明太子

ぽよ

文字の大きさ
上 下
36 / 50
交わり

9話

しおりを挟む
 目が覚めると、外は少し暗くなっていた。目の前には起きてうろうろしている後輩がいた。

「おはよう」
「おはようございます」
「今何時かしら」
「もう19時くらいですね」
「絶対夜に寝れないやつだわ」
「私もです」

 昼食をとってすぐに眠りに落ちた。間違いなく5時間は寝ているはずだ。莉子が起きた時にこっちを向いてニコニコする後輩を見る。

「晩御飯どうしようかな」
「食べに出ますか」
「それもいいなぁ」
「そうと決まったら善は急げですよ!」
「ちょっと待ってね」

 布団を畳んで伸びをする。今からどこへ向かうか分からないが、お茶を飲む。そして、諸々の準備をして、準備ができたところで、もう一度座る。

「5分だけ休憩したら行きましょう」
「分かりました」

 寝起きから夕食を食べに出るほどの元気はなかった。少しだけ休んでから夕食に出る。その方が楽だった。
 少し休んで家を出る。後輩はいつでも出れる準備が整っていた。家の鍵を閉めて廊下を抜けて階段を降りる。

「どこいくか決めてるの?」
「ラーメン屋か定食屋です」
「この辺にあったかしら」
「駅前にありますよ」
「随分と歩くわね」
「すぐそこですよ」

 アクティブな後輩の後ろをついていく。駅前の外食店にはほとんど入ったことがない。期待と不安が入り混じる中、10分ほど歩いたところで後輩が立ち止まる。

「ここです」
「ここ、入ったことないわね」
「美味しいですよ」
「なら安心ね」

 ここで入ったことない店に案内されたらどうしようかと思っていたが、そんなことも無いらしい。笑顔で店に入っていく後輩に続いて莉子も店に入る。
 店の中は普通の定食屋だった。テーブル席が3つとカウンター席が4つ。店員は2人で店主らしき男の人と学生アルバイトと思しき男性だった。夕食の時間だというのに店が空いていた。

「この店はいつ来てもこれくらいですよ。なんでかは知らないですけど」
「あら、そうなの」

 安心したいところだが、不安は完全には拭えない。テーブル席に座ると、店員が水を持ってきた。狭くも広くもない店内で、ゆったりとした時間が流れる。定食屋としては珍しい。
 メニューは至って普通だった。しかし、どう見ても女性向けと思われるものがない。昼食後すぐ昼寝したこともあり、お腹が空いていないのだ。
メニューをパラパラ見ると、お腹が空いていないのにどれも美味しそうだった。その中でも食べられそうな、鯖の塩焼きセットにする。

「あ、先輩決まりましたか?」
「私は鯖の塩焼きセットにするわ」
「結構しっかりいきますね」
「これくらいなら食べれそうなのよ。由佳は何にするの?」
「味噌カツ定食です」
「さっきまで昼寝してたのによく食べるわね」
「食欲は無限ですよ」

 莉子はセットだが、後輩は定食だ。付いてくるものも変わる。しかも後輩は味噌カツだ。莉子にとっては昼に食べても食べ切れるか怪しい。目を輝かせて頼む姿を見ると、何回か食べたことがあるのは間違いない。

「ここの定食美味しいんですよ」
「結構来るの?」
「月2回くらいきます」
「結構な頻度ね」
「味噌カツ定食が美味しいんですよ」
「味噌カツ定食が推しなのね」
「美味しいですからね」

 言葉の圧力に押されながらもその味噌カツ愛には感心する。徐々に増えるかと思った客は増えることなくメニューが先に届く。

「あ、きたきた!」
「あ、私のもきたわ」
「いただきまーす」
「いただきます」

 目の前に出てきた鯖の塩焼きセットを食べる。そのさらに前にある味噌カツ定食と比べると、量は控えめだが、どう考えても定食の量が多すぎるだけに見える。
 鯖の塩焼きと白飯と味噌汁を食べながら、後輩を観察する。大学生の頃はそんなに食べる印象がなかった。実家暮らしだったということを考えれば、夕食ではかなり食べる方だったのかもしれない。

「なんですか?なんかついてますか?」
「いや、由佳ってそんなに食べるタイプだったかなぁって考えてただけよ」
「夜ご飯は外だと食べる方ですね」
「なんかよく分からないけど今の姿を見ると納得するしかないわね」

 幸せそうな顔をして食べる姿を見ながら、もし後輩が彼女になったら、という仮定を考えてみる。その姿は自由奔放な彼女そのままの姿だったが、結婚があり得るかと言われると、難しいような気がした。
 最近は誰かと一緒に寝泊まりすることが増えている。人付き合いが増えるのはいいことだと思っているのだが、気疲れや私生活の乱れに繋がるようであれば、なんとかする必要がある。目の前の後輩が本気だということはもちろん分かっているが、それ以上に、莉子も本気で選択していく必要がある。そう認識した一日になった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

初めて本気で恋をしたのは、同性だった。

芝みつばち
恋愛
定食屋のバイトを辞めた大学生の白石真春は、近所にできた新しいファミレスのオープニングスタッフとして働き始める。 そこで出会ったひとつ年下の永山香枝に、真春は特別な感情を抱いてしまい、思い悩む。 相手は同性なのに。 自分には彼氏がいるのに。 葛藤の中で揺れ動く真春の心。 素直になりたくて、でもなれなくて。 なってはいけない気がして……。 ※ガールズラブです。 ※一部過激な表現がございます。苦手な方はご遠慮ください。 ※未成年者の飲酒、喫煙シーンがございます。

処理中です...