悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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真夜中の王都。

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新月であった。
月明かりのない夜。外壁の外は不気味な静けさを保っていた。ゆらゆらと篝火だけが揺れて見える。外壁を守る兵士達は交代で睡眠を取っていたが、いつ攻め込んで来るか分からないアメリゴ帝国の陣営を恐れ眠ることは出来なかった。外壁の上で、不気味に静みこむ陣営を見ていた。

「あいつら、いつ攻め込んで来るんだ? 」
「どうしてこんな事に? 」
「豪の奴等はどうしたんだ? 」
「我等の英雄は? 」

口々に不安を発している。黙っていては不安に押し潰されそうであったからだ。王都まで敵が攻め込んで来ることは、ここ数十年無かった。今まで総て砦の外で戦は起こっている事だった。そして、ここ十年ほどは小競り合いすら聞いたことが無い者達であった。


外壁の内部の街は騒がしかった。白い聖騎士の王の近衛騎士が馬に乗って、走り回っている。郊外のランドールの邸宅や豪の貴族が住む屋敷を片っ端らから回り、総てが空っぽになっているのに愕然としていた。いつの間にか豪の者達が、総てを持ってこの王都を出ていた事にこの国の者達は気づいてはいなかった。

「誰もいない。」
「いつの間に、こんな事に? 」
「何故、誰も気付かなかったんだ。」
「俺達も、戦うのか? 」

血筋だけで選ばれた近衛騎士。外敵は豪の者が護り、内敵は騎士伯憲兵隊が護っていた。その最たるフレックス侯爵は王都にはいない。その他の憲兵隊は貴族子息の役だずである。御飾りの近衛騎士達は、幾千の敵を思って身震いをした。


王都の町中を走り回っている、信徒がいた。かなりの人数が、町中を民家を乱暴に家捜しをしていた。真夜中信徒が乱暴にドアを叩き開け家中を荒らしまくって出て行く。その形相は鬼気迫るものであった。何かを、誰かを捜していた。

「帝国に占領されればどうなるのだ? 」
「帝国が崇めるのは武神、我等の神とは違う。」
「帝国は我等信徒を、皆殺しにするのか? 」
「豪の者は、我等に与えられた守護者ではなかったのか? 」
「おお、神よお救い下さい。」

彼等は今まで自分達が行ってきた事を。占領した地域の他神の信徒達を粛正の名の下に消してきた事を、自分達もされると思っていた。


街の者は家の中で震えていた。街中を走り回る足音、馬の嘶き蹄の音。何時もは微笑みを絶やすことの無い、神の信徒達の変わりよう怒濤の声。

「アメリゴ帝国が攻めてきたって? 」
「豪の者は何をしているのだ? 」
「我等の英雄は? 」
「父ちゃん、怖いよ。」

王都の民は、ただただ家の中で震え縮こまっていた。


北の町外れのスラム街には、飲んだくれたオースト国の外れ者の犯罪者か身を崩した者達がいた。

「アメリゴが攻めてきたってよ。」
「あははっ、この国も終わりか? 」
「そう言えば近頃餓鬼がいなくなっていたな。」
「黒い奴等も、見なかったな。」
「滅べ、滅べ、こんな国!! 」

スラム街に住んでいた豪の者も、スラムに追いやられた子供達も、スラム街から抜け出そうと頑張っていた者も、いつの間にかその姿を消していた。


貴族達は城に駆けつけていた。外は既に敵に囲まれていて逃げる事は出来ない。王都で一番強固で安全な場所に、城に逃げ込もうと馬車で乗り付ける。城門前や大通りは、動かなくなった馬車で溢れていた。貴族達は馬車を降り、歩いて門まで辿り着く。使用人を置き去りにして、手には金目の物を詰めこんだ鞄を持って。

「早く入れてくれ!! 」
「お助け下さい、陛下。」
「ランドール殿は、息子を見殺しにするつもりか? 」
「早くここを開けろ!! 」

豪の者が裏切るとは微塵も傲慢なオースト国の貴族達は思っていなかった。


応接室のソファで、天使が眠っていた。柔らかい寝息は平安の象徴のようだった。二人の青年が天使を見て溜息をついた。

「セルビィ様、起きて下さい。」
「こんな時に眠れるなんて、やっぱ心臓に毛が生えてるんじゃないのか? 」
「ふぁ~ぁ。」
天使は二人の声に両手を上げて体を延ばす。可愛らしいあくびをする。潤んだ瞳を二人に、向けた。

「心臓には、毛が生えてるのですか? 本には載ってませんでした。」
可愛らしく、首を傾げた。

「いや、比喩だから。」
ナルトが突っ込む。

「度胸があるという意味です。」
「いや、厚顔無恥だろ。」
ビウェルがナルトを冷たい目で観る。助けてやったのに何を言ってるのかと。

「くすくす、そんな事言うのは、ナルト様位ですよ。」
セルビィは、嬉しそうに笑った。その笑顔は、まさしく天使であった。

「そろそろ行くぞ。」
ナルトは手を差しだした。セルビィはその手に手を添える。ぐいっと、引き寄せられる。
「みな様は? 」
「既に出ました。」
ビウェルが応える。

「お茶を飲みたいです。」
セルビィが言うと、ナルトは素早く動きカップにお茶を淹れて持ってきた。
「そら飲め、早く飲め。」
「優雅に座って、飲みたいです。」
セルビィは、カップを両手で持って頬を膨らました。

「早く飲め。」
「飲んで下さい。」
青筋を立てながら、二人はセルビィに微笑んだ。セルビィがくいっとお茶を飲み干すと、ナルトはカップを奪い取りテーブルに乗せた。そのままセルビィを荷物を担ぐように肩にかけた。
「きや~人さらい。」
セルビィは声を上げた。
「行くぞ。」
「急ぎましょう。」
二人は無視した。

馬車では移動が出来ず、城の近くまで馬を使う。動かない馬車が溢れた城門近くは馬を居り、歩きになった。周りには、執事とメイドを伴う貴族子息と見受けられる。

「この有様では、戦いに支障を来すのでは? 」
「そうです。」
歩かなければ城にたどり着けないのでは、戦に支障を来すのではとビウェルはセルビィに声をかける。
「やばいな、計画が狂うぞ。」
「大変です。」
セルビィの応えは淡々としていた。


「早く、馬車をどけろ!! 」
「動かないのは壊してでも除けろ!! 」
怒濤が響いた。
「このままでは、いざという時外壁に駆けつけられないぞ!! 」
「撤去しろ!! 」
多くの兵士が馬車を撤去するために動いていた。

「大変です。戦の前に、一仕事です。」
セルビィはナルトとビウェルに、可愛らしく微笑んだ。









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