お父様が、女性と女の子を連れて帰って来た。

女主人として。

「スコット様。リラ様はローズ様の、　」
「えっ、従姉妹だろ。」
当然のようにスコットは応え、ローズの友達のリリアーネとカナリは不思議そうに頷く。

「一言ですね、ローズお嬢様。」
そうたった一言、友達使用人に#愚痴れ話せば知れたことである。だが、彼女等は頑なに誰とも話しをすることを渋った。扉の前で、謝っているレムスの言葉も耳に入れなかった。

リンダが前倒しで訪れることを、それを伝え忘れていたことを。気分が悪いのなら、ゆっくりと休んで欲しいと。屋敷の事は執事が不在で心配だが、使用人達みんなで回してもらうと。安心させる為に親戚筋リンダに任せると言ったが、リンダは自分の引っ越し準備の為に昼間は屋敷にいなかった。
早く元気になって欲しいと、皆の気遣いであったが総て裏目にでていた。

（何時もなら、女性に攻撃的なマーガレット様お嬢様もリラ様を見てショックを受けたのでしょうが。）
自分を愛しているはずのレムスが長年自分を裏切っていたと思ってしまったのだから。

（しかし、寄りにもよって隠し子とは。あのぽんこつバカ様には無理です。）

はあ、と溜め息をつくセバスチャンは右手で額を抑えた。

「ねえ、ローズて……　」
「えっ、まさか……　」

「奥様が……　」
「リラ様を……　」
「リンダ様を、ぁぃ……　」
執事の質問に、周りの者達がなんとな～く何を聞いているか気が付き始めた。

「何時もお教えしてましたよね、マーガレット様お嬢様。情報収集し、確認をとるようにと。」
執事の昔からの有り難い教えが、マーガレットに浴びせかけられる。

「お嬢様は、今やこの屋敷の女主人なのです。情報の収集もせず、確認も取らず勝手に自分の思い込みだけで行動を起こす。それがどれほど恐ろしいことが、お分かりにならないのですか。」
何時ものお小言に、嫌そうな顔をするマーガレット。

「今回はうちわの事ですので大事に至らなかったですが。詐欺師にでも騙され、誰にも相談せずに情報収集せず、旦那様に確認せず。事を決められたら、家が没落傾く事もありうるのですよ。」
執事は、冷たい声で言った。

「女主人とは、それ程権力力を持っていることをお忘れなく頂きたい。」
セバスチャンは、マーガレットだけでなくその場にいるローズや令嬢達にも目を向けて話しをする。

「リンダ様もお忘れなく。」
「肝に銘じます。」
執事の鋭い目と声に、リンダは背筋を伸ばして応えた。

「何時までも察してもらえる側助けてもらえると思わないことです。女主人となったからには、察する側助ける方になったのです。」
執事はゆっくりとマーガレットに近づく。

「奥様は雇用主女主人なのですから、働く者の健康や精神面を理解する努力をしなくてはなりません。何故、こういった状況になっているのか、どうすれば改善できるのかを考え実行していく義務があります。」
冷たく微笑んでマーガレットの耳元で声を張り上げた。

「聞いてますか、|マーガレット様！！　」
「セバスチャン、そう捲し立てたらマーガレットも辛いだろ。」
「レムス、あなた。」
庇ってくれるレムスに嬉しそうにマーガレットは、縋り付く。

「それにマーガレットは何時も、頑張ってよくしてくれている。」
「そうよ、私は頑張ってるわ。」
マーガレットは執事から逃げるようにレムスの後ろに隠れた。

子供っぽいマーガレットに、使用人達の奥様に対するイメージが崩れていく。聡明な奥様とは、総てはセバスチャンのフォローのたまものであった。

「出で行くお別れする方は、黙ってて下さい。」
執事の言葉に、レムスは俯いた。

「ぶっちゃけ、跡継ぎアゼリア様がいるので。離婚する別れる事に反対は致しません。」
セバスチャンは、笑顔を二人に向けた。