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四章 さよなら、真夏のメランコリー
四 さよなら、真夏のメランコリー【2】
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八月。
お盆に入ってすぐに、輝先輩との約束の日が訪れた。
会うのは二週間ぶり。
私は予備校とバイト、彼は試験やバイトで忙しかったから仕方がないとはいえ、この半月はやっぱり寂しかった。
だからこそ、今日が楽しみすぎて、昨夜はなかなか寝付けなった。
(なんかデジャヴ? 去年も全然寝れなくて遅刻したんだよね)
あの日、輝先輩から告白されるなんて夢にも思っていなかった。
ちょうど今くらい時間は、駅からスマホを取りに戻っていた。
今日は絶対に遅刻したくなかった私はもちろん、輝先輩も早めに待ち合わせ場所に来てくれて、予定よりも十分前に合流できた。
「今回は遅刻しなかったな」
そう言って笑った彼も、きっと昨年のことを思い出していたんだろう。
同じことを考えていたんだと思うと、心がくすぐったくなった。
晴天の今日は、開園前の遊園地の前はたくさんの人で賑わっていた。
プールに行くであろう人たちと同じくらい、アトラクションで遊ぶ人も多そうだ。
「今年は去年より混んでるな」
「うん。あんまり乗れないかな」
「うーん……かもな」
もしアトラクションにあまり乗れなかったら残念だけれど、なによりも輝先輩とまた一緒に来られたことが嬉しい。
だから、めいっぱい楽しもうと決めた。
開園後は、ふたりで足早に入場した。
去年と同じ順番で回ろうと話していたのに、ふたりしてちゃんと覚えていなかった。
それがおかしくて、冗談交じりに責任転嫁し合っては何度も笑った。
「そろそろなんか食う? 朝早かったし、腹減ったよな」
「あのさっ……! 私、お弁当作ってきたんだけど……!」
「え?」
「あんまり上手くないかもだけど、味は普通だと思うから!」
「マジ? 嬉しい。美波の手作り、初めてじゃん」
満面に笑みを湛えた彼を見て、急に不安が押し寄せてくる。
この日のために何度も試作はしたけれど、本当に大丈夫かな……とドキドキしてきた。
そんな私を、輝先輩は館内に促す。
フードコートと同じエリアには、持込み用の飲食物が食べられるスペースがあって、そこでランチを摂ることにした。
「食っていい?」
私が使い捨てのランチボックスを差し出すと、受け取った彼の目が輝いた。
緊張しながらも頷き、輝先輩の様子を静かに窺う。
「うわっ、うまそう!」
ランチボックスに詰めたのは、から揚げ、卵焼き、赤ウインナー、パプリカのレモンマリネ。おにぎりは、梅と塩昆布にした。
この猛暑の中で持ち歩くのは心配すぎて、保冷バッグの中に保冷剤をたくさん入れてきたからまだしっかりと冷えている。
そのせいで、から揚げが硬くなっていないか心配になった。
「いただきます」
丁寧に両手を合わせ彼は、真っ先にから揚げを口に放り込んだ。
軽く咀嚼した直後、パッと笑顔を向けられた。
「めちゃくちゃうまい」
「本当に? お世辞じゃない?」
「お世辞じゃなくて、本当にうまいよ。美波、料理始めたばかりなんだよな?」
「うん」
「才能あるんじゃない? 卵焼きもうまい」
どうやら、本当においしいと思ってもらえたみたいでホッとする。
「いい栄養士になれそうだな」
すると、輝先輩がそんな風に言ってくれたから、思わず笑みが零れた。
この春が終わる頃、私は目標を見つけた。
栄養士になって、いつかカフェを開きたい――という夢だ。
選手として生活していた頃は、体調に気を遣い、食べるものに関してもしっかりと管理していた。
それは時に、つらい練習以上にストレスになっていたかもしれない。
だから、私みたいにスポーツに励む選手たちが気兼ねなく好きなものを食べられるような、そういうカフェを開きたい。
できるかどうかはわからないけれど、ようやく将来の目標が見つかったのだ。
「卵焼きは、まだ失敗するけどね」
「失敗は成功の基、ってな。最初から速く走れる奴なんていないし、綺麗に泳げる奴もいない。練習を重ねてタイムが伸びていくんだ。料理だって同じだろ」
「うん」
そんな私の夢を、輝先輩は応援してくれている。
理学療法士と栄養士。
道は違うけれど、自分たちの経験から得て見つけた目標なのは同じ。
今は、お互いにお互いを応援していた。
「今度はハンバーグが食べたいな」
「それはまだダメ」
「なんで?」
「この間、失敗したの。なんかボロボロになった」
「ハハッ。いいよ、失敗しても、美波が作ってくれるならちゃんと食べるよ」
「……成功したら作る」
にこにこと笑う彼に、胸の奥が甘い音を立てる。
照れ隠しに唇を尖らせれば、楽しそうな笑い声が返ってきた。
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