世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

文字の大きさ
上 下
5 / 40
邂逅

大学生活

しおりを挟む
 大学生活にも徐々に慣れていき、高杉との出会いから1ヶ月が経過していた。あれから結局高杉とは連絡を取り合っているわけでもなければ、本人にも会っていない。特段避けているわけではないのだが、高杉から会いにくることも無かった。顔は悪く無かったし身長も低くない。恋人でもできたのだろうか。
 朝の8時30分。早朝とは言い難いが、一般的な店が空いている時間ではない。唯一開いているのはコンビニくらいだった。駅前の少し大きめのコンビニでお茶を買ってから大学へと向かう。それがいつもの梨咲の動きだった。特に何も気にすることなく歩いていると、後ろから声かけられる。

「小宮さん、おはよう」
「え?あぁ、おはよう」
「最近バタバタしてて小宮さんに会いに行けなかったんだよ」
「別に困ってないよ。気になってはいたけれども」
「そうなんだ」
「最近ちょっとバタバタしててね。ゴールデンウィーク明けまで色々もつれこんだんだよ」
「ふーん」

 梨咲にとっては高杉の事情にまでは興味が無かった。梨咲もバタバタしていたことには変わりない。そんな状況下でわざわざ恋人でもない男に興味を割いていられないというのもある。いつのまにか横に並んだ高杉と一緒に大学へと向かう。
 通学路を歩いている間は特に会話もなく、大学へと歩いていく。気まずい空気が流れているわけではなく、ただ単純に話題がないのである。2人で大きな敷地に建つ大学に正門から入る。今日は1限からだった。時刻は8時50分を過ぎており、少しだけ足早に講義室へと向かう。高杉も同じ講義かと思ったが、講義棟の階段を登りきったところで梨咲とは逆方向に進んだ。

「じゃあ俺、教職あるから!」
「あ、うん」

 最後は別れの挨拶もそこそこに高杉は講義室へと走っていった。梨咲も講義に遅れまいと講義室へと走っていく。高杉が無事だったのは良かったのかもしれない。心の片隅で高杉を心配している自分がいることに気づいた。しかし、あのマイペースな男に振り回されるのは面倒くさい。それでも、高杉のことをもう少し知りたいという気持ちが芽生えていた。
 講義室に入って少しすると授業が始まった。このコマの授業は数学だった。教養というが梨咲にとっては専門だと思うくらい難しい。それも、大学の一つの基準の中での話なのだろう。半分くらい何を言ってるか分からない授業を必死で受けるが、梨咲の頭にはその半分も残っていない。単位のために頑張るしかない。そしてまだ少しだけ寝ぼけ頭でもある。そんな状態で講義を受けながら板書をとったり思ってる疑問を書いたりしていると90分はすぐに過ぎていく。
 講義が終わるチャイムが鳴ると、梨咲はやっとの思いで一息をつく。そして荷物をまとめて講義室を出る。一回の講義で理解できるほど頭がいいとは思っていないが、それでも90分の講義のうち頭に入っているのは10分の1くらいの内容なんじゃないかと自分でも思っていた。そんな時に高杉のことを考えている余裕はない。講義室を出て次の授業の教室へと向かう。次の授業は哲学だった。また高杉に会うのか。久しぶりに会うと、ずっと気になってしまう。この気持ちはなんだろうかと、梨咲は考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...