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Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)
[My own war(俺の戦争)]
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「2人とも、正確な状況報告ありがとう」
「じゃあ、僕達が先行しますから隊長は後から」
「待て!」
車から降りようとするホルツとシュパンダウを止めた。
心配そうな顔を向ける2人に、自信をもって言う。
「これは俺に課せられたミッションだ、だから俺自身でカタをつける」
「でも」
「しかし」
2人がそれでもまだ俺の事を心配してくれる。
なんて良い奴なんだ。
「戦場でいきなり敵戦車が現われたとき、誰が始末した? 俺がお前たちに始末してこいと言って物見の見物を決め込んだことがあったか?」
「隊長はいつもその逆で、僕たちに敵の注意を引き付けるだけの簡単な指示を出し、自らは勇猛果敢に敵戦車に向かって突撃しました」
「まあ、たまに連れて行かれる俺は、その都度生きた心地はしなかったがな」
「ここからは俺だけの戦争だ、お前たちにはその生き様死に様を、最後まで見守っていて欲しい」
「わかりました」
「了解!」
ドアを開けて車を降りる。
ラウンドアバウトの中を、歩を緩める事もなく堂々と進んでゆく。
「アイツ車を避けさしているぜ」
「まさに決闘に赴く男の姿ですね」
「カッケー!」
シュパンダウがバタバタと車の中で暴れてみせた。
何個目かの車のクラクションに、最初に気付いたのはやはりジュリーだった。
ジュリーの大きくて綺麗な青い瞳が俺を捉える。
目が合った瞬間、俺はまるで引力に引かれる様に走り出す。
そして、ジュリーも!
教会の階段を昇りかけていた彼女は、子供をマルシュに託してまるでツバメの様に俺の元に駆けて来ると、その華奢な体を俺の胸に埋めた。
「嗚呼、ルッツ。待っていたの」
「すまない、約束が遅くなって」
「構わないわ、アナタは大変だったのだもの。私はあと5年でも10年でも待つ覚悟で居たわ」
ジュリーのその言葉にも驚かされたが、もっと驚いたのは、俺に話をすることを許してくれなかった可愛い唇。
ジュリーの唇は、彼女の青い瞳がキラキラと輝くたびに俺の唇を捉えて離そうとしない。
彼女の情熱に負けないように、俺もジュリーを確りと抱きしめてその唇を受け止める。
いつまでそうして抱き合っていただろう。
初めの頃にザワザワと見ていたギャラリーたちは、もうとっくに居なくなり、それに代わて新しいギャラリーが来た。
「なあ、言った通りだろうルッツ少尉は必ず来るって」
「ああ」
声の主は最初がクルーガーで、次がジョンソン大尉。
「これで俺たちの淡い期待も、オジャンだな」
「残念ながら僕は君たちと違って淡い期待などこれっぽっちも抱いていなかった。まあ正確に言うとルッツに会う前から、ジュリーからルッツの話しを聞いていて僕の恋愛感情は木っ端微塵に打ち壊されていたよ」
「例えるなら?」
「そうだな……ドイツ軍のカール自走臼砲の60cm弾の直撃を受けた馬小屋って言うところかな」
「そりゃあ、木っ端微塵だ」
「そういうジョンソンはどうなんだ? 最後まで挫けずベストを尽くしたようだけど」
「別にそのためにベストを尽くした訳じゃない。ただあの間違った裁判が許せなかっただけ」
「で、君の今の心情を例えるなら?」
「平気だ。君と違って俺はまだ現役バリバリの軍人だからな、そんな事では挫けない。……と言いたいところだが、例えるなら戦場のド真ん中に降下したのは良いものの、そこの教会の高い塔の上に落下傘を引っ掛けて何もできないで見ている空挺隊員の心境だよ。泣いていいか?」
「どうぞ」
デカいジョンソン大尉が、のっぽなクルーガー元少尉の胸に蹲って本当に泣き出してしまった。
「マルシュはどうなの?」
泣いているジョンソン大尉の頭を撫でながら、子供と手を繋いでいるマルシュに話を振る。
「俺はジュリーとは幼馴染で良く性格も知っていたから、最初から諦め半分さ。それでも正直諦められなかったけれどね」
「それを例えるなら?」
「う~ん……。大切な花をどの花瓶に入れようかと迷って、花瓶を買い物に出ているうちに家にあるまんまの花瓶のまま親友の家に飾られていた感覚かな」
「上手い! つまり重要だったのは花瓶を選ぶことではなくて、花そのものだったと言うことだね」
「そ、そうだね」
話しを聞いて急にメモに取り出すクルーガーに、少し引いてしまうマルシュ。
「おじちゃんは、どんなお花がちゅきなの?」
いままで黙って聞いていた赤ちゃんがマルシュに聞く。
“おじちゃん!?”
