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烏合の衆。
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烏合の衆であった。
指揮をとる軍事総統が首を取られた後は、ただでさえ烏合の衆である軍隊の兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
追うのも憚れる程の無様さだった。民兵は街中に散っていき、騎士達は王城へ逃げ込もうと来た道を戻ろうと馬を操る。逃げることに右往左往している民兵を蹴散らしながら騎士達は城内へと逃げ込もうと馬を走らせる。
我先へと急ぐ騎士達はぶつかり合い、馬は転がる民兵達に足元を取られ地団駄を踏んでいる。馬に振り落とされる騎士達もいた。振り落とされた騎士達は、必死の形相で走って逃げる。ガシャガシャと重い鎧を脱ぎ捨てながら、少しでも軽く早く逃げれるようにと。
「何と無様な……。」
グレード将軍は無様に逃げようとする兵士達を追うことなく見ていた。我先と逃げようとする烏合の衆。将棋倒しに合い重なり合う者の上を這うように逃げる者もいた。
これが、国を護る事を総て豪の者に任せていたオースト国の現状であった。レイズ総統閣下がいたからこそ、何とか統一が取れていただけだった。今や国を護るより自分の命を護るのに精一杯であった。
「行くぞ。」
グレード将軍の率いる軍が割れ、雄々しい赤い髪のリオルが現れる。後ろに旗を掲げた近衛騎士を連れて。将軍の横を通り過ぎ、城へとゆっくりと馬を進める。
先陣を切ったのは彼であった。アメリゴ帝国側の外壁門で騒ぎを起こしている間に、彼は正門 南外壁門へと闇に紛れて現れた。
王都に響く鐘の音、通用門が開きリオル率いる一個隊近衛騎士達が外壁の通用階段を馬で駆け上がる。彼等は音のたつ鎧は身に着けてはいなかった。付けているのは装衣の中に鎖帷子だけである。
敵襲に気づいた時には、オースト国の兵士はリオル達に制圧されていた。
彼等は二手に別れ、ロレンス率いる近衛騎士達は外壁道を使い西の外壁門へと馬を走らせる。
そして、リオルは正門を開けるよう指示を出す。正門が開くとグレード将軍の率いる軍が王都になだれ込んた。そして西門に向かうオースト国の軍の脇腹に食らいついたのだ。
ゆっくりとリオルは赤い髪を靡かせて、城門へと馬を進める。
何時の間にかロレンスがリオルの横に合流をしていた。西門を制圧したロレンス達近衛騎士が傅いている。
揺動隊のクレムス将軍はそのまま外壁の総べてを制圧する為に残った。外壁はリオルが率いる軍隊が掌握している。外から中に入られないよう門もしっかりと閉められている。今やオースト国王都は、孤立無援であった。
(御旗であるリオル様が先陣を切る必要は無かった。)
ロレンスは開戦前を思い出す。
「リオル様は後ろで控えていてください。貴方に何かがあったらそれこそ。」
「せめてコレぐらいはさせろ。皆が命をかけているのに、じっとはしていられない。」
奇襲だからそれ程危なくはないと、先陣を切ると言い張った。
「大丈夫だ、後は静かに皆を見守るから。」
そう言って、リオルは笑顔を向けた。
(これがリオル様の良いところだ。何もしない皇帝達と違ってリオル様が愛される所だ。)
だがそれは一部のリオルを知る者達だけである。貴族はリオルを煙たがり、王族たちはリオルを恐れている。リオルの醜悪さを噂として流し、帝国民はそれを信じている。敵国から『紅蓮の鷲』と呼ばれているが、帝国内では頭を赤く染め死肉(人の栄誉)をあさる浅ましい者と醜聞を流されていた。
(愚かな、帝国民め。リオル様がどれ程帝国に敬愛を捧げていたか。)
でもそれはこれまで、ロレンスはリオルを見て誉れ高く微笑む。
(リオル様に相応しい場所に、この国を制し王として君臨するのだ。帝国と同じ大国で。)
そのためなら悪魔にでも化け物にでも、命を捧げてもいいとロレンスは思っていた。
(感謝します、黒き天子よ。)
ゆっくりとした歩みを止める敵はいなかった。ただ、足元に転がる武具と将棋倒しで自滅した敵の兵士達の屍が行く手を邪魔していた。城門前は、逃げ帰って来た高位の騎士達が扉を開けろと喚いている。
城のテラスから門を見ていたビウェルとナルトは、
「どうやら俺たちが開けるまでもないようだな。」
「ああ……、そのようだな。」
醜く開けろと騒ぎ立てる鎧を脱ぎ捨てた騎士達に、二人は冷ややかな目を向けていた。
数メートル先にリオル達が来ているのに、彼等は地位を叫び城門を開けさせた。
城門が開いた。
それを合図にリオル達軍隊は歩みを早める。アメリゴ帝国の旗が翻り、怒涛の如く逃げまどう者たちを蹴散らして城内へ入り込む。
あっと言う間だった。
戦意の打ち拉がれた騎士に、貴族達はただ部屋の隅にへばりつき震えているだけだった。ヘコヘコと頭を床に押し付けて許しを請う者もいる。自分だけは助けてくれと娘を差し出す者もいた。娘は媚を売る目をリオル達に向ける。
リオル達は愚かな者達を、冷たい目で見下げていた。
パンパンと手を叩く音がして、リオルは階段を降りてくる一人の男を見た。後ろに何人かの近衛騎士が控えている。
