悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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秘密のお茶会。

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王都は、お祭り騒ぎで有る。秋の実りを神に感謝し、冬に備える。
収穫祭が、始まっていた。
収穫祭は三日三晩行われていた。
そして、学園秋学期の最後の日 終業式と収穫祭を同時に行う舞踏会が行われる。其れが終われば、冬休みの二カ月が待っている。
ルナの大程ではないが、ここにも雪が降る。
その為、冬籠もりとなるのだ。

その舞踏会の為、学園内の令嬢達は浮き足立っていた。舞踏会に着ていくドレスやアクセサリーを探して。婚約者のいない令息達は、エスコートをさせてくれる相手を探して。

セルビア達令嬢も、舞踏会に行く為にドレス等をランドール家で選んでいた。
だが、気が重い。
エスコートをしてくれる相手が、いないからだ。
王子達は、令嬢達をエスコートしたことはない。令嬢達は辱めに合いながら、四人で固まって壁の花と成っていた。今回も、やはり婚約者からのお誘いは無い。
セルビアの赤い情熱的なドレスも、アイリーンの爽やかな空色のドレスも、リリアナの可愛らしい若草色のドレスも、テレジアの妖艶な藤色のドレスも、壁の花に成るだけで虚しいだけだった。
「はぁ。行くのやだな。」
セルビアが、溜息交じりに言った。アイリーンが、頷きながら。
「仕方ありませんわ、義務ですから。」
「どうせ、皆に笑われるのに。」
「隣国の王子様達が来られているので、外すことは出来ませんわ。」
リリアナが今までの舞踏会を思い出し、テレジアが仕方なく言う。
壁の花としてではなく、王太子の婚約者としての飾りとしていなくては成らないかも知れなかった。
エスコートも、してくれない婚約者の為に。
「「「「はぁ。」」」」
令嬢達は、溜息を付いた。
楽しいお茶会が、暗い物となっている。

「姉様。舞踏会に出るのは、辞めましょう。」
セルビィが、微笑みながら言った。令嬢達の目がセルビィに、注がれる。
「その日は、皆で暑気あたりに成りましょう。」
秋とはいえ、まだまだ暑かった。暑い日と寒い日がせめぎ合い、暑気あたりになる者は多かった。
「病人に無理難題は、致しませんでしょう。」
セルビィは、可愛らしく首を傾げた。
「姉様達を、壁の花にはしたくありません。」
「でも、」
「隣国の王子様もいる事だし。」
「そうですわ。」
「無理かも。」
セルビィは くすくすと、笑った。
「アメリゴ帝国のリオン様は、気のいい人です。姉様達の気持ちを分かってくれるでしょう。」
「私達の気持ち? 」
令嬢達は、顔を見合わせた。
「チャイニ国は、」
すうっと、セルビィの黒い瞳から光りが消えた。
「何が、言えましょう。」
笑顔は、そのまま声を噤む。ぞっと、背筋に冷たい物が令嬢達に走った。
(((怖いですわ。)))
あの日の事が、思い出される。完膚無き程に、チャイニ国の侯爵を叩き潰し踏み抜けたセルビィを。
だが、一人まだ認めたくない者が。
「セルビィは、天使。セルビィは、天使。セルビィは、天使。」
小さな声で、自分に言い聞かせるセルビアがいた。
「向こうも、顔を合わせなくて安堵する事でしょう。」
令嬢達に、優しく微笑んだ。
「そ、そうね。」
「そうかしら。」
「そうだわ!! 」
リリアナが、叫んだ。
「セルビィは、天使。セルビィは、天使。セルビィは、天使。」
セルビアは、呪文の様に呟いていた。
「良かった。総ては僕に、お任せ下さい。僕が、姉様達を護ります。」
セルビィは、嬉しそうに微笑んだ。


セルビィが抜けた後。
呪文を繰り返すセルビアに
「いい加減 現実逃避は、お辞めに成って。」
「そう、そう。あれは、決まりだわ。」
「怖かったわ、あの一瞬。」
令嬢達は、セルビアに言った。セルビアは おずおずと、顔を上げた。
「セルビィは、天使よ。」
セルビアは、涙目で有った。少し可哀想になった、令嬢達は。
「そうね。天使と、悪魔は紙一重と言うわね。」
「私達の為に、悪魔にも成ってくれる。セルビィ君、カッコいい。」
「ええ、守護騎士の様ですわ。」
「守護騎士!! 」

物語の騎士は、美しい姫を護りつつ。時には、羅刹の如く敵を伐つ。敵から悪魔と罵られながら、ただ一人愛する姫の為に。
セルビアの大好きな物語の一説で有った。

「守護騎士。そうね、セルビィも もう子供じゃ無いんだから。」
セルビアは、立ち直った。
「守護騎士。セルビィは、私達を護る守護騎士よ。」

『姫よ。私は、貴方を護る為なら。悪魔でも、成りましょう。』
『いいえ、貴方は私の守護騎士。私にとっては、天使。天使の守護騎士です。』
二人は互いに思い合っていたが、思いを告げる事は出来なかった。姫は、隣国の王子の婚約者である。
『私は、姫の守護騎士。この命ある限り、貴方を護ります。』
『ええ、私の守護騎士は貴方だけ。』
後に、守護騎士は婚姻した姫の王に嫉妬され殺されてしまう。守護騎士を失った姫は、決して外には出ずその生涯を送ったという。

「悲恋だわ。」
「ううっ、姫様可哀想。」
「お泣きにならないで、これは物語ですわ。ぐすっ。」
「感情移入し過ぎですわ。」
テレジアは、目元の涙を拭った。
令嬢達は、冷めたお茶を飲んで落ち着いた。

「ところで、例の物 手に入ったわ。」
リリアナが、声を潜めた。
「まさか、」
「まあ、例の物ですの。」
「凄いわ、リリアナ。」
令嬢達は、ますます声を潜める。リリアナは、薄い本を取り出した。
「これは乙女にとって、禁断の書。」
「分かってますわ。」
「殿方に、見られる訳には行きません。」
「これが、あの禁断の書。『BL本』と、いうものですか。」
令嬢達は、目を合わせた。
今巷で流行っている(裏で流行っている)『BL本』令嬢達は、息を吞んだ。
「私もまだ、見てないの。皆と見ようと思って。」
「噂では、殿方の『HR本』と同じだとか。」
「破廉恥ですわ。(ゴックン。)」
「あ、開けるわよ。」
パラリと、本を捲った。
『キャーーーッ!! 』
令嬢達は、声が出ない喜声を上げた。





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