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お品書き【一】 あんみつ ~銀の光に導かれて~
あんみつ ~銀の光に導かれて~【9】
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「き、狐……?」
驚きで声が震えそうになっている私に、コンくんが尻尾をゆっくりと振る。ふわふわの毛並みは、とても触り心地がよさそうだ。
「正確には、化け狐といったところです。私とギンはもともと双子の狐でして、不慮の事故で命を落としてしまったあと、この場に魂が引き寄せられたのです。そして、上手く成仏できそうになかったところ、雨天様の神使として受け入れていただくことになりました」
「へぇ……化け狐の神使なんているんだね」
経緯はともかく、私の口から出たのはそんなこと。
他にもっと訊くことはあるはずなのに、思考が上手く働かない。
「神使といっても、その生まれは様々なのです。紙から造られる者もいれば、我々のように魂から生まれる者もいます。これは、作り手の力が関係することもありますが、どちらにせよ神使であることには相違ありません」
「それに、〝どの神使も主のために存在している〟という意味では同じでございます」
コンくんとギンくんは、代わる代わる説明してくれ、「理解していただけましたか?」と言ってもう一度クルンと宙返りをした。
人の姿に戻ったふたりに、また目を見開いてしまう。
「えっと、じゃあ……」
驚きを隠せないまま雨天様をチラリと見れば、彼は私の言いたいことを掬って、「コンから聞いている通りだ」と答えた。
(それって、やっぱり神様ってこと?)
確かに、形容しがたい銀糸のような美しい髪は、染めたようには見えない。
見た目こそ二十代半ばの青年といった感じだけれど、話し方なんて見た目年齢とは遠くかけ離れている。
おまけに、狐になったコンくんとギンくんからは『雨天様』なんて呼ばれているし、そんなふたりの主である。
ここまで見聞きしたことだけでも、充分現実離れしていた。
「それで、ひかり。お前はどうしてここに来た?」
「え? どうしてって……だから、子どもみたいな声に呼ばれて……」
「あれは、コンの声だ。だが、あの声は誰にでも聞こえるものではない」
「そうなの?」
思わず敬語を忘れてしまっていたけれど、雨天様は特に気にする素振りも見せない。神様って、案外その辺りは大らかなのだろうか。
「ああ。コンが自分の声が聞こえそうな者に向けて話しかけ、それに魂が反応した者だけが聞くことができるのだ。そして、私の姿かこのお茶屋敷を見つけた者だけが、この場に足を踏み入れられる。我々は、その者を客人として迎え入れるのだ」
要するに、コンくんの声を聞いたとしても、ちゃんと順序を踏まなければここには辿り着けない――ということみたい。
私は、ただ声を聞いたあとに光を見つけ、そこに向かって走った……というだけなのだけれど。
「ひかりは私のことが見えたのだから、お前はここに来る資格があったのだ。いくらコンに呼ばれても、私や屋敷が見えない者は〝気のせい〟で終わってしまうからな」
理由はどうであれ、私には雨天様が見えた。
だから、ここに招き入れてもらえたというのはわかるけれど、そもそもどうしてコンくんの声が聞こえたのだろう。
「声が聞こえる条件は色々あるが、まず〝このひがし茶屋街に深いゆかりがあること〟だ」
「だとしたら、私はその時点で条件に合ってない気もするんだけど……」
私の思考を読み取るように説明してくれた雨天様に、首を捻ってしまう。
考えていることを見透かされてしまうのは慣れてきたけれど、最初の条件からして腑に落ちなかったから。
驚きで声が震えそうになっている私に、コンくんが尻尾をゆっくりと振る。ふわふわの毛並みは、とても触り心地がよさそうだ。
「正確には、化け狐といったところです。私とギンはもともと双子の狐でして、不慮の事故で命を落としてしまったあと、この場に魂が引き寄せられたのです。そして、上手く成仏できそうになかったところ、雨天様の神使として受け入れていただくことになりました」
「へぇ……化け狐の神使なんているんだね」
経緯はともかく、私の口から出たのはそんなこと。
他にもっと訊くことはあるはずなのに、思考が上手く働かない。
「神使といっても、その生まれは様々なのです。紙から造られる者もいれば、我々のように魂から生まれる者もいます。これは、作り手の力が関係することもありますが、どちらにせよ神使であることには相違ありません」
「それに、〝どの神使も主のために存在している〟という意味では同じでございます」
コンくんとギンくんは、代わる代わる説明してくれ、「理解していただけましたか?」と言ってもう一度クルンと宙返りをした。
人の姿に戻ったふたりに、また目を見開いてしまう。
「えっと、じゃあ……」
驚きを隠せないまま雨天様をチラリと見れば、彼は私の言いたいことを掬って、「コンから聞いている通りだ」と答えた。
(それって、やっぱり神様ってこと?)
確かに、形容しがたい銀糸のような美しい髪は、染めたようには見えない。
見た目こそ二十代半ばの青年といった感じだけれど、話し方なんて見た目年齢とは遠くかけ離れている。
おまけに、狐になったコンくんとギンくんからは『雨天様』なんて呼ばれているし、そんなふたりの主である。
ここまで見聞きしたことだけでも、充分現実離れしていた。
「それで、ひかり。お前はどうしてここに来た?」
「え? どうしてって……だから、子どもみたいな声に呼ばれて……」
「あれは、コンの声だ。だが、あの声は誰にでも聞こえるものではない」
「そうなの?」
思わず敬語を忘れてしまっていたけれど、雨天様は特に気にする素振りも見せない。神様って、案外その辺りは大らかなのだろうか。
「ああ。コンが自分の声が聞こえそうな者に向けて話しかけ、それに魂が反応した者だけが聞くことができるのだ。そして、私の姿かこのお茶屋敷を見つけた者だけが、この場に足を踏み入れられる。我々は、その者を客人として迎え入れるのだ」
要するに、コンくんの声を聞いたとしても、ちゃんと順序を踏まなければここには辿り着けない――ということみたい。
私は、ただ声を聞いたあとに光を見つけ、そこに向かって走った……というだけなのだけれど。
「ひかりは私のことが見えたのだから、お前はここに来る資格があったのだ。いくらコンに呼ばれても、私や屋敷が見えない者は〝気のせい〟で終わってしまうからな」
理由はどうであれ、私には雨天様が見えた。
だから、ここに招き入れてもらえたというのはわかるけれど、そもそもどうしてコンくんの声が聞こえたのだろう。
「声が聞こえる条件は色々あるが、まず〝このひがし茶屋街に深いゆかりがあること〟だ」
「だとしたら、私はその時点で条件に合ってない気もするんだけど……」
私の思考を読み取るように説明してくれた雨天様に、首を捻ってしまう。
考えていることを見透かされてしまうのは慣れてきたけれど、最初の条件からして腑に落ちなかったから。
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