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セルビィ、倒れる。

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其れは、秋学期最後の日。令嬢達は、昨日『乙女の禁断の書』を、夜遅くまで読みふけり 目覚めるのが昼近くになっていた。
そして、せっかく用意したドレスなので、着飾ってお茶会でもしょう という話になった。
メイド達は、令嬢を着飾らせる為に嬉々として 仕度を始める。お茶会には似合わない、舞踏会のドレスだが 令嬢達は美しくお茶を飲んでいた。

「一冊、二冊、三冊、四冊。」
不気味な声が、近づいてくる。令嬢達は、カップを下ろして 扉の方を向いた。

「一冊、たりない。」

扉の所に、濃い青髪を顔の前にたらした アリスの姿が。
「お嬢様、たりません。『乙女の禁断の書』が、一冊たりません。」

「「「「なんですって!? 」」」」
セルビア達、令嬢とメイド達は 青ざめた。

セルビア達は、優雅にお茶会をしている訳には 行かなくなった。あの『乙女の禁断の書』を、殿方に視られれば 恥ずかしくて生きていけない。それは、メイド達も同じであった。
さっそく、捜索隊が組まれメイド達の捜索が 始まった。



其れは、少し前。
令嬢達が、別室で着飾っていた午後。セルビィはそれを知らずに、姉の部屋を 訪れた。
「姉様。」
挨拶もなく、セルビィは扉を開けた。
「あれ、姉様? 」
セルビィは、可愛らしく首を 傾げた。
「お昼は、一緒に食べたかったのに。」
朝食は姉達の寝坊で、一緒に食べられなかった。
昼はドレスを着飾るために、令嬢達は軽食をとって別室にいた。
セルビィは、その事を 知らなかった。

セルビィは、姉の部屋を見回して くすり と笑う。
昨日は女子会としょうじて、メイド達と遅くまで起きていたせいで 少し散らばっている。昼近くに起きて直ぐに、別室に移動したのでメイド達も 部屋の片付けもしていなかった。
「姉様達、昨日は遅くまで楽しそうだったな。」
散らばっている本を、手に取った。
「姉様の好きな、恋愛小説かな? 」
セルビアの恋愛小説は、思いが通じ合ってハッピーエンド。『結婚して、幸せに暮らしました。』で、終わっている 子供の絵本の様な話ばかりであった。
それ以上の恋愛小説は総て、セルビアによって 隠されていた事にセルビィは気づいてはいない。
なにげなくセルビィは、手にした本を捲る。

「・・・・・・。」
セルビィは、首を傾げた。
このりの四冊も、パラパラと捲る。
セルビィは、速読術を身につけていた。挿絵と、内容に蒼白となった。一冊だけ持って、セルビィは姉の部屋を後にした。


「きっと、間違えて捨ててしまったのよ。」
セルビアが、赤いドレスを握り締めて言った。
「そうね。そう思いたい私を許して。」
アイリーンは、若草色のドレスを揺らしながら神に祈った。
「現実逃避は、お辞めになって。」
紫のドレスの裾を、持ち上げながらテレジアは振り向く。
「ちゃんと、探しなさいよ!! 」
リリアナは、邪魔な空色のドレスを捲し上げてゴミ箱を探している。

「お嬢様、これ以上は。」
アリスが、哀しそうに首を振った。
「誰が、持っていったとしか思えません。」

「そう。」
セルビアは、目を閉じた。
おもむろに、リリアナの手をとった。
「リリアナ。怒らないから、言って。」
「あたし、かい!! 」
リリアナは、突っ込んだ。
「みんな、怒らないから手を上げて。」
セルビアは、メイド達を見る。縋る様な目で、
「お願い。誰が、自分だと私を安心させて。」
誰かが、取ったとは思っていなかったがセルビアは安心したかった。その心は、令嬢達もメイド達も同じ思いであった。誰か、自分だと手を上げて欲しかった。
もし殿方に持っていかれれば、
『なんだ、俺達のことをエロいと言ってたが自分らだって結構エロくないか。』

『なんだ、これ? こんなのを読んでいるのか? 』

『むっりスケベ? 自分らもな。』

いつも自分達が言っている事を、殿方に言われてしまう。
「「「いや!! 絶対に、いや!! 」」」
令嬢共々、メイド達も叫んだ。
「なにやってんだ? 」
「きゃーーぁ!! 」
後から声を掛けられて、リリアナは悲鳴を上げた。
「な、なんだ!? 」
ナルトが、驚きのあまり声を上げる。
「び、びっくり、させないでよ。」
「こっちが、びっくりしたわ。なんだ、声を上げて。」

「「「「なんでも、ないわ!! 」」」」
令嬢達は、四人揃って声を上げた。メイド達は、頷く。
(なんでも、ないか? )
ナルトは、首を振った。
「まあ、いいか。
セルビィ、知らないか? 昼飯も食わずに、いなくなったんだが。」
令嬢共々、メイド達も首を横に振った。
「そうか。じゃ、あそこか? 」
ナルトは、挨拶そこそこ踵を返して離れていった。

「心臓が、止まるかと思った。」
「怖かった。」
「大丈夫ですか、リリアナ。」
「大丈夫よ。それより、捜索再開よ。絶対に、見つけ出すのよ。」
今ここに、みんなの心は一つになった。
「「ファイト!! 」」
掛け声を上げて、捜索は再開された。

