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三章 夏の匂い
二 少しずつ癒えていく傷【1】
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『ええぇっ~! 輝先輩と付き合うことになったぁ!?』
スマホから聞こえてきた真菜の声が、鼓膜に反響する。
あまりにも大きかったせいで、耳がキーンと痛くなった。
「う、うん」
『いつから!?』
「今日……」
『どっちが告ったの!?』
「せ、先輩から……」
『美波も好きだったってこと!?』
「う……えっと……」
『私、聞いてないけど!?』
「いや、その……自分の気持ちに気づいたのが、輝先輩の告白がきっかけだったっていうか……」
『で、気づいた瞬間、もう両想いで付き合うって!?』
怒涛の質問攻めのあと、『めっちゃハッピーじゃん!』と興奮した声音が響いた。
遡ること、一時間前。
大阪生活一日目にして【飽きた!】と送ってきた彼女と、なんとなくラインのやり取りをしていた。
そのうち、【電話してもいい?】と訊かれ、承諾したのが十五分ほど前だった。
だけど、心がふわふわしたままの私は、遊園地から帰宅してからというもの、家族との会話もままならなくて……。真菜にも、上の空だったことがバレてしまった。
もちろん事情を尋ねられ、戸惑いながらも白状して冒頭に戻る――というわけだ。
『私、大阪に来て一日目なんだけど! 展開が早すぎて、ついていけないんだけど! っていうか、美波の気持ちすら知らなかったんだけどー!』
彼女は怒っている様子はないけれど、なんだか悔しそうだった。
ただ、私だってまだ半信半疑でいる。
今朝、家を出た時には……もっと言えば、観覧車に乗った時ですら、こんなことになるなんて思いもしなかったんだから……。
輝先輩が私を好きだったなんて考えたこともなかった。
彼との関係は、同志に近いものだとすら思っていた。
それもきっと間違いじゃない。
その上で、輝先輩は私を好きでいてくれて、私も彼のことを好きになった……ということだ。
『いいなぁ、彼氏とラブラブな夏休みとか……』
「ラブラブって……! まだそんなんじゃないし!」
『まだ、でしょ? これから手とか繋ぐじゃん?』
「……そ、そうかも」
『……その反応はもう繋いだな』
「ちょっ……! なんでわかるの!」
『え~、今日付き合ったのに、もう手繋いでるとか……! 輝先輩って、やっぱり積極的なタイプなんだね。これはキスするのも早そうだなぁ』
「なっ……? キッ……キス、なんて!」
『次に会った時にされちゃうかもよ~?』
真菜の声色が、だんだんからかいを含み始める。
「しない! しないってば!」
焦る私に、彼女がケラケラと笑った。
『そこはしようよ。先輩がしたいって思ってるのに、拒否ったら可哀想だぞ~』
「もう! からかわないでよ!」
楽しそうな真菜に反し、私はどんどんテンパっていく。
このままだと彼女のペースから抜けられなさそうで、「そろそろ切るね!」と言ってしまった。
『あ、逃げる気でしょー?」
「そ、そうじゃないよ! でも、明日は朝からバイトだし!」
『そっか。じゃあ、仕方ないね。その代わり、私がそっちに帰ったら、じっくり聞かせてもらうからね』
真菜は最後まで楽しそうに話し、『おやすみ~』と告げて通話を終えた。
ようやく解放された安堵感からか、自然とため息が漏れる。
輝先輩とは、明後日にもまた会う約束をしている。
それなのに、彼女から言われたことが頭から離れなくて、頬もなんだか熱い。
(明後日、どんな顔して輝先輩と会えばいいんだろ……)
彼と付き合えたことは嬉しいのに、今日はずっとドキドキしていて落ち着かない。
こんな状態で輝先輩に会ったら、心臓が飛び出すんじゃないだろうか。
大きな心配を胸に抱えた今夜は、高揚感が治まらなくてなかなか寝付けなかった。
スマホから聞こえてきた真菜の声が、鼓膜に反響する。
あまりにも大きかったせいで、耳がキーンと痛くなった。
「う、うん」
『いつから!?』
「今日……」
『どっちが告ったの!?』
「せ、先輩から……」
『美波も好きだったってこと!?』
「う……えっと……」
『私、聞いてないけど!?』
「いや、その……自分の気持ちに気づいたのが、輝先輩の告白がきっかけだったっていうか……」
『で、気づいた瞬間、もう両想いで付き合うって!?』
怒涛の質問攻めのあと、『めっちゃハッピーじゃん!』と興奮した声音が響いた。
遡ること、一時間前。
大阪生活一日目にして【飽きた!】と送ってきた彼女と、なんとなくラインのやり取りをしていた。
そのうち、【電話してもいい?】と訊かれ、承諾したのが十五分ほど前だった。
だけど、心がふわふわしたままの私は、遊園地から帰宅してからというもの、家族との会話もままならなくて……。真菜にも、上の空だったことがバレてしまった。
もちろん事情を尋ねられ、戸惑いながらも白状して冒頭に戻る――というわけだ。
『私、大阪に来て一日目なんだけど! 展開が早すぎて、ついていけないんだけど! っていうか、美波の気持ちすら知らなかったんだけどー!』
彼女は怒っている様子はないけれど、なんだか悔しそうだった。
ただ、私だってまだ半信半疑でいる。
今朝、家を出た時には……もっと言えば、観覧車に乗った時ですら、こんなことになるなんて思いもしなかったんだから……。
輝先輩が私を好きだったなんて考えたこともなかった。
彼との関係は、同志に近いものだとすら思っていた。
それもきっと間違いじゃない。
その上で、輝先輩は私を好きでいてくれて、私も彼のことを好きになった……ということだ。
『いいなぁ、彼氏とラブラブな夏休みとか……』
「ラブラブって……! まだそんなんじゃないし!」
『まだ、でしょ? これから手とか繋ぐじゃん?』
「……そ、そうかも」
『……その反応はもう繋いだな』
「ちょっ……! なんでわかるの!」
『え~、今日付き合ったのに、もう手繋いでるとか……! 輝先輩って、やっぱり積極的なタイプなんだね。これはキスするのも早そうだなぁ』
「なっ……? キッ……キス、なんて!」
『次に会った時にされちゃうかもよ~?』
真菜の声色が、だんだんからかいを含み始める。
「しない! しないってば!」
焦る私に、彼女がケラケラと笑った。
『そこはしようよ。先輩がしたいって思ってるのに、拒否ったら可哀想だぞ~』
「もう! からかわないでよ!」
楽しそうな真菜に反し、私はどんどんテンパっていく。
このままだと彼女のペースから抜けられなさそうで、「そろそろ切るね!」と言ってしまった。
『あ、逃げる気でしょー?」
「そ、そうじゃないよ! でも、明日は朝からバイトだし!」
『そっか。じゃあ、仕方ないね。その代わり、私がそっちに帰ったら、じっくり聞かせてもらうからね』
真菜は最後まで楽しそうに話し、『おやすみ~』と告げて通話を終えた。
ようやく解放された安堵感からか、自然とため息が漏れる。
輝先輩とは、明後日にもまた会う約束をしている。
それなのに、彼女から言われたことが頭から離れなくて、頬もなんだか熱い。
(明後日、どんな顔して輝先輩と会えばいいんだろ……)
彼と付き合えたことは嬉しいのに、今日はずっとドキドキしていて落ち着かない。
こんな状態で輝先輩に会ったら、心臓が飛び出すんじゃないだろうか。
大きな心配を胸に抱えた今夜は、高揚感が治まらなくてなかなか寝付けなかった。
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