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3年生

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 3年生になって2ヶ月が経った。じりじりと熱くなる外の気温にやられそうになりながらも、毎日勉強会を開催していた。

「3年生になったら本当に数学ができなくなるなんて思わなかったなぁ」
「毎日忙しいもんね」
「もう本当にどうしようかなぁ」
「数学系に行かないの?」
「それは頑張る」
「僕は社会学部かなー」
「へぇ、決まったんだ」
「まぁ、一応ね」

 やっぱり高島さんは数学科に行くらしい。そのための勉強も当然ある。僕も僕で社会学部に行くための勉強が当然ある。そんな状況で2人とも同じ数学ができるかと言われるとそんなことはなく、2人とも別の科目をやりながらわいわいする時間になっていた。

「勉強めんどくさいよー」
「受験生だから仕方ないよ」
「それはそうだけどさー」

 いつもの雰囲気とは違う高島さんがそこにはいた。元気な姿は変わらず、でもどこかやる気がない。そんな姿も、僕は好きだった。三年生になった教室の空気感は、少しずつ変化しつつある。受験生になったという自覚が出てきたということかもしれない。とは言え、授業はいつも通り進んでいく。変わったことといえば選択授業だ。理系は理系科目を受けている間に、文系は文系科目を受けている。つまり、同じ授業を受けるのは英語くらいだ。実質的なクラス分けのような状態になっている。それでも、朝礼と終礼はクラス全員ですることになっている。だからこそ、放課後には高島さんと話すことができている。

「山口くんを数学の道へは引き込めなかったなぁ」
「引き込みたかったの?」
「そりゃそうでしょ!」
「そりゃそうなんだ」
「もう二年も数学やってたのに魅力を感じなかったんだね」
「楽しいとは思うけど。その道に進めるとは思えないかなぁ」
「そっかぁ」

 残念そうな顔をする高島さんを見ながら、自分の進む道を考える。理系には進まないけれど、文系に進んだとして社会学部でいいのか。それは、まだ変更が効くことだけれど、今から変更するのはいいことなのだろうか。将来のこともまだまだ分かっていない。将来のことを決めている高島さんが、少しだけ羨ましくなった。
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