今までジュリーを抱きながら否応なしに3人の会話は耳に届いていて、聞くともなしに聞こえていた。
状況的には3人ともジュリーを諦めている状態。
だったら、この子の親は誰なんだ??
俺はまだ甘えるジュリーの肩を掴み、少し体を離して大切な話を切り出した。
「ジュリー、今から大切な話をするから聞いてくれ」
「ええ」
甘い眼で見つめられると、折角離した体をもう一度抱きしめたくなるのを我慢して話を進めた。
「子供が居るのは知っている。だけど」
「だけど?」
俺の直ぐ傍で、幼い子供の様に上目遣いに見上げる素直な表情が堪らない。
けれども、言わなければ。
「だけど、ジュリー! 俺は君が欲しい!」
「まあ!」
「俺と……俺と、結婚して欲しい!」
「嬉しいわ、ありがとう」
「俺は敗戦と裁判のショックから抜け出せずに今はまだ社会的に復帰を果たせずローテンブルクの実家に引きこもっているけれど、必ず立派に社会復帰を果たして見せる。だから、お願いだから俺の妻になって欲しい!」
「出会った時から、私のハートは貴方の虜よ」
答えを聞くためにジュリーの眼を見つめていると、ジュリーは目に溜めた涙をキラキラと輝かせながら俺を見ていた。
そしてその涙が一気に溢れ出るのを隠すように背中を向ける。
「す、すまない。君の状況も分かっていないのに、一方的に話してしまって」
「エリーゼ、こっちに来なさい」
「じゃあ、僕達が先行しますから隊長は後から」
「待て!」
車から降りようとするホルツとシュパンダウを止めた。
心配そうな顔を向ける2人に、自信をもって言う。
「これは俺に課せられたミッションだ、だから俺自身でカタをつける」
「でも」
「しかし」
2人がそれでもまだ俺の事を心配してくれる。
なんて良い奴なんだ。
「戦場でいきなり敵戦車が現われたとき、誰が始末した? 俺がお前たちに始末してこいと言って物見の見物を決め込んだことがあったか?」
「隊長はいつもその逆で、僕たちに敵の注意を引き付けるだけの簡単な指示を出し、自らは勇猛果敢に敵戦車に向かって突撃しました」
「まあ、たまに連れて行かれる俺は、その都度生きた心地はしなかったがな」
「ここからは俺だけの戦争だ、お前たちにはその生き様死に様を、最後まで見守っていて欲しい」
「わかりました」
「了解!」
ドアを開けて車を降りる。
ラウンドアバウトの中を、歩を緩める事もなく堂々と進んでゆく。
「アイツ車を避けさしているぜ」
「まさに決闘に赴く男の姿ですね」
「カッケー!」
シュパンダウがバタバタと車の中で暴れてみせた。
何個目かの車のクラクションに、最初に気付いたのはやはりジュリーだった。
ジュリーの大きくて綺麗な青い瞳が俺を捉える。
目が合った瞬間、俺はまるで引力に引かれる様に走り出す。
そして、ジュリーも!
