悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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真夜中の城の中、そして夜明け。

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ガシャン!!
花瓶が床に叩きつけられた。
「きやぁ!! 」
お酒を持ってきた、メイドが悲鳴を上げる。 
「まだ見つからぬのか!? 」
王は傍にある物を苛立ちのあまり
床に叩きつける。
「落ち着きなさい、アイアン。」
聖教長のシアンが声をかける。片手にワインボトルを持ちながら、王に話しかける。

「まあ、飲んで落ち着きなさい。」
「落ち着いて、いられるか!! まだ見つかってないんだぞ!! 」
明け方近くになっても、セルビィは見つかっていなかった。

「お前は何故、落ち着いている!! 分かっているのか? 国が落ちると言うことは、儂達は首を取られると言うことだということを!! 」
「分かっている。だが彼はこの王都に居るのは確かだ。彼が逃げる前にレイズが全ての門を閉鎖した。」
シアンはワインをグラスについで王に差し出した。
「私達は、ただ待てばいいのです。」
「そんな時間はないぞ!! 既に王都は囲まれていんるのだ!! 」
シアンは王が受け取らなかったグラスに口をつけた。
「今にも外の軍勢が攻めてくるかもしれないのだぞ!! 」
王はシアンに食ってかかった。ガシャと、足に割れた花瓶があたる。
「ええい!! 早く片付けんか!! 」
大きな声でメイドを怒鳴る。

「は、はい。申し訳ございません!! 」
メイドはバタバタと部屋を出て、箒と塵取りを持って来る。

「落ち着なさい、アイアン。今攻めてきても、簡単に王都は落ちません。我が国の外壁は強固です。それにレイズも命をかけて守ることでしょう。」
シアンはグラスのワインを飲み干す。
「数日もてば、辺境の我が国の軍勢も王都に着くでしょう。そうなれば、敵も引かざるおえないでしょう。」
「数日・・・。」
「その間に、彼も見つかるでしょう。」
シアンは落ち着いてグラスにワインを注ぎ、王に差し出した。シアンの様子に王も、少し落ち着いてグラスを受け取りワインを飲み干した。

「そうだ、そうだな。数日くらい、レイズも持つであろう。その間にあの餓鬼を見つけ出せば。」
「そうです、その位は役に立つでしょう。」
ドカッと、ソファに座る王にシアンは笑いかけた。王も応えるように笑い返した。
「そこの女、何か食べる物を持って来い。」

「は、はい。ただいま。」
割れた花瓶を片付け、頭を下げてメイドは出ていった。

王は不安を振り払うようにワインを飲み続ける。それを聖教長のシアンは黙って見つめていた。

(例え、王都が落とされても殺されるのは王である貴方だけだ。私は殺されない。聖教長の私を殺せば、国を支配するのに難儀をしますからね。)
シアンは細笑んだ。
(戦に負けて王が首を取られるのは、当たり前のこと。しかし、宗教を敵に回すのは国の民を敵にすると言うことです。私は宗教、その者ですから。私を殺すような下手をする筈はありません。)
シアンは目の前にいる、王を哀れんだ。
(貴方が、民に慕われる王なら話は別ですが。お飾りな教皇とは違い、私は民に奉仕を尽くしていた素晴らしい者ですから。民に慕われているのですよ、アイアン。)

表向きは奉仕をするシアンは、民や聖職者に慕われていた。だが裏では孤児を商人に引き渡したり、豪の者を他国に奴隷として売っていた。

宗教を敵にまわすのは、侵略するものは避けていた。教会は侵略する国にとって不可侵な場所であった。宗教同志のいざこざでなければシアンは自分は殺される事は無いと、たかをくくっていた。

(この国を支配したいのなら、私に助力を求めなければなりません。)
シアンは、アメリゴ帝国と渡り合うのは簡単だと既に考えていた。

(この国が落ちようと、落ちまいと私には関係がありません。)

シアンは窓の外を見る。月のない深淵の闇が、あの少年の瞳を思い出させる。底知れない闇を称えるセルビィの黒い瞳を。シアンは頭を振った。

(少し頭がいい子供が、私の地位を揺るがせるはずはない。)
ワインの入ったグラスをあおった。

(少し、アイアンにあてられたようですね。)

メイドが押して来たワゴンの上の軽食に手を付ける。メイドは空気のように壁に佇んでいた。


「陛下、馬車が見つかりました!! 」
「でかした、あの餓鬼を連れてこい!! 」
馬車が見つかった事を報告しに来た騎士に王は支持を飛ばす。
「いえ、見つかったのは馬車だけです。」
門前の邪魔な馬車を退けている中で、探していた馬車を見つけ出したのだった。だが、中は当然空っぽである。

「馬鹿者!! 馬車等どうでもよい!! あの餓鬼を、セルビィ・ランドールを見つけて来い!! 」
ぬか喜びをさせた騎士を叱咤する。
「も、申し訳ございません!! 」
恐縮する騎士に罵声を浴びせているその時、けたたましい鐘の音が響いた。

カーン、カーン、カーン、カーン!!

「敵襲!! 敵襲!! 西門に、敵襲!! 」

夜が明ける少し前、敵襲を知らせる鐘の音が西門から響いた。それを聞いた兵士は、知らせる為に叫びながら軍事総長のいる場所に走った。

「敵襲だと、」
王アイアンは、青ざめて呟いた。

城の中は、敵襲に慌てだし騒がしくなっていった。
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