悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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賽は投げられた。

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市場へ行く人の波に逆らうように、数台の馬車が北に向かって走る。
ガラガラと、煩い音を立てて。
「何だ!! こんな朝早くから。」
「何時もの様に『豪の者』への支援物資だ。」
「ああ、あの仡潰しか。」

市場へ行く者の中の子供が聞いた。
「でも、お父さん。この国を護る英雄がいるよ。」
「闘うことしか能の無い連中さ。」
「オースト国の王家が、その様に使ってやってるだけさ。」
「嫁にまで取ってやると言う。」
「流石は、神に選ばれた方。慈悲深い。」

「『豪の者』は、我等を護るために神が与えてくれた物なのです。」
 
聖職者が、教示を垂れている。それを聞いて、祈る者もいる。
子供は、
「ふ~ん。そうなんだ。」



学園の卒業式は厳かに行われ、終わった。校舎の殆どが女生徒に開放され、卒業最後の舞踏会の着替えの場となった。高位の者は教室の一つを与えられ、ドレスを運び込みメイド達がなだれ込んだ。下位の者は衝立を立てて教室を仕切り、その場所で数少ないメイド達と着替えをしていた。

王家に嫁ぐ筈のセルビアには、学園の応接室を宛がわれていた。
そこに公爵家へ嫁ぐアイリーン、リリアナ、テレジアも一緒に居たいと申請を出し許可をされた。
馬車から降りて直ぐ応接室に入れるように、外側に扉がある。今、応接室の前に一台の荷馬車が止まっていた。

「セルビィ、一緒に行きましょう。」
心配そうに、セルビアが声を掛ける。
「姉様。誰かが残らなければなりません。」
「でも……。」
セルビィは、姉の手を握り締めた。
「もし、誰かが様子を見に来た時。対処する者が必要なのです。」
「それなら、私が!! 」
こんな危険な場所にセルビィを残しておけないとアリスが声をあげる。
「アリス様は、姉様達に付いてて下さい。」
セルビィが優しく微笑む。

「様子を見に来たお馬鹿様を、体よくあしらえるのは僕しかいないでしょう。」
くすくす と、笑う。
「それに、姉様達に捨てられ阿保面を晒す阿保様達を堪能するには残るしか在りません。」
とてもとても、嬉しそうにセルビィは微笑む。セルビア達は、一歩退いた。

「姉様達にお見せできないのが残念ですが、馬車の中で想像して楽しんで下さい。」
セルビィは、満面の笑みを称える。
令嬢達は、また一歩退いた。

「あの阿保様達の阿保面が、呆気に取られ悔しがる姿を。」
うっとり とするセルビィに、令嬢達は三歩退いた。
 
「こんな楽しいモノを他の者には任せられません。」
「セルビィ、本音が出てるぞ。」
ナルトが突っ込んだ。
セルビィは手を合わせて、喜んでいる。令嬢達は、青ざめた。

「セルビィ君、嬉しそうね。」
「こんな性格だったのね。」
「私の天使が……。」
「やっぱり、真っ黒だわ。」
「坊ちゃま……。」
令嬢達、アリスは茫然とセルビィを見ていた。

「なので、しんがりはお任せ下さい。姉様。」
嬉々として姉達を馬車に押し込む。荷馬車として窓を塞いだ偽造した馬車に。中は座れる普通の馬車だ。

「暫くは窮屈ですが、辛抱して下さい姉様。」
「セルビィ。」
ドアを閉めようとするセルビィの手に手を重ねた。
「父様達も、もう向かっている筈です。安心して下さい。」
優しく微笑む。
「さあ、早く。気づかれては元も子も在りません。」
心配するセルビアの手を外し、ドアを閉めた。
「アリス様、姉様達を宜しく御願いします。」
「分かりましたセルビィ様。」
アリスはマントを頭から被り、御者台に上った。それを合図に御者は馬を引いた。馬が歩き出し、馬車が動き出す。
「ナルト様。姉様達が渡ったら、橋は落として下さい。」
「ああ、分かっている。お前は? 」
神妙にナルトは聞いた。
「僕は、時が来るまで優雅にお茶でも飲んでいます。」
セルビィは、微笑む。
「お茶は作り置きしてある。そのままカップに注いで飲めよ。変なもん入れるなよ。」
「変な物なんて入れません。」
セルビィは頬を膨らます。じとっと、ナルトはセルビィを見ていた。
「入れてません。」
「…………。」
ナルトが見詰めている。
「入れてない、はずです。」
セルビィがお茶を淹れると何故が飲めなくなる。セルビィは、小首を傾げた。
「とにかく、注ぐだけでいいからな。注ぐだけだぞ。」
ナルトはその言葉を残して、馬車の後に飛びついた。
馬車が見えなくなる前にセルビィは、応接室に戻る。窓は総てカーテンがひかれ外から中は見えない。

セルビィはソファに座り、カップにお茶を注いだ。ナルトに言われたように注ぐだけだ。
香りを楽しみ、一口含む
「後は、その時を待つだけ。」
セルビィは、微笑みながら静に目を閉じた。


北へ北へ王都を進む荷馬車。石畳が途切れ、荷馬車は小さな門へと辿り着く。門を出ると馬車が1台通れる位の吊り橋が架かっている。門を護る兵士が荷馬車に近づいて来た。

「異常はないか? 」
ナルトが聞いた。
「ああ、何も無い。いつも通りだ。」
「じゃ、後は頼む。」
ナルトは馬車から飛び降りた。
「如何するんだ? 」
「俺は、セルビィの護衛だ。」
ニヤリと、笑った。

馬車はギシギシ鳴る吊り橋を渡りきる。兵士達が、小さな門を閉めた。外側から閂を掛ける。橋を渡り、吊り橋の縄を切って橋を壊した。
それを見咎めて、ナルトは門の横の小さなドアから中に入り。つないであった馬に乗り、踵を返えした。

「さあ、賽は投げられた。」
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