悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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犬のおまわりさん。

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セルビィ・ランドール。
ドジで不思議少年 と、私は思っていた。
だが、父は彼を化け物 と、言う。私の前で行った事が総て芝居なら、確かに彼は化け物かも知れない。
だとしたら、私は いいように扱われたと言う事になる。
「二歳も年下の少年に、私が。」
ビウェル・フレックスは、組んだ指を額にあてて 考えていた。
「最初から、総て解っていた事なのか。」
ビウェルは、唇を噛む。
「父への足がけとして、私に近付いたのか。」
イラッ として、ビフェルは思い切り拳を机に叩き付けた。
「だからと言って、何故。
ハニートラップなのだ。」
あれは、絶対にハニートラップだ とビウェルは思い当たる。其れにまんまと、はまってしまった。近寄る女は、数多くいる。その誰にも、はまったことは無い。むしろ、自分に夢中にさせた事さえ有る。なのに、あの少年に。
「確かに、可愛らしい顔をしている。」
いや、そうではない。今までにいない、感じの女性。
いや、そうではない。彼は少年で、あれは芝居だ。
「・・・・・・。」
堂々巡りを、思考型が繰り返している。
ビウェルは思い切り両手を机に叩き付け、立ち上がった。
「このままでは、すませない。」
彼は呟く。彼の、男としての自尊心が(やられたままでは)許さなかった。
「少し、痛い目を見て貰う。」


夏学期最後の登校日。
此から、三カ月間学園は休みに入る。辺境に領地を持つ貴族達の為に、三カ月間の休みに入るのだ。
セルビア達に合うのだと、昨日殿下達は 息巻きていた。
其れは、学園が始まるまで 会うことが出来ないからだった。妃教育、公爵家の教育は既に終わっており。セルビア達は、今年中は城に上がることは無い。学園を卒業すれば、実家に戻る事はもう無いだろうと。珍しく、三学年の時期を親元で過ごす事を良しとしていた。
殿下達の挨拶は、必須なので朝の忙しい時期を選んで姉に来させたのだ。
「おはよう御座います、殿下。何時も、セルビィをお世話下さいまして 有難う御座います。」
セルビアは、優しく微笑んだ。アランは、慌ただし中、足を止めた。
「セルビア、大事無いか。」
「はい、殿下。」
嬉しそうに、アランはセルビアに声を掛ける。
「今日は、忙しい処。夏学期最後の登校日、休みに入るご挨拶に参りました。」
「そうか。セルビア、其方 休みは」
「殿下。式の挨拶の打ち合わせが。」
書類を持って、生徒会員が現れる。
「姉様、殿下達は忙しいのですから これ位で。」
セルビィが、すかさず口を挟む。自分達の婚約者に挨拶をしている令嬢達に、セルビィは声を掛けた。
「ご迷惑を掛けてしまいます、姉様方。挨拶は、それ位に。」
「ええ、そうね。」
令嬢達は、セルビィの言葉に頷いた。
「では、殿下。秋学期まで、御機嫌よう。」
セルビア達令嬢は、華やかに礼を持って離れていった。
婚約者との会話も無く、ただ挨拶のみであった。
足早く、その場を放れようとするセルビィは ふと ビウェルと目があった。
セルビィは、彼に微笑んだ。
だが、ビウェルは つい と、目を反らした。
「 ? 」
セルビィは、首を傾げた。



終業式が終わって、セルビィは姉達令嬢を さっさと屋敷へと返した。
やはり、殿下達は憤怒した。
だが、
「殿下達のご苦労を、目の辺りにして 姉様達は。」
セルビィは上目遣いで、アラン達を見る。
「殿下達に、ご迷惑を掛けないように 屋敷に戻ったのです。」
辛そうに、セルビィは目を伏せた。聞こえる程の小さな声で。
「姉様達も、殿下達に逢いたかった事でしょう。」
セルビィは、アラン達に微笑んだ。
「姉様達の殿下達に対する、気遣い 解って貰えませんか。」

