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2章
連絡先
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「はぁ」
ため息をつく。失敗だった。気付いたのは家に帰ってからだった。賢との連絡先の交換を忘れたのだ。あの食堂でのご飯から3日が経つ。あれから賢には再会できず。時間がある時に研究室を訪ねてみるも、どうしても時間が合わないようだ。
仁はいま2年で授業が一番忙しい時期だった。空き時間に研究室に行っても教授らしき人と学生はいるのだが、賢はいつもいなかった。昼に食堂に行っても人が多すぎて見つけることはほぼ不可能だ。
今は3限の真っ只中。心理学の授業を受けながら、賢のことを考えていた。全くの初対面から一目惚れに近い恋をした。そして、あの研究室での再会。しかし今は全然見つからない。果たしてどこにいるのだろうか。
「おい、おい仁。講義終わったぞ」
「え?あぁ、ありがとう」
友人に声をかけられ、講義が終わったことに気づく。教授はもう教室から出ていた。ここ数日は賢の居場所ばかりを考えている。さっぱり居場所がわからない。このあと4限からは授業がない。ひとまず研究室に顔を出すことに決めた。ここ数日影すら見ていない。もはや実在するのかすら怪しいと思える賢を拝むために、今日も研究室に向かう。
教室を出て、ふらふらと歩きながら研究棟へ。そして比較的新しく見えるエレベーターに乗りながら研究室へと向かう。前と同じ扉まで来て、ちらりと覗く。やはり賢の影はない。肩を落としながらエレベーターへと戻っていく。ため息を吐きながらエレベーターに乗り込もうとしたところで、人とすれ違う。
「おっ、仁じゃねーか。どうしたの」
「あ、賢さん」
仁は生き別れた兄と再会するかのような声だったのに、賢は久しぶりに会う友人かのような反応だった。まさかここまで温度差があったなんて、と思ってしまうほどだったが、ひとまず用件は伝えねば。そう思うのだが、賢は研究室に入ろうとする。つい必死で呼び止めた。
「賢さんあの」
「どうしたの、なんか約束とかあったっけ?」
「連絡先ください」
「あー、なるほど」
「なるほど?とは?」
「いやー、最近仁と思しきやつが研究室を訪ねてくるってゼミのやつから連絡があってさ。まぁ俺は忙しくて来れなかったんだけど」
「な、なるほど?」
「まぁ、今日来るかわからなかったから来たら用件は聞こうと思ってたけど、連絡先ね。そういえば交換してなかったね」
ここ数日は研究室には来ていなかったらしい。それでも他のゼミ生からの報告は聞いていた。それで気にかけてくれる賢は優しい。
研究室のドアノブに手をかけたまま立ち止まる賢にもう一度用件を伝える。
「それで、連絡先を」
「なるほどね、電話かメールかSNS、どれがいい?」
「SNSで」
「了解。またなんかあったら連絡してね」
「いつ研究室行ったらいいですか」
「いつでもおいで。うちの研究室は誰でも入っていいから」
「え、そうなんですか」
「教授がそういう人なの」
仁も含めた下級生というのは存外研究室というモノを神聖視している気がする。そんな気持ちを抱えつつ、一言二言会話をして、解散する。賢はこれから研究の進捗報告会なのだ。仁は特にすることがあるわけではないが、賢と会えたことでニコニコしていた。はたとここでレポートがあったことを思い出し急いで図書館に走る。見たい文献が残っていれば嬉しい。しかし、現実はそう甘くない。15分前に貸し出しがあったようだ。これはしばらく返って来ない。欲しかった資料を諦め、別の資料を借りてレポートを書く。明日の提出に向けて超特急でやらなければ。仁は明日提出のレポートをなんとか仕上げることに必死になった。
ため息をつく。失敗だった。気付いたのは家に帰ってからだった。賢との連絡先の交換を忘れたのだ。あの食堂でのご飯から3日が経つ。あれから賢には再会できず。時間がある時に研究室を訪ねてみるも、どうしても時間が合わないようだ。
仁はいま2年で授業が一番忙しい時期だった。空き時間に研究室に行っても教授らしき人と学生はいるのだが、賢はいつもいなかった。昼に食堂に行っても人が多すぎて見つけることはほぼ不可能だ。
今は3限の真っ只中。心理学の授業を受けながら、賢のことを考えていた。全くの初対面から一目惚れに近い恋をした。そして、あの研究室での再会。しかし今は全然見つからない。果たしてどこにいるのだろうか。
「おい、おい仁。講義終わったぞ」
「え?あぁ、ありがとう」
友人に声をかけられ、講義が終わったことに気づく。教授はもう教室から出ていた。ここ数日は賢の居場所ばかりを考えている。さっぱり居場所がわからない。このあと4限からは授業がない。ひとまず研究室に顔を出すことに決めた。ここ数日影すら見ていない。もはや実在するのかすら怪しいと思える賢を拝むために、今日も研究室に向かう。
教室を出て、ふらふらと歩きながら研究棟へ。そして比較的新しく見えるエレベーターに乗りながら研究室へと向かう。前と同じ扉まで来て、ちらりと覗く。やはり賢の影はない。肩を落としながらエレベーターへと戻っていく。ため息を吐きながらエレベーターに乗り込もうとしたところで、人とすれ違う。
「おっ、仁じゃねーか。どうしたの」
「あ、賢さん」
仁は生き別れた兄と再会するかのような声だったのに、賢は久しぶりに会う友人かのような反応だった。まさかここまで温度差があったなんて、と思ってしまうほどだったが、ひとまず用件は伝えねば。そう思うのだが、賢は研究室に入ろうとする。つい必死で呼び止めた。
「賢さんあの」
「どうしたの、なんか約束とかあったっけ?」
「連絡先ください」
「あー、なるほど」
「なるほど?とは?」
「いやー、最近仁と思しきやつが研究室を訪ねてくるってゼミのやつから連絡があってさ。まぁ俺は忙しくて来れなかったんだけど」
「な、なるほど?」
「まぁ、今日来るかわからなかったから来たら用件は聞こうと思ってたけど、連絡先ね。そういえば交換してなかったね」
ここ数日は研究室には来ていなかったらしい。それでも他のゼミ生からの報告は聞いていた。それで気にかけてくれる賢は優しい。
研究室のドアノブに手をかけたまま立ち止まる賢にもう一度用件を伝える。
「それで、連絡先を」
「なるほどね、電話かメールかSNS、どれがいい?」
「SNSで」
「了解。またなんかあったら連絡してね」
「いつ研究室行ったらいいですか」
「いつでもおいで。うちの研究室は誰でも入っていいから」
「え、そうなんですか」
「教授がそういう人なの」
仁も含めた下級生というのは存外研究室というモノを神聖視している気がする。そんな気持ちを抱えつつ、一言二言会話をして、解散する。賢はこれから研究の進捗報告会なのだ。仁は特にすることがあるわけではないが、賢と会えたことでニコニコしていた。はたとここでレポートがあったことを思い出し急いで図書館に走る。見たい文献が残っていれば嬉しい。しかし、現実はそう甘くない。15分前に貸し出しがあったようだ。これはしばらく返って来ない。欲しかった資料を諦め、別の資料を借りてレポートを書く。明日の提出に向けて超特急でやらなければ。仁は明日提出のレポートをなんとか仕上げることに必死になった。
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