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お品書き【三】 栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~
栗羊羹 ~神様たちと過ごす日々~【2】
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「では、いただこうか」
みんなで手を合わせて『いただきます』と言うのが、ここのルールらしい。
雨天様の声に倣って、コンくんとギンくんとともに私の声が重なった。
朝食のメニューは、炊きたてのご飯にお味噌汁、だし巻き卵や焼き鮭、さらには海苔まで用意されている。日本の定番の朝ご飯そのもので、なんだか懐かしさを覚えた。
「おいしい……」
出汁がしっかり効いたお味噌汁は優しい味で、おばあちゃんが作ってくれたものとよく似ている。
私にとって慣れ親しんだ懐かしい味はおばあちゃんの作ってくれたお味噌汁だけれど、お椀から漂う香りを感じながら再び口をつけると、やっぱり懐かしいような気持ちになった。
「たくさん食べるがよい。しっかり食べなければ、力も出ないだろう」
「雨天様、コンはもうご飯をおかわりしましたよ!」
私の言葉に笑みを零した雨天様に笑顔でお礼を言うと、コンくんはどこか自慢げに白い歯を覗かせ、山盛りのご飯をよそったお茶碗を見せた。
私は目を丸くし、ギンくんは呆れたように横目でコンくんを見て、雨天様は眉を寄せて微笑む。
「コン、お前はもう少し落ち着いて食べなさい」
「しっかり噛んで食べておりますよ! でも、雨天様のお味噌汁がおいしくて、箸が進むのです」
すると、コンくんの答えに雨天様が目を細めた。
「よかったな、ギン」
「え?」
コンくんと私が声を重ねると、雨天様がどこか照れ臭そうにしているギンくんを見てから口を開いた。
「今朝のお味噌汁は、ギンが作ったのだ。出汁も上手く取れているだろう」
「ええっ! それはまったく気がつきませんでした!」
「ほらな、ギン。私の言う通りだっただろう。コンが間違えるくらい、お前の腕は上がったのだよ」
優しく瞳を緩める雨天様は、とても嬉しそうだった。
それは「ありがとうございます」と小さく言ったギンくんも同じで、照れ臭そうにしながらも笑顔を隠せていない。
「うぅっ……不覚にございます……。このコンが、雨天様とギンのお料理の味を間違えるなど……!」
「それだけギンが頑張ったということだ。それに、コンは今日まで一度も間違えたことはなかろう。私は、コンの舌を信頼しているよ」
「雨天様……!」
落ち込んだ様子だったコンくんは、雨天様の言葉ですぐに満面の笑みになった。
三人とも、それぞれに喜びを感じているのがよくわかって、私まで心が弾んだ。
久しぶりの賑やかな朝食は、子どもの頃におばあちゃん家で過ごした日々の思い出の中にいるようで、なんだか楽しかった。
それなのに、心の片隅では少しの切なさを感じていた――。
朝食のあと、コンくんにお屋敷の中を案内してもらった。
片付けを手伝おうとしたら、雨天様にお屋敷の中を見るように言われたから、申し訳なさを抱きながらも言われるがままコンくんについていった。
お風呂や台所はすでに足を踏み入れていたけれど、コンくんは道案内をするかのように一室ずつ回ってくれた。
廊下を始め、部屋はどこもすべて広くて、まさに〝お屋敷〟という言葉がぴったりだと思った。お客様を迎えた客間とは別にもう一室ある客間が、私が借りた部屋で、ずっと使っていなかったみたい。
今朝は、お客様を迎える客間で朝食を食べたけれど、いつもは居間で食事を摂るのだとか。
「今朝は、きちんとご案内していませんでしたので客間にお呼びしましたが、今日の昼食からはこちらにお越しくださいね」
「うん、わかった。それにしても、どの部屋もすごく広いね」
おばあちゃん家は古かったけれど、おじいちゃんの親がちょっとしたお金持ちだったらしくて、親戚が揃って遊びに来ても充分な部屋があった。
だけど、このお屋敷とは比べ物にならない。
「ねぇ、全部で何部屋あるの?」
「風呂場や納戸を除き、十二にございます」
「十二……」