「そうか、セルビアは私を気遣ってくれたのか。」
「はい。お疲れの殿下に、これ以上気を使わせてしまうのは 忍びないと。」
辛そうに、頭を振った。
「テレジアは、私の体を。」
「はい。健やかなることを、祈っております と。」
目を伏せ、応える。
「アイリーンは、私の事を、思って。」
「はい。ご自身を、御自愛下さい と。」
静かに、目を開ける。
「リリアナは、俺に会いたいと。」
「はい。ですが、残り少ない家族との触れ合いを思うと 健気に 微笑んでおりました。」
哀しそうに、微笑んだ。
「そうか、残り少ない家族との触れ合いか。」
「我らに、輿入れすれば 久しく家族との合う事も。」
「無理でしょう、爵位が違います。」
「俺達が、護ってやらないと。」
アラン達に、目を合わせ頷く。
「殿下達の姉様達への心遣い、有難う御座います。」
セルビィは、頭を下げる。
「姉様との最後の家族との触れ合いを、大事にしたいと思います。」
「そうか、仕方が有るまい。」
「家族の愛は、神の愛と同等に等しい。」
「家族との触れ合い、大事にするよう伝えて下さい。」
「健気なだな。」
「はい。有難う御座います、皆様。」
セルビィは、髪を揺らし嬉しそうに微笑んだ。


「これで、家族との触れ合いと言えば 暫くは黙りそうです。」
足取り軽く、第一生徒会室を後にする。廊下に出ると、ビウェルが待っていた。
「話が有る。」
扉を開けて、セルビィを部屋へと誘う。セルビィは首を傾げながらも、部屋の中へと入った。入ったのを見留めて、ビウェルは扉を閉める。
「フレックス先輩? 」
振り向いたビウェルは、上からセルビィを見下ろした。はらり と、銀の前髪が崩れる。
「今日は、転けないのか? 」
つい と、近寄る。
「慌て、ないのか? 」
セルビィは にっこり と、微笑んだ。
「其方が、素か。」
ビウェルの見下ろす琥珀色の目は、冷たい。セルビィは、嫌な感じがして 一歩下がった。
ビウェルは、詰め寄る。
「楽しかったか? 人の心を、翫ぶのは。」
一歩、詰め寄る。セルビィは、一歩 下がった。
「私を、侮るのは? 」
一歩、詰め寄る。セルビィはいつの間にか、壁に追い詰められていた。
「フレックス、先輩。」
声が、震える。人に追い詰められるのは、初めてだった。
両腕に挟まれて、逃げる事が出来ない。
「知っているか? 」
ビウェルは、耳元で囁く。
「恋に狂った男は、相手を手に入れる為に 殺す事もあると言う事を。」
セルビィの目が、見開かれた。ビウェルは、耳元から顔を離すと上からセルビィを見下ろした。その目は冷たく、静かに細められた。
「あ・・・」
声が、でなかった。
体が、震える。
セルビィは初めて、恋に狂った者は恐ろしい のだと理解した。

「其処いら辺で、勘弁してくれないか。」
ナルトが、ビウェルの肩を掴んだ。ビウェルは顔だけを、振り向かせる。
「遅かったな。もっと早く、来ると思っていたが。」
ナルトは、笑った。
「まあ、俺も 此奴にちょっと痛い目を見て貰おうと思ってな。」
「そうか。」
「ああ。此奴は、警戒心がなさ過ぎる。」
「そうだな。」
ビウェルは、笑って壁から手を離した。
「セルビィ、これに懲りたら 」
ナルトは、セルビィを見る。
「ご、」
セルビィの唇が、動く。
「ごめんなさい。」
腰砕けの様に、セルビィは壁に体を預けるように崩れ落ちた。
「ごめんなさい。」
「セルビィ!? 」
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
両拳を目にあてて、謝る。
「クリスト先輩、ロット先輩。揶揄って、ごめんなさい。」
「おい、セルビィ!? 」
「ルイス先輩、フレックス先輩。面白がって、ごめんなさい。」
「嘘泣きは、」
困惑しながら、ビウェルは声を掛ける。
「ナルト様。ハニートラップ掛けて、ごめんなさい。」
「やっぱ、俺に 掛けてたんか!! 」
ナルトが、突っ込んでも
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
セルビィは、泣いて謝るばかり。
「おい、ガチ泣きか? 」
核心した様に、ビウェルは呟いた。ナルトの顔が、気が付いた様に青ざめる。
「しまった!! 」
「!? 」
「此奴、箱入りだった。」
「何!? 」
ビウェルは 素っ頓狂 な、声を出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
セルビィは、ただ子供の様に泣きじゃくる。
犬のおまわりさん、じゃあなく。ナルトとビウェルは、困ってしまって
「どうしょう。」
と、顔を見合わせた。






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