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朝の学園。

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セルビィが帰って、一時間がたった頃。

「何故だ!! 何故、セルビアは来ない!! 」
第一生徒会室の中。と、言っても華美な応接室の様な場所でアラン王太子は声を荒げた。書斎の上に乗る書類を、怒りの余りはたき落とす。
「落ち着いて下さい、アラン。」
エリックが、落ち着くよう声を掛ける。
「去年まで、私に逢いたくて足繁く通って来ていたのに。」
「そうです、昨日は私に祈る様な目を向けて来ていたのに。」
シモンは、昨日のテレジアの表情を思い出して頰を染める。
「私が、会ってやると言ってるのに!! 何故、来ない!! 」
苛々しく、机に拳を叩き付ける。
「照れてるんじゃ、ないのか。俺達が、手を差し伸べてやったから。」
昨日の愛らしいリリアナの笑顔を思い出して、レイモンドは頭を掻いた。
「そうですね、今まで少し邪険にして来ましたし。」
エリックは、縋る様なアイリーンの瞳を思い出し 眼鏡をかけ直した。
「仕方が無いだろう。何時もセルビアは、くそ生意気だったんだ。」
苛立つ様に、アランは顔を反らした。
「なのに昨日は。」
不安げな表情の弱々しいセルビアを、思う。
「あんなセルビアは、初めてだ。」
護りたくなる程、儚い。
アランは、真っ赤に顔を染め上げた。
「何時も、あの様に謙虚なら護ってやらなくもない。」
ぼそりと、呟く。
「まあ、な。」
「そうですね。」
「ええ。」
三人も、顔を赤くしながら頷いた。


レイモンドは、席を立った。
「外で、躊躇ってるのかも知れない。見てくる。」
そう言って、部屋の外に出て行った。
生徒会の実務が終わり、丁度 セルビィの事を報告に行こうとしたバレットは。部屋から出て来たレイモンドに、声を掛けた。
「レイモンド様、どうなさいました。」
「いや。」
キョロキョロと、辺りを見ながら。
「何時もの令嬢達は、来てなかったか? 」
「いえ、レイモンド様達に迷惑を掛ける者は。」
「いや、そうじゃない。」
レイモンドは、廊下の奥の方を見ながら。
「そう言えば、レイモンド様。先程、」
「弟のセルビィを、呼び出せば 一緒に付いてくると思ったんだが。」
「えっ!? 」
バレットは、焦った。
「殿下が、お召しに? 」
(そんな事は、聴いていない。)
バレットは、心の中で打ち震えた。
(このままでは、私が殿下のお召しを断った事になってしまう。)
バレットは頭の中で、起死回生を練る。
『ガシャーン!! 』
何かの割れる音が、第一生徒会室から響いた。
「あちゃー。アランの奴、かなり苛立ってるな。」
(これは、不味い。どうにか、しなければ。)
「まあ、確かに昨日の令嬢達は 本当に可愛かったからな。」
レイモンドは、ついニヤけてしまう。あの愛らしいリリアナが、自分の婚約者。
「悪くない。」
毎日自分に会うために、足繁く通っていた。其れは、
「俺の事が『好きだ』と、言う事だな。」

今までの令嬢達に対する仕打ちを忘れ、頓珍漢な事を彼等は思っていた。

「レイモンド様。私が、明日朝一番に セルビィ様を連れて参ります。」
「ん!? 」
思いに伏せっていたレイモンドは、バレットの事を忘れていた。
「必ず、私。バレットが、セルビィ様を連れて参ります。」
レイモンドは、生徒会室の方を見ながら
「其れが良いな。アランがこれ以上不機嫌に、なる前に。」
レイモンドは、バレットを見る。
「明日、朝 一番にセルビィを連れて来い。」
「はい。確かに、私 オレヲ・バレットが承りました。」
冷や汗を流しながら、バレットは頭を下げた。






「セルビィ様。王太子殿下が、お逢い下さるとの事です。生徒会室に今から、お越し下さい。」
小太りの男が、軽く頭を下げた。
「不躾に、何ですか? まず、名を名乗りなさい。」
「私は、オレヲ・バレットです。昨日、其方のセルビィ様と話しをさせて貰った者です。」
オレヲは、セルビアの後に立つセルビィを見る。
先程学園に登校したばかりの二人に、名も名乗りもせずにバレットは声を掛けたのであった。声を掛けられた時、セルビアは弟を護る様に前に出た。
「貴方が、バレット伯爵令息ですか。昨日の事は、セルビィから聞きました。」
セルビアは弟を見ると、セルビィは哀しそうに目を伏せた。
「セルビィは 弟は、既に殿下に挨拶に行きました。会わなかったのは、殿下の方です。」
セルビアは、凛と背筋を伸ばして
「お断り、致します。」
はっきり と、言った。
「姉様。」
弱々しい声が、後から聞こえる。セルビアは、セルビィを手元に引き寄せる。
「僕が、王太子殿下に会わなかったから。殿下は、怒っているのでしょうか。」
俯きながら、囁く。
「でも、殿下が。王太子殿下が、豪の者の僕には会いたくないと。そう仰って、おられたんですよね。バレット様? 」
周りの者に、聞こえる様にセルビィは声を張った。

