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次の日
しおりを挟む僕と高島さんは今、物理部室に来ている。特別な実験器具があるわけじゃない。あるのは黒板といつもとは違う実験用の机と椅子。本当の意味で実験室らしいものは備え付けのガスバーナーくらいだ。そんな物理部室で高島さんと2人。そもそもの物理部の活動がどうなっているのかという疑問はあるけれど、今日はここで数学をやるらしい。
「ここ、物理部室って書いてあったけど」
「うん、そう。今この学校に物理部がないからただの空き教室」
「あ、そういうことなんだ」
「そう!だから来年からはここでやります!」
「なるほど。それはいいかも」
「でも今日はここの紹介をしたら数学はやりません」
「あれ、珍しいね。なんかあったの?」
「ちょっと山口くんと雑談でもしようかと」
「え、あぁ、うん」
「最近なんか変わったことあった?」
「最近かぁ、最近。まぁないことはないよ」
「え、なんかあったんだ。教えてほしいな」
最近の変化。高島さんと別れると寂しくなる。これを言っていいものなのか分からないし、ましてや本人に言っていいのかも分からなかったけれど、言わなければ何も始まらない。意を決して高島さんに伝えてみる。
「最近、高島さんと別れた後寂しいなぁって思うんだよね」
「ほうほう」
「これ、高島さんに言っていいのかわからないから、ちょっと迷ったんだけど」
「私も最近そんな感じかなぁ」
「あれ、そうなんだ」
「もっと数学がしたいなぁとか、山口くんともっといろんなことがしたいなぁとか」
「ほうほう」
「えー!何その反応!」
「なんでもないよ」
「ちょっとー」
「ごめんごめん」
「ところで」
「うん」
「いや、やっぱりなんでもない」
「え?あぁ、うん」
高島さんが何を切り出すかと思ったけれど、それを聞こうと思ったところでやめてしまった。高島さんがふと元気少女の顔から少し変わった。
「これからはこんな時間を過ごしてもいいかもね」
「数学だけじゃなくて?」
「そう!数学だけじゃなくて!」
「それも楽しそう」
「えー乗り気じゃないー」
「そんなことないよ!」
「じゃあ決まり!」
優しい雰囲気と顔になっていたけれど、高島さんはまた元気少女の顔に戻った。そして、僕自身もそれには賛成だった。高島さんとやる数学は楽しいけれど、数学だけをやっているより有意義な時間が増えるかもしれないと思った。
「今日、何時ぐらいまでいる?」
「うーん、いつも通りくらいじゃない?」
「私もそれくらいかなー」
「話題があればだけどね」
「うーん。なんかあるかなぁ」
「じゃあ、今日は今から散歩しよう!」
「え?あぁ、うん」
「山口くんはいつもその反応だね」
「あ、ごめん」
「いいよ!大丈夫!」
それが本当に大丈夫なのかと言う疑問は残るけれど、大丈夫だと言うのならきっと大丈夫。心にそう言い聞かせる。僕の心が揺れている間に、高島さんは荷物をまとめ始めていた。僕も急いで荷物をまとめて物理部室を出る。
「今日は下校までに出たのに外が暗い」
「冬だからねー」
「そっかぁ。前もこんな話したね。もうすぐ2年だって話もした気がする。
「僕もそんな気がする。もうすぐ2年だよ」
「頑張らないとね」
「うん」
「ところで」
「どうしたの?」
「今からどこいこっか」
「決めてなかったの?」
「うん」
「歩きながら決めよう」
「賛成!」
時刻は16時。まだ少しだけ時間がある。それでも外は暗くなり始めていた。いつもより早い時間の通学路は、生徒で溢れかえっていた。そんな状況でも、高島さんと散歩をする。外の気温は寒かったけれど、心は暖かく満たされていた。
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