上 下
38 / 69
お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~

栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~【12】

しおりを挟む
「いくら雨が降りやすい土地とはいえ、さすがに毎日雨が降ると困る方が多いでしょう。私は、とびきりおいしい甘味が出る日におもてなしができないときは残念だと思うこともございますが、こうしてお日様が見える日も必要なのです」

「確かに、晴れてくれなきゃ困るもんね。おばあちゃんは雨が好きだったし、私もその影響で雨は嫌いじゃないけど、太陽が出てると気持ちがいいし」

「ひかり様のおばあ様は、雨がお好きだったのですか?」

「変わってるでしょ?」

「いいえ。雨天様がお聞きになれば喜ばれると思います」

「うん、喜んでたよ」


 私の言葉に、コンくんは優しい眼差しで「そうですか」と口にした。
 雨天様も、昨日この話をしたときに似たような表情をしていたことを思い出す。


「コンくんは、雨が好き?」

「はい、もちろんでございます。ですが、お日様も大好きです。晴れた日には縁側で甘味を食べるのですが、それがまた格別においしいのです。きっと、今日もたくさん食べてしまいます」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、楽しみだね」

「はい。雨天様もお日様が好きですから、楽しみにされているはずです」


 雨天様という名前や、雨を降らせるという力のことを考えれば、太陽が好きというのは意外な感じもしたけれど……。雨天様も晴れている日が好きだと聞いて、なんだか嬉しくなった。


 コンくんの言う通り、今日のおやつは縁側に並んで座って食べることになった。
 夏の陽射しは少しばかり強いけれど、涼しげな風鈴の音がそよぐ風とともに暑さを和らげてくれる。


 しかも、今日の甘味は特製のシロップがかかったかき氷だった。
 茶色のシロップと練乳、そして炊き上がったばかりの小豆が添えられていて、氷はとてもきめ細かい。


 なんでも、氷は庭の最奥にある湧き水から作っているものらしい。どれだけ食べても頭がキーンとならなくて、いくらでも食べられそうだ。
 茶色のシロップはほうじ茶を煮出して作られていて、甘さが控えめの練乳との相性が抜群だった。そこに炊き立ての小豆も加われば、もう頬が落ちてしまうかと思ったくらい。


「ひかりは本当においしそうに食べるな」

「だって、本当においしいんだもん」

「それほど喜んでもらえると、作り甲斐があるものだな」

「ねぇ、この小豆の炊き方、教えてくれない?」

「なぜだ?」


 庭で遊び始めたコンくんとギンくんを横目に切り出してみると、雨天様が不思議そうな顔をした。
 理由を言おうとした唇が一度動きを止め、少し悩んだあとで素直に答えを紡いだ。


「なんとなくなんだけどね……。雨天様の小豆の味って、おばあちゃんが食べさせてくれたものと似てる気がするから」


 すると、雨天様が目を小さく見開いた。


「……そうか。この作り方に辿り着くまでに随分と苦労したのだが、ひかりのおばあ様は料理の腕がよかったのだな」

「えっと、うん……。確かに、おばあちゃんの料理はどれもおいしかったよ。でも、小豆の味は似てる気がするっていうだけで、雨天様が作った小豆の方がおいしいと思う」


 おばあちゃんは長生きしたけれど、雨天様と比べれば何百年どころじゃないほどの差がある。
 その間ずっと、甘味作りをしてきた雨天様にとって、『おばあちゃんが作ったものと似ている』と言われたら複雑な気持ちになるだろう。


「あの、本当だよ?」


 それが一瞬戸惑った理由だったのだけれど、結局口にしてしまった私は、慰めにもならない言葉を続けることしかできない。
 だけど、雨天様の小豆の方がおいしいと言ったのは、嘘なんかじゃなかった。


「別に気を遣わなくてもよい。ひかりが言いたいことは伝わっておる」

「心を読んだの?」

「読まなくてもわかる」


 苦笑した雨天様は、「本当だ」と付け足した。私はその言葉を信じると言う代わりに、小さく首を縦に振る。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍神のつがい~京都嵐山 現世の恋奇譚~

河野美姫
キャラ文芸
天涯孤独の凜花は、職場でのいじめに悩みながらも耐え抜いていた。 しかし、ある日、大切にしていた両親との写真をボロボロにされてしまい、なにもかもが嫌になって逃げ出すように京都の嵐山に行く。 そこで聖と名乗る男性に出会う。彼は、すべての龍を統べる龍神で、凜花のことを「俺のつがいだ」と告げる。 凜花は聖が住む天界に行くことになり、龍にとって唯一無二の存在とされる〝つがい〟になることを求められるが――? 「誰かに必要とされたい……」 天涯孤独の少女 倉本凜花(20)     × 龍王院聖(年齢不詳) すべての龍を統べる者 「ようやく会えた、俺の唯一無二のつがい」 「俺と永遠の契りを交わそう」 あなたが私を求めてくれるのは、 亡くなった恋人の魂の生まれ変わりだから――? *アルファポリス* 2022/12/28~2023/1/28 ※こちらの作品はノベマ!(完結済)・エブリスタでも公開中です。

【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
 平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。  非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。 ※注意:キスシーン(触れる程度)あります。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太
キャラ文芸
 これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。  挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★  そのルールは単純にて深淵。  対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。  そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!  例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。  まともな勝負だ。  例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。  骨をどうすればいいんだ……  例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」  どんな特級厨師だよ母。  知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!  特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!  敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。  この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?  料理バトルものです。  現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。  実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。  まだまだレベル的には足りませんが……  エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。  パロディ成分多めです。  本作は小説家になろうにも投稿しています。

坂本小牧はめんどくさい

こうやさい
キャラ文芸
 坂本小牧はある日はまっていたゲームの世界に転移してしまった。  ――という妄想で忙しい。  アルファポリス内の話では初めてキャラ名表に出してみました。キャラ文芸ってそういう意味じゃない(爆)。  最初の方はコメディー目指してるんだろうなぁあれだけど的な話なんだけど終わりの方はベクトルが違う意味であれなのでどこまで出すか悩み中。長くはない話なんだけどね。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

バリキャリオトメとボロボロの座敷わらし

春日あざみ
キャラ文芸
 山奥の旅館「三枝荘」の皐月の間には、願いを叶える座敷わらし、ハルキがいた。  しかし彼は、あとひとつ願いを叶えれば消える運命にあった。最後の皐月の間の客は、若手起業家の横小路悦子。 悦子は三枝荘に「自分を心から愛してくれる結婚相手」を望んでやってきていた。しかしハルキが身を犠牲にして願いを叶えることを知り、願いを断念する。個性的な彼女に惹かれたハルキは、力を使わずに結婚相手探しを手伝うことを条件に、悦子の家に転がり込む。  ハルキは街で出会ったあやかし仲間の力を借り、悦子の婚活を手伝いつつも、悦子の気を引こうと奮闘する。

処理中です...