何か、揉め事かと周りの生徒達が足を止めて観ている。
「僕は、殿下のお召しに。確かに、生徒会室に行きました。でも、バレット様が殿下は お逢いにならないと。殿下に迷惑は、掛けるなと。そう、言われて。」
セルビィは、姉の腕にしがみ付いた。微かに、震えている。
「僕は、如何すれば良かったのでしょうか。姉様。」
潤んだ瞳で、セルビアを見る。
「セルビィ、貴方は何も悪くはないわ。」
セルビアは、優しく弟の頭を撫でた。その眼差しは、慈愛に満ちていた。

「ほおっ・・・。」
周りの生徒達は、何時もとは違うセルビアの表情に驚きの声を上げていた。
うっとり と、美しいセルビア姉弟を見詰めていた。

「弟は、昨日 確かに殿下のお召しに応えました。」
セルビア、セルビィを抱き締める。
「これ以上、セルビィを困らせないでと 殿下に仰って下さい。」
「姉様。」
「この学園に居る間、私もアラン殿下に会いに行ったりはしません。」
セルビアは、哀しそうに。
「もう、ご迷惑はお掛けしません。ですから、もうセルビィを虐めないで。」
心からの、言葉だった。
「姉様。」
セルビィは、バレットに顔を向ける。
「僕も、王太子殿下には迷惑を掛けません。」
セルビアは、抱き締める。
「絶対に、会いに行きません。」
涙声で、周囲に聞こえる様に声を上げた。
「そ、其れは、困ります!! 」
バレットは、慌て声を張り上げた。
「何故です? 」
「殿下は、迷惑ではなく。会って、下さると。」
バレットは、慌てながら諭す様に言葉を掛ける。
「嘘です。殿下は『豪の者には逢わない』と『迷惑だ』と。昨日、バレット様は言いました。」
「こ、声が、大きいです。セルビィ様。」
バレットは、自分が言った聴かれては不味いものを言われ 慌てる。
周りの生徒の目が、バレットに集中する。
「殿下のお召しに伺った僕を、そう言って帰させたのはバレット様です。」
「殿下のお召しだと、言って下されば。私とて、お通ししました。」
言ってはならない事を、バレットは口にした。
直ぐさま、口を噤む。しかし、遅かった。周りの生徒達に聴かれてしまった。
セルビィは、微笑んだ。
だが、その顔を隠すように口元を手で覆う。
「どう言う事ですか? バレット様。」
「其れは、その。」
バレットの目線が、キョロキョロと動く。言い訳を考えて、頭を廻らす。
「殿下の意志では、無かったのですか? 」
周りの生徒達は、バレットの言葉に集中する。
「まさか、殿下は僕が挨拶に伺った事も知らないのですか? 」
「そ、其れは。」
セルビィは、目を細める。
「そんな事は、有りませんよね。バレット様は、確かに受託して下さいました。」
「た、確かに。」
セルビィは、追及を緩めない。
「まさか、公爵家の。僕の言葉を、伝えない事は あり得ませんよね。」
「そ、其れは。」
バレットは、顔を青くし冷や汗を流していた。

下位の者が、上位の者の伝言を伝えない事は在ってはならない。嫌、受託したなら人として伝えるのは当たり前である。
周りの生徒達は、青く震えるバレットを冷たい目で視ていた。

「セルビィ。」
はっ と、セルビィは目を見開く。困惑して、自分を見るセルビアと目が合った。
(やり過ぎた。)
セルビィは、珍しく汗を一滴 流した。
「姉様。」
恐る恐る、声を掛ける。
「セルビィ 貴方。」
ごくり と、喉が鳴る。
「けっこう、言うのね。」
セルビィは、目を反らしながら
「僕だって、男です。言う時は、言います。」
「そうね。何時までも、子供ではないのね。」
少し哀しそうに、
「でも、頼もしかったわ。セルビィ。」
にっこり と、微笑んだ。
「はい、姉様。」
セルビィも にっこり と、微笑んだ。
「では、行きましょう セルビィ。皆が、待っているわ。」
「はい、姉様。」
その場を、離れようとする二人に
「お待ち、ください。」
バレットは、縋る様に声を掛けた。
セルビィは青く震える、バレットに微笑む。
「バレット様。まだ、王太子殿下に伝言を伝えていないのなら。早く、伝えて下さい。お願いします。」
其れが、最後の言葉だった。バレットは、その場に崩れ落ちた。
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