルビィの言葉と共に話し合いは終わり、王都国民 信徒たちに、戦の終わりと新たなる王の誕生が伝えられた。



「アイアン国王陛下はお亡くなりになられた。残念な事に、前国王陛下は神の意に背き罰せられたのだ。」 
ザワザワとざわめく城の門前で、公爵閣下は聖教長司祭として演説を始める。 

「神の意に、背かれた? 」
「罰せられた? 」
「どういうことなの? 」
国民は戦の終わりを喜び、聖教長の言葉を疑問視する。

「神は『我を信じる者は総て信徒である。』そう申されておられた。しかし前国王陛下アイアンは神の意に背き、信徒である豪の者達を蔑み、虐待をしていた。」
聖教長は身体中を悲しみに震わせた。

「何度も改めるよう、私は声掛けを国王陛下にしていた。だが、私の力なく陛下を諌めることができなかった。」
国民達は、司祭の言葉に狼狽えた。自分達も、豪の者達に虐待まがいの事をしたことはあるし、蔑んでもいた。でもそれが神の意に背くこととは思わなかった。なぜなら、国王が、聖徒達が、そのように言っていたのだから。国民達は困惑した。

「神の子である国王陛下が、神の意を背くとは誰も思わなかっただろう。そして、我らは国王陛下の意思に従ってしまった。」

「そ、そうだ!! 俺たちは国王陛下の意思に従ったまでだ!! 」
「神の意に背いてただなんて、知らなかったわ。」
「俺は、蔑みたくはなかった!! 」
「私も、虐めたくはありませんでしたわ。」
「「「「悪いのは国王だ!! 」」」」

司祭は、悪いのは国王だと罪を擦り付けた。それに国民達も乗って来た。

「だが今、悪の王アイアン陛下はうたれた。神の新たなる使者、リオル様に!! 神は新たなる王を我らに与えてくだされたのだ!! 」
「「「おお、新たなる王!! 」」」

「そうだ新たなる王、リオル様だ!! 太陽の赤を纏い、悪の王を倒し我らの前に来てくださったのだ!! 新たなる王を讃えよ!! 」
「「「おお、新たなる王よ!! 」」」
城壁の上にリオルは真紅の髪を靡かせて、国民の前に現れる。その後ろには太陽を描いた旗が揺れている。

「「「リオル様!! 」」」
「「「新たなる王、リオル様!! 」」」

戦争という緊張、閉戦という安堵。神の意に背いてたという不安、そして新たなる神の使者としてのリオルの存在に歓喜。国民達は新たなる神の子に陶酔していった。

リオルが片手を上げた。国民達は静まり返った、新たなる王の言葉を耳を傾ける為に。そこに。

「でも、アメリゴ帝国の皇子であるリオル様がこの国の王様になることを、アメリゴ帝国の皇帝も皇太子もそれを許すでしょうか? 」
金の髪を揺らした美少女が声を、上げる。その声は静まり返った場所に響いた。

「我々には神がついています。」
少女が不安そうに尋ねると、司祭は胸に手をあてて神の意を唱えた。

「我ら信者はリオル様を守りましょう。」
「なんて素晴らしいです。リオル様を守り、アメリゴ帝国と戦おうとなさるなんて。」
少女は手を合わせて、声を上げた。

「いや、戦うとは 」
「なんて素晴らしいです。信徒たちは神の子、リオル様の為に命をかけられるとは!! 」
少女は、興奮のあまり声を上げる。

「アメリゴ帝国はリオル様を殺し、この国の総てを虐殺するでしょう。」

「「「私達を虐殺する!? 」」」
「「神の子を殺すだと!? 」」

「これは神の意を消そうとするアメリゴ帝国との戦い……聖戦なのです!! 」

「私たちは、リオル様を守り!! この国を神の意を守りましょう!! 私たちには神がついてます!! これは聖戦なのです!! 」
少女は声高らかに聖戦をうたった。

「「そうだ、聖戦だ!! 」」
「「リオル様を守れ!! 」」
「「神の意を、つらぬけ!! 」」
「「これは聖戦だ!! 」」 

盛り上がる国民達。いつの間にか聖戦をうたった少女は、この場所から姿を消していた。呆然とする聖教長は、聖戦の盛り上がりに顔を青ざめていた。











    
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