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二章 憂鬱な夏

二 予定のない日の過ごし方【1】

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 七月に入ると、本格的に暑さが増した。
 今年は五月に入る頃には気温が高かったけれど、やっぱり夏本番は一味違う。
 猛暑日が続く日々に疲労感が溜まり、勉強にもなかなか身が入らなかった。


 おかげで、期末テストはあまりいい結果になりそうじゃない。
 もっと頑張らなかったことを少しだけ後悔しつつも、テストが終わった解放感を前にすると、そんなことはすぐに忘れた。


「美波―! お疲れ様!」

「真菜もお疲れ」

「もう帰るの?」

「うん。朝方まで勉強してたから、今日は昼寝したいし」

「いいなぁ、昼寝。私も委員会が終わったら、ダッシュで帰って寝ようかな。っていうか、一夜漬けって意味なくない?」

「ないね」

「だよね~。私も生物と日本史は一夜漬けだったから、もう全部忘れた」


 真菜と笑い合いながら、帰り支度を進めていく。


「夏休みはどこか行こうね」

「うん、そうだね」

「楽しみだなぁ。美波と行きたいところ、たくさんあるんだよね」

「カラオケ?」

「それはもちろん! あとは、水族館とか遊園地……あっ、食べ歩きもいいなぁ」

「そんなにお金ないよ」

「確かに。やっぱりバイト増やそうかな」


 彼女は、少し前からバイトの日を増やしたいと言っていた。


 私も、輝先輩の話を聞いて興味が出てきたところ。
 最近は、真菜とバイトについて話すことが多い。
 もっとも、私も彼女も話をしているだけで、実行には移せていないけれど。


「そういえば、輝先輩とは遊びに行かないの?」

「えっ……」


 唐突に彼の話題になって動揺してしまうと、真菜がにこにこと笑った。


「最近、仲良さそうだし」

「別に普通だよ」

「普通、ねぇ」

「……変な勘繰りはやめてってば」

「でも、コンビニで仲良くスイーツ食べたんだよね?」

「スイーツは食べたけど、仲良くってわけじゃ……」

「第三体育倉庫の裏で会ってるのに?」

「スイーツを食べたあとで一回だけね」

「ラインはよくしてるよね?」


 なにか言いたげな彼女の目が、私を見透かすように弧を描いている。


「輝先輩が送ってくるから返事してるだけで……」


 真菜には、輝先輩とのことを話している。
 というよりも、質問攻めにあって言わざるを得なかった。


 彼女は、人を傷つけるようなことはしないけれど、こういう時には容赦がない。
 私が戸惑っているのは察していたはずなのに、根負けして彼とのことを話していくと、とても楽しそうだった。


「適当にスルーしないところが、真面目な美波らしいよね~」

「適当って……どうすればいいのかよくわからないし……」

「でも、嫌だったら既読スルーでもよくない?」

「それは……」

「そうしないってことは、美波も満更じゃないんでしょ?」

「あのね、そういうのじゃなくて……」

「うん?」

「輝先輩とは境遇が似てるから、変な気を遣わなくていいっていうか……」


 真菜は空気を読むように微笑み、「そっか」と零した。
 彼と私の今の環境が似ていることは、彼女だってわかっているはず。
 だからなのか、それ以上は追及してこなかった。


「まぁ、美波が嫌じゃないならよかった。せっかくだから、自分から遊ぼうって言ってみたら? 喜んでくれるかもよ」

「そんなことしないよ。輝先輩だって、別に遊びたいとか思ってないだろうし」


 その言葉に、胸の奥がチクチクと痛んだ。
 なにも傷つくことなんてないはず。


 それなのに、自分で自分が発した答えに落ち込んでしまいそうになる。
 だけど、そこを深く考えるのはやめて、スクールバッグを持った。


「そろそろ行くね」

「また明日ね」

「うん、ばいばい」


 真菜と軽く手を振り合い、教室を後にする。

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