教会の階段を昇りかけていた彼女は、子供をマルシュに託してまるでツバメの様に俺の元に駆けて来ると、その華奢な体を俺の胸に埋めた。
「嗚呼、ルッツ。待っていたの」
「すまない、約束が遅くなって」
「構わないわ、アナタは大変だったのだもの。私はあと5年でも10年でも待つ覚悟で居たわ」
ジュリーのその言葉にも驚かされたが、もっと驚いたのは、俺に話をすることを許してくれなかった可愛い唇。
ジュリーの唇は、彼女の青い瞳がキラキラと輝くたびに俺の唇を捉えて離そうとしない。
彼女の情熱に負けないように、俺もジュリーを確りと抱きしめてその唇を受け止める。
いつまでそうして抱き合っていただろう。
初めの頃にザワザワと見ていたギャラリーたちは、もうとっくに居なくなり、それに代わて新しいギャラリーが来た。
「なあ、言った通りだろうルッツ少尉は必ず来るって」
「ああ」
声の主は最初がクルーガーで、次がジョンソン大尉。
「これで俺たちの淡い期待も、オジャンだな」
「残念ながら僕は君たちと違って淡い期待などこれっぽっちも抱いていなかった。まあ正確に言うとルッツに会う前から、ジュリーからルッツの話しを聞いていて僕の恋愛感情は木っ端微塵に打ち壊されていたよ」
「例えるなら?」
「そうだな……ドイツ軍のカール自走臼砲の60cm弾の直撃を受けた馬小屋って言うところかな」
「そりゃあ、木っ端微塵だ」
「そういうジョンソンはどうなんだ? 最後まで挫けずベストを尽くしたようだけど」
「別にそのためにベストを尽くした訳じゃない。ただあの間違った裁判が許せなかっただけ」
「で、君の今の心情を例えるなら?」
「平気だ。君と違って俺はまだ現役バリバリの軍人だからな、そんな事では挫けない。……と言いたいところだが、例えるなら戦場のド真ん中に降下したのは良いものの、そこの教会の高い塔の上に落下傘を引っ掛けて何もできないで見ている空挺隊員の心境だよ。泣いていいか?」
「どうぞ」
デカいジョンソン大尉が、のっぽなクルーガー元少尉の胸に蹲って本当に泣き出してしまった。
「マルシュはどうなの?」
泣いているジョンソン大尉の頭を撫でながら、子供と手を繋いでいるマルシュに話を振る。
「俺はジュリーとは幼馴染で良く性格も知っていたから、最初から諦め半分さ。それでも正直諦められなかったけれどね」
「それを例えるなら?」
「う~ん……。大切な花をどの花瓶に入れようかと迷って、花瓶を買い物に出ているうちに家にあるまんまの花瓶のまま親友の家に飾られていた感覚かな」
「上手い! つまり重要だったのは花瓶を選ぶことではなくて、花そのものだったと言うことだね」
「そ、そうだね」
話しを聞いて急にメモに取り出すクルーガーに、少し引いてしまうマルシュ。
「おじちゃんは、どんなお花がちゅきなの?」
いままで黙って聞いていた赤ちゃんがマルシュに聞く。
“おじちゃん!?”
今までジュリーを抱きながら否応なしに3人の会話は耳に届いていて、聞くともなしに聞こえていた。
状況的には3人ともジュリーを諦めている状態。
だったら、この子の親は誰なんだ??
俺はまだ甘えるジュリーの肩を掴み、少し体を離して大切な話を切り出した。
「ジュリー、今から大切な話をするから聞いてくれ」
「ええ」
甘い眼で見つめられると、折角離した体をもう一度抱きしめたくなるのを我慢して話を進めた。
「子供が居るのは知っている。だけど」
「だけど?」
俺の直ぐ傍で、幼い子供の様に上目遣いに見上げる素直な表情が堪らない。
けれども、言わなければ。
「だけど、ジュリー! 俺は君が欲しい!」
「まあ!」
「俺と……俺と、結婚して欲しい!」
「嬉しいわ、ありがとう」
「俺は敗戦と裁判のショックから抜け出せずに今はまだ社会的に復帰を果たせずローテンブルクの実家に引きこもっているけれど、必ず立派に社会復帰を果たして見せる。だから、お願いだから俺の妻になって欲しい!」
「出会った時から、私のハートは貴方の虜よ」
答えを聞くためにジュリーの眼を見つめていると、ジュリーは目に溜めた涙をキラキラと輝かせながら俺を見ていた。
そしてその涙が一気に溢れ出るのを隠すように背中を向ける。
「す、すまない。君の状況も分かっていないのに、一方的に話してしまって」
「エリーゼ、こっちに来なさい」
応援ありがとうございます!
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