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永遠のファーストブルー
十九
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秋が走り抜けて冬が終わる頃。
「日暮、頼まれてた資料が届いたぞ」
ふと桜の木が蕾を膨らませていることに気づいた僕は、廊下で担任に呼び止められた。振り向いてお礼を言い、A4サイズの資料を受け取る。
「しかし、日暮が教師を目指すなんてなぁ。俺はてっきり、日暮は学校が好きじゃないのかと思ってたよ」
あけすけに話す担任に、それを言うのはどうなんだ、と思いつつも不快感はない。空気が読めない風でいて、生徒のことをよく見ていると知っているからだ。
「でも、日暮みたいな人間は教師に向いてると思うから、頑張れよ」
ポンと肩を叩かれて頭を下げれば、担任は職員室の方へと戻っていった。僕は忘れ物を取りに教室に戻り、二学期からずっと空いたままの机に苦笑を向ける。
「学校なんて嫌いだったよ」
空野未来の訃報がクラスメイトたちに知らされたのは、二学期の始業式の日だった。教室中が戦慄し、泣き出す生徒もいる中で、僕だけは無心で窓の外を見つめていた。
何人かは空野の家に弔問したようで、彼女の机は三学期いっぱいまで教室に置いておくことが決まった。
それだけ、空野はみんなから愛されていたのだろう。
僕は相変わらずひとりで行動してばかりだし、胸を張って友達と呼べる人もいない。けれど、前ほどぼっちを極めてはいないし、クラスメイトたちとも話すようにはなった。
彼女と過ごした日々を思い返せば、学校を嫌いだとは思えなくなっていたのだ。できれば、卒業してもあの青さを見ていたいと思うほどに……。
こんな風に変わったのは、空野のせいだ。
「本当に君には振り回されてばかりだよ」
担任にはあんな風に言われたけれど、自分が教師に向いているとは思えない。ただ、そんなことを口にすれば、彼女に不満げな顔をされるに違いない。
だから、やるからには真面目に真剣に取り組むつもりだ。
ぼんやりとしていた僕は、教室の窓から差し込む夕焼けにハッとする。
今日は空野の月命日で、彼女の家に行く約束を取り付けている。月命日には必ず、小さな花屋で買った花を一輪届けているのだ。
「今夜は月が綺麗だといいな」
僕の初恋は報われることはなかった。
けれど、僕の記憶の中には今も、あの夜のプールでキラキラと輝いていた空野未来の笑顔が焼きついている――。
【END】
Special Thanks!!
*アルファポリス*
2023/4/30~2023/5/18
※こちらの作品は、他サイトでも公開しています。
「日暮、頼まれてた資料が届いたぞ」
ふと桜の木が蕾を膨らませていることに気づいた僕は、廊下で担任に呼び止められた。振り向いてお礼を言い、A4サイズの資料を受け取る。
「しかし、日暮が教師を目指すなんてなぁ。俺はてっきり、日暮は学校が好きじゃないのかと思ってたよ」
あけすけに話す担任に、それを言うのはどうなんだ、と思いつつも不快感はない。空気が読めない風でいて、生徒のことをよく見ていると知っているからだ。
「でも、日暮みたいな人間は教師に向いてると思うから、頑張れよ」
ポンと肩を叩かれて頭を下げれば、担任は職員室の方へと戻っていった。僕は忘れ物を取りに教室に戻り、二学期からずっと空いたままの机に苦笑を向ける。
「学校なんて嫌いだったよ」
空野未来の訃報がクラスメイトたちに知らされたのは、二学期の始業式の日だった。教室中が戦慄し、泣き出す生徒もいる中で、僕だけは無心で窓の外を見つめていた。
何人かは空野の家に弔問したようで、彼女の机は三学期いっぱいまで教室に置いておくことが決まった。
それだけ、空野はみんなから愛されていたのだろう。
僕は相変わらずひとりで行動してばかりだし、胸を張って友達と呼べる人もいない。けれど、前ほどぼっちを極めてはいないし、クラスメイトたちとも話すようにはなった。
彼女と過ごした日々を思い返せば、学校を嫌いだとは思えなくなっていたのだ。できれば、卒業してもあの青さを見ていたいと思うほどに……。
こんな風に変わったのは、空野のせいだ。
「本当に君には振り回されてばかりだよ」
担任にはあんな風に言われたけれど、自分が教師に向いているとは思えない。ただ、そんなことを口にすれば、彼女に不満げな顔をされるに違いない。
だから、やるからには真面目に真剣に取り組むつもりだ。
ぼんやりとしていた僕は、教室の窓から差し込む夕焼けにハッとする。
今日は空野の月命日で、彼女の家に行く約束を取り付けている。月命日には必ず、小さな花屋で買った花を一輪届けているのだ。
「今夜は月が綺麗だといいな」
僕の初恋は報われることはなかった。
けれど、僕の記憶の中には今も、あの夜のプールでキラキラと輝いていた空野未来の笑顔が焼きついている――。
【END】
Special Thanks!!
*アルファポリス*
2023/4/30~2023/5/18
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騰成 様
読了と完結のお祝い、本当にありがとうございます。
素敵なご感想までいただけて嬉しいです。
こちらは某コンテストのテーマに沿って書いた作品でしたので、最後まで切なくなってしまいましたが、切なさを感じていただけていたのなら嬉しく思います。
本当にありがとうございます。
7話まで読みました。空野ちゃんの空元気さというか、明るく振る舞っているように感じる姿が切ないですね。
騰成 様
『メラコリ』に続いて、こちらもお読みくださり、本当にありがとうございます。
ご感想までいただけてとても嬉しいです。
この作品はずっとどこかに切なさがあるかと思いますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
本当にありがとうございます。