悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
上 下
9 / 128

開拓地。

しおりを挟む
ランドール領の開拓は、秘密裡に順調に進んでいた。セルビィは、王都に帰らず子供ながら知恵を出していた。
まず、岩山近くに直径二十五メートル、高さ三メートルの半円状の石垣を造った。其れを中心に、二キロメートル置きに三メートルの石垣を造る。滑らかな、丘に段階の石垣を五層作った。一番上以外の石垣の間を、土で埋める。
働き手は、王都でスラムってた豪の者。其れと、砦に常駐の三分一の兵士。体力作りにの実績を兼ねて、帰郷のさいに荷馬車に森の土を運ばせる、一石二鳥であった。資金は、オースト国の援助金。軍用荷馬車に、軍用馬。
「やっぱり、軍用馬は馬力が違います。」
爽やかに、微笑むセルビィ 十歳。その可愛らしさは、まさに天使であった。
その隣で、ボルトは呟く。
「これって、横領じゃないのか。」
「違います。豪の者の為の援助金で、豪の者を雇う。豪の者の為に使っているので、横領とは違います。」
「た、確かに。」
ボルトは、唸った。
セルビィの言っている事は、理に適っていたが理不尽であった。

「皆さん、地盤は思いっ切り硬くして下さい。お願いしまーす。」
セルビィは手を振って、笑顔で応援する。天使の応援に、働き手達は仕事を奮闘するのであった。
「笑顔で仕事がはかどるのなら、僕は幾らでも微笑みます。」
隣のボルトは、背中に冷たい物がつたった。

バタバタ と、鳩がボルトの元に降りてくる。鳩の足元には、小さな筒が着いていてその中に手紙が入っていた。ボルトは、それを取り出す。
「なんですか? 」
「セルビィ。お前、宛てだ。」
ボルトは、手紙を渡した。

『我が、愛しの天使。視察が入る、どうしょう。』

王都に居る、父親からの手紙であった。
「視察か、五年ぶりだな。どうする、セルビィ。」
「問題ないです。視察が入るのは、ランドの町です。」
セルビィは、微笑みながらきっぱりと言った。

ランドの町は、手つかずのそのままだった。いや、人がいない分 益々 寂れていた。
「おじい様と、何人かの方に戻ってもらいます。子供は、話してしまうかも、だから連れて行きません。」

(お前も、子供だろ!! 本当に十歳か!? )

ボルトは、心の中で突っ込んだ。そして『絶対に、敵にはならない。』と誓った。


視察は、無事に終わった。
町に戻った領民達は、見事に悲惨な領民を演じて見せた。視察団は、ランドール領の悲惨に満足してその日内に帰って行った。
セルビィも、怯えた子供の様にボルトの後ろ隠れて震えていた。
「無能、です。」
帰って行く、視察団に向かってセルビィは微笑んで言った。その時 ボルトは、セルビィの天使の笑顔の下に悪魔を見た。


開拓地に領民を見送りながら、セルビィは言った。
「僕は、王都に戻ります。開拓地は、ボルト様に任せます。」
「ちょ、待て、俺には無理だ。」
ボルトは、すかさず返した。セルビィは、微笑んで書類の束を出して言った。
「大丈夫です。この通り、作って下さい。」
子供のつたない文字だが、内容は凄かった。所々設計図も在った。
一番上の堀は水を溜める場所、其所から放射状に水路を描き次の段に水を溜める堀。その堀からまた何本かの水路が。それが五階層、続いている。そして、完成予想図(セルビィの絵)は水 森 畑四層 一番下が町となっていた。石垣の所に、街路樹を植える事も書かれていた。
『水が、いっぱい欲しい時は 雪崩を起こして堀に雪を落として下さい。』と、最後に付け加えられていた。
(此奴、マジ 十歳か!! 転生者じゃないのか!? )
つい、ボルトはセラムの口癖を思ってしまった。

「問題は、城壁なのです。これには人手が、いっぱい要ります。」
確かに、後はそそり立つ岩山で護りは完璧だが前面は。
「それには父様の力が、必要なのです。」
「セラムの力がか? 」
「はい。豪の者の伯爵様に、お話しをしてもらいます。きっと、力になってくれます。」
セルビィは、にっこり笑らって言った。
(此奴、三伯爵を巻き込む積もりか!! )

豪の三伯爵。オースト国の扱いは、ランドールと同様の扱いであった。
援助の為、娘をオースト国の公爵と婚約させ。激戦区である砦を、護らされていた。砦に人を割くため、自国にいっさい手が付けられない状態だった。
熟知たる思いは、ランドールと同じ。その気持ちを、揺さぶれば。そして、この開拓地を見せれば。

ボルトは、セルビィの天使の笑顔が怖かった。
「しかし、砦を護っているから人員は割けないだろう。」
(まあ、俺達は割いてるけど。ここ数年、隣国は攻め入って来ないからな。)
セルビィは、きょとん とした顔で言った。
「大丈夫です。ケンカは起こりません です。」
「はぁ!? 」
ボルトは声を上げた。
(セルビィの言うケンカって、戦の事だよな。)
「どう言う事だ!! 」
ボルトは、前のめりになってセルビィに聞いた。
「他国に買い出しに行く人に、隣同士の国の名前を出して貰ってます。」

詰まり、隣の国の者が大量に食料や資材を買って行く。『何のために? 』
『まさか、戦を起こす気か? 』彼等はきっと、疑心暗鬼に陥ったであろう。

セルビィは、満面の笑みをボルトに向けた。その笑顔はまさに天使。だが、
(悪魔だ。悪魔が、ここにいる。天使の仮面を被った、悪魔が。)
ボルトは、何も言えず呆然と立ち尽くしていた。


セルビィ 十歳。王都に戻り、次の段階に入る。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:497pt お気に入り:3,362

異世界で新生活〜スローライフ?は精霊と本当は優しいエルフと共に〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,542pt お気に入り:1,125

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:3,672pt お気に入り:2,835

転生した悪役令嬢の断罪

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,639pt お気に入り:1,671

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,065pt お気に入り:7,011

処理中です...