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3章
返事
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初めて好きな人の部屋に行く。仁は緊張していた。そこに高ぶりなんてものはなく、ただひたすらに体が強張っていた。
バスを降りて、バス停から少し歩けば賢の部屋だった。当たり前だが、いつもとは違う景色だった。男友達の部屋にすらほとんど行かない仁が、好きな人の部屋に行くことになるとは本人も思っていなかった。
「ちょっと汚いけど、適当に座って」
「あ、はい」
短い会話の中にすら緊張が混じっていた。ただひたすら座って待つことしかできない仁と対照的に、賢はあれこれ家事をやっていた。
「ごめんな。もうちょっと待ってて」
「はい」
落ち着かないまま正座と体育座りを交互に繰り返す。賢がキッチンで洗い物を終えてから、部屋に戻ってくる。確実に目の前に近づいてくる好きな人を前に動けずにいた。
「返事するか」
「あ、はい」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
賢は確実に安心できる印象を与えてくれるのに、脳と体がリンクしなかった。
目の前に好きな人が座って、口を開く。その瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。
「まぁ、俺は仁が恋人になってもいいかなって思う」
「え、うん。あ、はい」
「じゃなきゃ部屋にも入れないし」
「はい」
「大丈夫だよ。緊張しなくても」
「そうは言いましても」
そこにある、好きな人からの言葉にすら従えないほどの緊張があった。
「仁が恋人になったら、楽しいこともいっぱいありそうな気がするし」
「そ、そうですかね」
「あぁ、そうだな」
「ありがとうございます」
「別に敬語じゃなくてもいいよ」
「え、あ、はい」
「恋人なんだからさ」
「はい」
今日いっぱいは敬語が抜けなさそうだと自分で思う。せっかく好きな人が恋人になったのに、自分から距離を縮めにいけないことがもどかしかった。しかし、焦らなくても良いという謎の気持ちも芽生えていた。
返事を聞いて、大丈夫だと再認識したところで緊張と共に脱力。そのまま力が抜けて後ろに倒れた。
「おいおい、大丈夫か?」
「うん、多分」
「あ、敬語抜けてる」
「あ、本当だ」
さっきまでの緊張が完全に抜けて、失礼だと考えることもできないほど回転が落ちていた。それでも良かった。賢が隣にいてくれるのなら、それで良いと思えていた。
「ちょっと一休みだな」
「うん」
短い会話の後、賢も部屋に寝転がった。2人で寝転がり、特に会話もないまま静かに眠りに落ちた。
バスを降りて、バス停から少し歩けば賢の部屋だった。当たり前だが、いつもとは違う景色だった。男友達の部屋にすらほとんど行かない仁が、好きな人の部屋に行くことになるとは本人も思っていなかった。
「ちょっと汚いけど、適当に座って」
「あ、はい」
短い会話の中にすら緊張が混じっていた。ただひたすら座って待つことしかできない仁と対照的に、賢はあれこれ家事をやっていた。
「ごめんな。もうちょっと待ってて」
「はい」
落ち着かないまま正座と体育座りを交互に繰り返す。賢がキッチンで洗い物を終えてから、部屋に戻ってくる。確実に目の前に近づいてくる好きな人を前に動けずにいた。
「返事するか」
「あ、はい」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
賢は確実に安心できる印象を与えてくれるのに、脳と体がリンクしなかった。
目の前に好きな人が座って、口を開く。その瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。
「まぁ、俺は仁が恋人になってもいいかなって思う」
「え、うん。あ、はい」
「じゃなきゃ部屋にも入れないし」
「はい」
「大丈夫だよ。緊張しなくても」
「そうは言いましても」
そこにある、好きな人からの言葉にすら従えないほどの緊張があった。
「仁が恋人になったら、楽しいこともいっぱいありそうな気がするし」
「そ、そうですかね」
「あぁ、そうだな」
「ありがとうございます」
「別に敬語じゃなくてもいいよ」
「え、あ、はい」
「恋人なんだからさ」
「はい」
今日いっぱいは敬語が抜けなさそうだと自分で思う。せっかく好きな人が恋人になったのに、自分から距離を縮めにいけないことがもどかしかった。しかし、焦らなくても良いという謎の気持ちも芽生えていた。
返事を聞いて、大丈夫だと再認識したところで緊張と共に脱力。そのまま力が抜けて後ろに倒れた。
「おいおい、大丈夫か?」
「うん、多分」
「あ、敬語抜けてる」
「あ、本当だ」
さっきまでの緊張が完全に抜けて、失礼だと考えることもできないほど回転が落ちていた。それでも良かった。賢が隣にいてくれるのなら、それで良いと思えていた。
「ちょっと一休みだな」
「うん」
短い会話の後、賢も部屋に寝転がった。2人で寝転がり、特に会話もないまま静かに眠りに落ちた。
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