聞いた答えにポカンとしていると、私の歩幅に合わせながら前を歩いていたコンくんが足を止めた。
お屋敷の最奥に当たる場所に着いたのだと、すぐにわかった。
みんなで手を合わせて『いただきます』と言うのが、ここのルールらしい。
雨天様の声に倣って、コンくんとギンくんとともに私の声が重なった。
朝食のメニューは、炊きたてのご飯にお味噌汁、だし巻き卵や焼き鮭、さらには海苔まで用意されている。日本の定番の朝ご飯そのもので、なんだか懐かしさを覚えた。
「おいしい……」
出汁がしっかり効いたお味噌汁は優しい味で、おばあちゃんが作ってくれたものとよく似ている。
私にとって慣れ親しんだ懐かしい味はおばあちゃんの作ってくれたお味噌汁だけれど、お椀から漂う香りを感じながら再び口をつけると、やっぱり懐かしいような気持ちになった。
「たくさん食べるがよい。しっかり食べなければ、力も出ないだろう」
「雨天様、コンはもうご飯をおかわりしましたよ!」
私の言葉に笑みを零した雨天様に笑顔でお礼を言うと、コンくんはどこか自慢げに白い歯を覗かせ、山盛りのご飯をよそったお茶碗を見せた。
私は目を丸くし、ギンくんは呆れたように横目でコンくんを見て、雨天様は眉を寄せて微笑む。
「コン、お前はもう少し落ち着いて食べなさい」
「しっかり噛んで食べておりますよ! でも、雨天様のお味噌汁がおいしくて、箸が進むのです」
すると、コンくんの答えに雨天様が目を細めた。
「よかったな、ギン」
「え?」
コンくんと私が声を重ねると、雨天様がどこか照れ臭そうにしているギンくんを見てから口を開いた。
「今朝のお味噌汁は、ギンが作ったのだ。出汁も上手く取れているだろう」
「ええっ! それはまったく気がつきませんでした!」
「ほらな、ギン。私の言う通りだっただろう。コンが間違えるくらい、お前の腕は上がったのだよ」
優しく瞳を緩める雨天様は、とても嬉しそうだった。
それは「ありがとうございます」と小さく言ったギンくんも同じで、照れ臭そうにしながらも笑顔を隠せていない。
「うぅっ……不覚にございます……。このコンが、雨天様とギンのお料理の味を間違えるなど……!」
「それだけギンが頑張ったということだ。それに、コンは今日まで一度も間違えたことはなかろう。私は、コンの舌を信頼しているよ」
「雨天様……!」
落ち込んだ様子だったコンくんは、雨天様の言葉ですぐに満面の笑みになった。
三人とも、それぞれに喜びを感じているのがよくわかって、私まで心が弾んだ。
久しぶりの賑やかな朝食は、子どもの頃におばあちゃん家で過ごした日々の思い出の中にいるようで、なんだか楽しかった。
それなのに、心の片隅では少しの切なさを感じていた――。
朝食のあと、コンくんにお屋敷の中を案内してもらった。
片付けを手伝おうとしたら、雨天様にお屋敷の中を見るように言われたから、申し訳なさを抱きながらも言われるがままコンくんについていった。
お風呂や台所はすでに足を踏み入れていたけれど、コンくんは道案内をするかのように一室ずつ回ってくれた。
廊下を始め、部屋はどこもすべて広くて、まさに〝お屋敷〟という言葉がぴったりだと思った。お客様を迎えた客間とは別にもう一室ある客間が、私が借りた部屋で、ずっと使っていなかったみたい。
今朝は、お客様を迎える客間で朝食を食べたけれど、いつもは居間で食事を摂るのだとか。
「今朝は、きちんとご案内していませんでしたので客間にお呼びしましたが、今日の昼食からはこちらにお越しくださいね」
「うん、わかった。それにしても、どの部屋もすごく広いね」
おばあちゃん家は古かったけれど、おじいちゃんの親がちょっとしたお金持ちだったらしくて、親戚が揃って遊びに来ても充分な部屋があった。
だけど、このお屋敷とは比べ物にならない。
「ねぇ、全部で何部屋あるの?」
「風呂場や納戸を除き、十二にございます」
「十二……」
聞いた答えにポカンとしていると、私の歩幅に合わせながら前を歩いていたコンくんが足を止めた。
お屋敷の最奥に当たる場所に着いたのだと、すぐにわかった。
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