セルビィの居るところは決まっている。セルビィの部屋かセルビアの部屋。後は、図書室。セルビィは、本大好き少年であった。
経済学や農学、政治に関する本や精神学を好んで読んでいた。たまに、姉達の読む本を頭休めに読んでる位だった。
図書室。
それは、セルビィが子供の頃から集めて読んだ本と、業者が置いていった難しい本がある一室である。
「やっぱ、居たか。」
ナルトが、扉を開けてセルビィを見つけた。
床に本をばら撒き、開けて読んでいる。何か知りたい事があると、いつも関連の本を周りに開いてセルビィは読んでいる。
「今日は、医学か? 」
それは、人体の不思議と書かれてあった。
「珍しいな、精神や病気以外に興味を持つとは。」
「はい。迂闊でした。」
セルビィは、両手を床につき(もちろん、絨毯は引いている)顔を上げた。
「理解しました。」
真面目な顔で、ナルトを見る。
「そうか、何を? 」
「赤ん坊は、こうのとりが運んでこない。」
ナルトは、驚いた。
あのセルビアの言葉を、信じ切っていたセルビィが。
「赤ん坊は、男女間の生殖活動に寄って生まれる。と、理解しました。」
「そうか、セルビィも理解したか。」
「ただ一つ、解らないことが。」
「なんだ? 俺で解る事なら、教えてやるぞ。」
セルビィは、神妙な顔でナルトに聞いた。
「男同士の間でも、子供は出来るのでしょうか? 」
「はあ!? 何を、言って。」
ナルトは、素っ頓狂な声を上げる。
「ですから、男同士で子供は出来るのですか? 」
セルビィは、真面目に聞いてくる。
「いや、出来ねぇから。」
セルビィは、一冊の本を掲げる。
「ですが、この本には男性同士の生殖活動が。」
ナルトは、その本を手に取り捲る。挿絵(男同士が裸で抱き合っている)のあるところの話の内容を読んで。
「なんじゃこりゃ!? 」
叫んだ。
「姉様の部屋に、ありました。」
セルビィは、首を傾げた。
(なんてもん読んでんだ!! セルビア!! )
ナルトは叫びたくなったが『ここは、武士の情け』冷静に、セルビィに言った。
「これは、男色の話だな。」
「男色? 」
「男同士の愛の話だ。」
ナルトは、真面目に応える。セルビィは、初めて知る生殖活動に嫌悪感を抱いてはいないようだった。
無論、同性愛にも。ただ、いまひとつ、理解出来てないのかも知れない。
「愛。個人の立場や利害にとらわれず、広く身のまわりのものすべての存在価値を認め、最大限に尊重していきたいと願う、人間に本来備わっているととらえられる心情。(新明解 国語辞典引用。)」
セルビィは、一字一句間違わずに言った。
「辞典の意味を、言ってんじゃない。恋愛だ。」
「恋愛。特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人でいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。(同辞典引用。)」
セルビィは、首を傾げる。
「恋愛は、解りますが。何故、子供も出来ないのに男同士で生殖活動を。」
真面目に聞いてくる。
「生殖活動て、身も蓋もないことを言うな。これは、互いを求め合う欲望だ。」
ナルトは、ズバリ言った。
「欲望。物質的・肉体的に常により良い状態に自分を置きたいと思い続けてやまない心。」
「だから、辞典を引用するな!! 」
(こいつ、ぜってぇ解ってない。)
ナルトは、頭を抱えた。
「そうだ、セルビィ。お前にもあるだろう、こう、心の底から触りたいとか、抱き締めたい心情が。」
口では上手く言えないと、手が指先が動く。
「触りたい、抱き締めたい。」
セルビィは、考えた。
「あります。」
「あるか!! それだ!! 」
ナルトは、喜んだ。
「僕は、猫や犬に生殖活動を感じていると? 」
「ちがーう!! 」
ナルトは叫んだ。
「それは、違う。それは、恋愛とは違う。」
セルビィは、首を傾げる。
「人でないか? 動物と違って。」
祈るように、ナルトは言った。
「人、ですか。」
セルビィは、考えた。
「あります。抱きつきたい人が。」
「それだ!! それが、欲望だ!! 」
ナルトはセルビィに指をさして、叫んだ。
「僕は、姉様に生殖活動を望んでいると。」
「ちがーう!! ぜんぜん、ちがーう!! 」
ナルトは、焦った。
「それは、欲望じゃない!! それは、お前がシスコンなだけだ!! 」
ナルトの大声に、周りに人が(女性以外)集まり出した。その中にセラムとボルトがいた。
「では、何だと言うのです? 」
セルビィは、頭の中をフル回転しても解らなかった。
そして、セラムとボルトが部屋の中に入ってきた時、床に体を横たえた。
「我が、天使!! 」
倒れたセルビィに、駆け寄る。セラムが抱き上げると、真っ赤になったセルビィが頭から湯気を出していた。
「僕に、理解出来ないことがあるなんて。」
ぼそぼそと、呟いている。
セルビィは、熱を出して倒れた。知恵熱であった。

病気をしたことの無いセルビィが倒れたことで、セラムは吾を忘れて叫きちらし。令嬢達はセルビィが倒れた理由を聞いた途端、この世の終わりのような悲鳴を上げた。

そして、
「セラム様と令嬢達は取り乱し。此方に来られる状態では、有りません。」

「は、はい。セラム様は、阿鼻叫喚と化し。令嬢達は、この世の終わりのように 涙していました。」
と、なる。

セルビィは、ひとつ賢くなったが。まだまだ、お子様であった。
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