明太子

ぽよ

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あなた

6話

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 仕事が定時で終わって、更衣室で着替えて会社を出る。いつもと同じ動きで敷地を出ると、後輩が待ち伏せしていた。

「あら、お疲れ様」
「お疲れ様です!」
「どうしたの?」
「一緒に帰りましょう!」
「ええ、いいけど」

 連絡も何もなかったが、莉子が残業だったら待ちぼうけになることも覚悟していたのだろうか。いまいち読めない後輩と2人で駅まで歩く。最近誰かと一緒にいることが増えたような気がする。

「そういえば、望月さんは先輩のこと気になってるみたいですよ」
「私はあの人好きじゃないわ」
「いろいろ聞かれるんですけど、プライベートなので答えてません」
「あら頼もしい」
「どこかで会えないかって聞かれるんですけど、私は先輩の予定とか押さえてないんでって言ってます」
「それが正しいわ」

 面倒な処理をしてくれる後輩に感謝しながら、帰り道を歩く。後輩がいつまでも帰りに誘ってきた理由を話してこない。それが何故か気になった。

「そういえば、たまたま今日は定時だったけど、残業だったら待ちぼうけになったと思うんだけど」
「えぇ、まぁそうでしょうね」
「なんか喫緊の予定とかあったかしら?」
「いえ、別に15分くらい待って出てこなかったら1人で帰ろうかとは思ってました。別に先輩と帰ることに理由なんかいらないんです。楽しかったらそれでいいんですよ」

 随分とさっぱりしている。後輩にとっても人付き合いがどういったものかというのも表れている気がした。いつも通りの道のはずなのに街がいつもより眩しくて、自分は疲れているかもしれないとも思った。
 いつも通りの道順で、いつも通り電車に乗る。後輩と一緒にアパートまで歩く。

「先輩、なんか疲れてます?」
「イベントが多いからなのか分からないけど街が眩しい気がしたり、なんか疲れてるような気もするわ」
「今週もなんかあるんですか?」
「先輩の部屋に呼ばれるわ」
「イベントいっぱいありますね!」

 呑気なのか能天気なのかわからない後輩と歩くこと10分。いつもの家の前に到着する。
 2人で家の鍵を開けて中に入る。ここはいつどんな時も変わらない。

「お疲れ様でした!週末頑張ってくださいね!」
「ええ、ほどほどに頑張るわ」

 仕事終わりも元気いっぱいな後輩が部屋に入っていくのを見てから莉子も部屋に入る。いつもと変わらない部屋だからこそ、いつかは変わらないといけないという強迫観念に囚われている。そのことに自覚はあっても、いつまでも動き出せないでいた。先輩に話を聞けば変わるだろうか。可能性の低い希望にかけてみる価値はあるか。そこに自分の意志は介在するのか。少しだけ散らかり始めた部屋に寝転びながら、ぼんやりと考えていた。
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