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四章 さよなら、真夏のメランコリー
四 さよなら、真夏のメランコリー【3】
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夕方まで全力で遊んで、最後に観覧車に乗った。
まだ空は明るいけれど、少しずつオレンジ色に染まり始めている。
「去年、ここで先輩が告白してくれなかったら、今こうして一緒にいなかったのかもしれないよね」
「だな。あの日はさ、朝からずっといつ告ろうかってことばかり考えてて、ほとんど記憶がないんだよな」
「え、なにそれ。だから、アトラクションに乗った順番とか全然覚えてなったの?」
「かもな。だって、なんて伝えようか決まらなくて、ずっと必死に考えてたし」
「ふーん……」
平静を装ったけれど、あの日の輝先輩のこと知って嬉しくなった。
一年前の彼のことを思うと、なんだか愛おしさが込み上げてくる。
「ねぇ、先輩っていつから私のことが好きだったの?」
「えっ……。なんだよ、急に」
「せっかく告白してくれたときの話になったから、ついでに知りたいなって思って」
「全然ついでじゃないだろ」
「いいじゃん、教えてよ」
輝先輩は眉を寄せていたけれど、私はじっと彼を見つめた。
程なくして、輝先輩が根負けしたように口を開いた。
「……美波が部員と話してるところを見た時だよ」
「えっと、それって……」
「『私が一番負けたくないのは、自分だから』って話してた時」
「そんなに前から?」
目を真ん丸にした私に、彼が心底悔しそうにする。
「あー、もう! だから言いたくなかったんだよ! 美波に声をかける前からずっと片想いしてたなんて……」
意外な事実に驚く私に反して、輝先輩は頬を赤く染めている。
それが夕日のせいじゃないことはすぐにわかった。
(もしかして、一緒にいてすごくドキドキしてるのって、私だけじゃないのかな?)
そう思った瞬間、自然と頬が綻んでいた。
「笑うなよな。これでも、俺は真剣に――」
「先輩、大好き」
対面に座っていた彼に、ギュッと抱き着く。
すると、輝先輩が一瞬固まった。
「……バカ」
小さく零した彼は、私の体をそっと離してから真っ直ぐな視線を向けてきた。
「俺の方がもっと好きだと思うけど」
照れくさそうに想いを紡いだ輝先輩が、とても愛おしい。
ずっとずっと、彼と一緒にいたい。
素直な気持ちを心の中で願った時、恋心がまた大きくなった気がした。
一年前の夏は、憂鬱で仕方がなかった。
真夏の暑さも、部活を頑張る生徒たちも、じりじりと照りつける太陽も。全部が嫌で、ひどく鬱陶しかった。
だけど、今は夏が好き。
輝先輩との思い出がたくさんできた夏が、とても好き。
憂鬱だった日々のことは今でもよく覚えているけれど、それを思い出しても心が傷つくことはない。
だって、私はもうちゃんと前を向いて歩き出せているから。
きっと、これからも大丈夫。
また躓くことがあるかもしれないけれど、時間がかかってもちゃんと起き上がってみせる。
そう思えるくらいには、あの頃よりも強くなれた。
「早く春になればいいのにな」
「うん、そうだね」
ふと零された言葉に、私も大きく頷く。
視線がぶつかったままの私たちは、どちらともなく笑みを零した。
「美波が合格したら、また水族館も行こうな」
「うん、約束ね」
くすぐったさにクスクスと笑って、また目が合って。
すると、彼が真剣な表情になって、ゆっくりと顔を近づけてきた。
高鳴る胸の鼓動を感じながら、瞼を閉じる。
夕日が差し込む赤いゴンドラの中で、ふたりの唇がそっと重なった。
まだ空は明るいけれど、少しずつオレンジ色に染まり始めている。
「去年、ここで先輩が告白してくれなかったら、今こうして一緒にいなかったのかもしれないよね」
「だな。あの日はさ、朝からずっといつ告ろうかってことばかり考えてて、ほとんど記憶がないんだよな」
「え、なにそれ。だから、アトラクションに乗った順番とか全然覚えてなったの?」
「かもな。だって、なんて伝えようか決まらなくて、ずっと必死に考えてたし」
「ふーん……」
平静を装ったけれど、あの日の輝先輩のこと知って嬉しくなった。
一年前の彼のことを思うと、なんだか愛おしさが込み上げてくる。
「ねぇ、先輩っていつから私のことが好きだったの?」
「えっ……。なんだよ、急に」
「せっかく告白してくれたときの話になったから、ついでに知りたいなって思って」
「全然ついでじゃないだろ」
「いいじゃん、教えてよ」
輝先輩は眉を寄せていたけれど、私はじっと彼を見つめた。
程なくして、輝先輩が根負けしたように口を開いた。
「……美波が部員と話してるところを見た時だよ」
「えっと、それって……」
「『私が一番負けたくないのは、自分だから』って話してた時」
「そんなに前から?」
目を真ん丸にした私に、彼が心底悔しそうにする。
「あー、もう! だから言いたくなかったんだよ! 美波に声をかける前からずっと片想いしてたなんて……」
意外な事実に驚く私に反して、輝先輩は頬を赤く染めている。
それが夕日のせいじゃないことはすぐにわかった。
(もしかして、一緒にいてすごくドキドキしてるのって、私だけじゃないのかな?)
そう思った瞬間、自然と頬が綻んでいた。
「笑うなよな。これでも、俺は真剣に――」
「先輩、大好き」
対面に座っていた彼に、ギュッと抱き着く。
すると、輝先輩が一瞬固まった。
「……バカ」
小さく零した彼は、私の体をそっと離してから真っ直ぐな視線を向けてきた。
「俺の方がもっと好きだと思うけど」
照れくさそうに想いを紡いだ輝先輩が、とても愛おしい。
ずっとずっと、彼と一緒にいたい。
素直な気持ちを心の中で願った時、恋心がまた大きくなった気がした。
一年前の夏は、憂鬱で仕方がなかった。
真夏の暑さも、部活を頑張る生徒たちも、じりじりと照りつける太陽も。全部が嫌で、ひどく鬱陶しかった。
だけど、今は夏が好き。
輝先輩との思い出がたくさんできた夏が、とても好き。
憂鬱だった日々のことは今でもよく覚えているけれど、それを思い出しても心が傷つくことはない。
だって、私はもうちゃんと前を向いて歩き出せているから。
きっと、これからも大丈夫。
また躓くことがあるかもしれないけれど、時間がかかってもちゃんと起き上がってみせる。
そう思えるくらいには、あの頃よりも強くなれた。
「早く春になればいいのにな」
「うん、そうだね」
ふと零された言葉に、私も大きく頷く。
視線がぶつかったままの私たちは、どちらともなく笑みを零した。
「美波が合格したら、また水族館も行こうな」
「うん、約束ね」
くすぐったさにクスクスと笑って、また目が合って。
すると、彼が真剣な表情になって、ゆっくりと顔を近づけてきた。
高鳴る胸の鼓動を感じながら、瞼を閉じる。
夕日が差し込む赤いゴンドラの中で、ふたりの唇がそっと重なった。
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