「ようこそお出で下さいました、アメリゴ帝国第ニ皇子リオル様。」
聖教長リアンは目を細めた。
指揮をとる軍事総統が首を取られた後は、ただでさえ烏合の衆である軍隊の兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
追うのも憚れる程の無様さだった。民兵は街中に散っていき、騎士達は王城へ逃げ込もうと来た道を戻ろうと馬を操る。逃げることに右往左往している民兵を蹴散らしながら騎士達は城内へと逃げ込もうと馬を走らせる。
我先へと急ぐ騎士達はぶつかり合い、馬は転がる民兵達に足元を取られ地団駄を踏んでいる。馬に振り落とされる騎士達もいた。振り落とされた騎士達は、必死の形相で走って逃げる。ガシャガシャと重い鎧を脱ぎ捨てながら、少しでも軽く早く逃げれるようにと。
「何と無様な……。」
グレード将軍は無様に逃げようとする兵士達を追うことなく見ていた。我先と逃げようとする烏合の衆。将棋倒しに合い重なり合う者の上を這うように逃げる者もいた。
これが、国を護る事を総て豪の者に任せていたオースト国の現状であった。レイズ総統閣下がいたからこそ、何とか統一が取れていただけだった。今や国を護るより自分の命を護るのに精一杯であった。
「行くぞ。」
グレード将軍の率いる軍が割れ、雄々しい赤い髪のリオルが現れる。後ろに旗を掲げた近衛騎士を連れて。将軍の横を通り過ぎ、城へとゆっくりと馬を進める。
先陣を切ったのは彼であった。アメリゴ帝国側の外壁門で騒ぎを起こしている間に、彼は正門 南外壁門へと闇に紛れて現れた。
王都に響く鐘の音、通用門が開きリオル率いる一個隊近衛騎士達が外壁の通用階段を馬で駆け上がる。彼等は音のたつ鎧は身に着けてはいなかった。付けているのは装衣の中に鎖帷子だけである。
敵襲に気づいた時には、オースト国の兵士はリオル達に制圧されていた。
彼等は二手に別れ、ロレンス率いる近衛騎士達は外壁道を使い西の外壁門へと馬を走らせる。
そして、リオルは正門を開けるよう指示を出す。正門が開くとグレード将軍の率いる軍が王都になだれ込んた。そして西門に向かうオースト国の軍の脇腹に食らいついたのだ。
ゆっくりとリオルは赤い髪を靡かせて、城門へと馬を進める。
何時の間にかロレンスがリオルの横に合流をしていた。西門を制圧したロレンス達近衛騎士が傅いている。
揺動隊のクレムス将軍はそのまま外壁の総べてを制圧する為に残った。外壁はリオルが率いる軍隊が掌握している。外から中に入られないよう門もしっかりと閉められている。今やオースト国王都は、孤立無援であった。
(御旗であるリオル様が先陣を切る必要は無かった。)
ロレンスは開戦前を思い出す。
「リオル様は後ろで控えていてください。貴方に何かがあったらそれこそ。」
「せめてコレぐらいはさせろ。皆が命をかけているのに、じっとはしていられない。」
奇襲だからそれ程危なくはないと、先陣を切ると言い張った。
「大丈夫だ、後は静かに皆を見守るから。」
そう言って、リオルは笑顔を向けた。
(これがリオル様の良いところだ。何もしない皇帝達と違ってリオル様が愛される所だ。)
だがそれは一部のリオルを知る者達だけである。貴族はリオルを煙たがり、王族たちはリオルを恐れている。リオルの醜悪さを噂として流し、帝国民はそれを信じている。敵国から『紅蓮の鷲』と呼ばれているが、帝国内では頭を赤く染め死肉(人の栄誉)をあさる浅ましい者と醜聞を流されていた。
(愚かな、帝国民め。リオル様がどれ程帝国に敬愛を捧げていたか。)
でもそれはこれまで、ロレンスはリオルを見て誉れ高く微笑む。
(リオル様に相応しい場所に、この国を制し王として君臨するのだ。帝国と同じ大国で。)
そのためなら悪魔にでも化け物にでも、命を捧げてもいいとロレンスは思っていた。
(感謝します、黒き天子よ。)
ゆっくりとした歩みを止める敵はいなかった。ただ、足元に転がる武具と将棋倒しで自滅した敵の兵士達の屍が行く手を邪魔していた。城門前は、逃げ帰って来た高位の騎士達が扉を開けろと喚いている。
城のテラスから門を見ていたビウェルとナルトは、
「どうやら俺たちが開けるまでもないようだな。」
「ああ……、そのようだな。」
醜く開けろと騒ぎ立てる鎧を脱ぎ捨てた騎士達に、二人は冷ややかな目を向けていた。
数メートル先にリオル達が来ているのに、彼等は地位を叫び城門を開けさせた。
城門が開いた。
それを合図にリオル達軍隊は歩みを早める。アメリゴ帝国の旗が翻り、怒涛の如く逃げまどう者たちを蹴散らして城内へ入り込む。
あっと言う間だった。
戦意の打ち拉がれた騎士に、貴族達はただ部屋の隅にへばりつき震えているだけだった。ヘコヘコと頭を床に押し付けて許しを請う者もいる。自分だけは助けてくれと娘を差し出す者もいた。娘は媚を売る目をリオル達に向ける。
リオル達は愚かな者達を、冷たい目で見下げていた。
パンパンと手を叩く音がして、リオルは階段を降りてくる一人の男を見た。後ろに何人かの近衛騎士が控えている。
「ようこそお出で下さいました、アメリゴ帝国第ニ皇子リオル様。」
聖教長リアンは目を細めた。
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