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お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~
栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~【12】
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「いくら雨が降りやすい土地とはいえ、さすがに毎日雨が降ると困る方が多いでしょう。私は、とびきりおいしい甘味が出る日におもてなしができないときは残念だと思うこともございますが、こうしてお日様が見える日も必要なのです」
「確かに、晴れてくれなきゃ困るもんね。おばあちゃんは雨が好きだったし、私もその影響で雨は嫌いじゃないけど、太陽が出てると気持ちがいいし」
「ひかり様のおばあ様は、雨がお好きだったのですか?」
「変わってるでしょ?」
「いいえ。雨天様がお聞きになれば喜ばれると思います」
「うん、喜んでたよ」
私の言葉に、コンくんは優しい眼差しで「そうですか」と口にした。
雨天様も、昨日この話をしたときに似たような表情をしていたことを思い出す。
「コンくんは、雨が好き?」
「はい、もちろんでございます。ですが、お日様も大好きです。晴れた日には縁側で甘味を食べるのですが、それがまた格別においしいのです。きっと、今日もたくさん食べてしまいます」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、楽しみだね」
「はい。雨天様もお日様が好きですから、楽しみにされているはずです」
雨天様という名前や、雨を降らせるという力のことを考えれば、太陽が好きというのは意外な感じもしたけれど……。雨天様も晴れている日が好きだと聞いて、なんだか嬉しくなった。
コンくんの言う通り、今日のおやつは縁側に並んで座って食べることになった。
夏の陽射しは少しばかり強いけれど、涼しげな風鈴の音がそよぐ風とともに暑さを和らげてくれる。
しかも、今日の甘味は特製のシロップがかかったかき氷だった。
茶色のシロップと練乳、そして炊き上がったばかりの小豆が添えられていて、氷はとてもきめ細かい。
なんでも、氷は庭の最奥にある湧き水から作っているものらしい。どれだけ食べても頭がキーンとならなくて、いくらでも食べられそうだ。
茶色のシロップはほうじ茶を煮出して作られていて、甘さが控えめの練乳との相性が抜群だった。そこに炊き立ての小豆も加われば、もう頬が落ちてしまうかと思ったくらい。
「ひかりは本当においしそうに食べるな」
「だって、本当においしいんだもん」
「それほど喜んでもらえると、作り甲斐があるものだな」
「ねぇ、この小豆の炊き方、教えてくれない?」
「なぜだ?」
庭で遊び始めたコンくんとギンくんを横目に切り出してみると、雨天様が不思議そうな顔をした。
理由を言おうとした唇が一度動きを止め、少し悩んだあとで素直に答えを紡いだ。
「なんとなくなんだけどね……。雨天様の小豆の味って、おばあちゃんが食べさせてくれたものと似てる気がするから」
すると、雨天様が目を小さく見開いた。
「……そうか。この作り方に辿り着くまでに随分と苦労したのだが、ひかりのおばあ様は料理の腕がよかったのだな」
「えっと、うん……。確かに、おばあちゃんの料理はどれもおいしかったよ。でも、小豆の味は似てる気がするっていうだけで、雨天様が作った小豆の方がおいしいと思う」
おばあちゃんは長生きしたけれど、雨天様と比べれば何百年どころじゃないほどの差がある。
その間ずっと、甘味作りをしてきた雨天様にとって、『おばあちゃんが作ったものと似ている』と言われたら複雑な気持ちになるだろう。
「あの、本当だよ?」
それが一瞬戸惑った理由だったのだけれど、結局口にしてしまった私は、慰めにもならない言葉を続けることしかできない。
だけど、雨天様の小豆の方がおいしいと言ったのは、嘘なんかじゃなかった。
「別に気を遣わなくてもよい。ひかりが言いたいことは伝わっておる」
「心を読んだの?」
「読まなくてもわかる」
苦笑した雨天様は、「本当だ」と付け足した。私はその言葉を信じると言う代わりに、小さく首を縦に振る。
「確かに、晴れてくれなきゃ困るもんね。おばあちゃんは雨が好きだったし、私もその影響で雨は嫌いじゃないけど、太陽が出てると気持ちがいいし」
「ひかり様のおばあ様は、雨がお好きだったのですか?」
「変わってるでしょ?」
「いいえ。雨天様がお聞きになれば喜ばれると思います」
「うん、喜んでたよ」
私の言葉に、コンくんは優しい眼差しで「そうですか」と口にした。
雨天様も、昨日この話をしたときに似たような表情をしていたことを思い出す。
「コンくんは、雨が好き?」
「はい、もちろんでございます。ですが、お日様も大好きです。晴れた日には縁側で甘味を食べるのですが、それがまた格別においしいのです。きっと、今日もたくさん食べてしまいます」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、楽しみだね」
「はい。雨天様もお日様が好きですから、楽しみにされているはずです」
雨天様という名前や、雨を降らせるという力のことを考えれば、太陽が好きというのは意外な感じもしたけれど……。雨天様も晴れている日が好きだと聞いて、なんだか嬉しくなった。
コンくんの言う通り、今日のおやつは縁側に並んで座って食べることになった。
夏の陽射しは少しばかり強いけれど、涼しげな風鈴の音がそよぐ風とともに暑さを和らげてくれる。
しかも、今日の甘味は特製のシロップがかかったかき氷だった。
茶色のシロップと練乳、そして炊き上がったばかりの小豆が添えられていて、氷はとてもきめ細かい。
なんでも、氷は庭の最奥にある湧き水から作っているものらしい。どれだけ食べても頭がキーンとならなくて、いくらでも食べられそうだ。
茶色のシロップはほうじ茶を煮出して作られていて、甘さが控えめの練乳との相性が抜群だった。そこに炊き立ての小豆も加われば、もう頬が落ちてしまうかと思ったくらい。
「ひかりは本当においしそうに食べるな」
「だって、本当においしいんだもん」
「それほど喜んでもらえると、作り甲斐があるものだな」
「ねぇ、この小豆の炊き方、教えてくれない?」
「なぜだ?」
庭で遊び始めたコンくんとギンくんを横目に切り出してみると、雨天様が不思議そうな顔をした。
理由を言おうとした唇が一度動きを止め、少し悩んだあとで素直に答えを紡いだ。
「なんとなくなんだけどね……。雨天様の小豆の味って、おばあちゃんが食べさせてくれたものと似てる気がするから」
すると、雨天様が目を小さく見開いた。
「……そうか。この作り方に辿り着くまでに随分と苦労したのだが、ひかりのおばあ様は料理の腕がよかったのだな」
「えっと、うん……。確かに、おばあちゃんの料理はどれもおいしかったよ。でも、小豆の味は似てる気がするっていうだけで、雨天様が作った小豆の方がおいしいと思う」
おばあちゃんは長生きしたけれど、雨天様と比べれば何百年どころじゃないほどの差がある。
その間ずっと、甘味作りをしてきた雨天様にとって、『おばあちゃんが作ったものと似ている』と言われたら複雑な気持ちになるだろう。
「あの、本当だよ?」
それが一瞬戸惑った理由だったのだけれど、結局口にしてしまった私は、慰めにもならない言葉を続けることしかできない。
だけど、雨天様の小豆の方がおいしいと言ったのは、嘘なんかじゃなかった。
「別に気を遣わなくてもよい。ひかりが言いたいことは伝わっておる」
「心を読んだの?」
「読まなくてもわかる」
苦笑した雨天様は、「本当だ」と付け足した。私はその言葉を信じると言う代わりに、小さく首を縦に振る。
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