短編集

恋愛

最後の一枚

　年が明けて、長かった冬休みも終わりを告げようとしている。古いスマートフォンで起動すらできなくなったスマートフォンゲームを画面から消去する。

「いよいよか……」

　機種変更で解約をした時点で5年が経過していた年代物だ。いずれは動かなくなるだろうとは思っていたが、アプリが先に起動しなくなるとは思わなかった。
　たった一つのゲームアプリ以外は全てを消し、メールも電話帳も何もかもを消した。唯一残っているのは年に数回撮影するスクリーンショットだけだ。この際、写真もいっそのこと消してしまおうと思った。久しぶりに写真のアプリを起動して、残った画像を見ていた時、ふと目に入ったものがあった。

「懐かしいなぁ」

　そこに写っていたのは、コーラと銘打った緑茶の写真であった。正確には、元恋人が持っている手も写っていた。懐かしい手だった。あれほど身近に感じていたものが、今はもう届かない場所にある。

「……消すか」

　未練がないと勝手に思っていた。それでも、気が付けば3分はその写真を見ていたような気がする。しかし、それも今日で終わり。この写真を消したことすらも忘れてしまうほど、忘却の彼方へと消し去ってしまう。いつかまた、これを思い出すときは、また一歩踏み出した時であることを祈って、消去ボタンを押す。元旦。一年のの始まりと共に人生も、もう一度スタートを告げる。