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Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)
[War trialⅡ(戦争裁判)]
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「たしかにこのルーアンの件に関して、ルッツ少尉は親衛隊に虐殺されようとする寸前の村人多数を自らの身を楯にすること、そして同じ心を持つドイツ兵の協力を得て虐殺を阻止しました。でも、この事実とマルメディー虐殺とは何の関係もありません。そこでもう一度事実を確認するために、ルッツ少尉がマルメディー虐殺に関わったとされる証言を行った証人に事実を話してもらいます」
証言台に上がったのは、あの日俺と行動を共にしていた3人の降下猟兵。
「……」
「さあ正直に話して、戦争以外の事で人の命がかかっている事です。勇気を出して事実を」
戸惑い、黙っていた3人を諭すようにジョンソン大尉が話し掛けると、固く閉ざされていた水門が徐々に開くように3人が話し始めた。
「……少尉は、散り散りになった部隊を集めるため無線機のある親衛隊部隊の本部棟に入っただけです」
「そこで、親衛隊の指示を受けて虐殺命令を下したと、アナタ達は証言しましたが間違いありませんね」
「……」
「……」
「しょ、少尉は、降下に失敗した俺を見捨てずに救ってくれました」
「たしかに、ルーアンの一件で分かったように、この被告人には道徳心があるようですね。しかしこの件とアメリカ人捕虜の虐殺とは全く関係はありません。どんなに優れた人物であろうとも、戦場で武器を持っている以上、間違いは起こり得る。この裁判は、そう言った間違いをこの先誰も犯す事の無いように、強く裁く。いわば見せしめの意味も込めた裁判なのですから」
「……」
証言した、骨折した男が黙ると、隣の男が唐突に発言した。
「お金を貰いました」
「はあ? 何のことです? 意味が分かりませんが」
ジョンソン大尉が怪訝そうに兵士を見つめると、隣の兵士も意を決したように同じ言葉を発した。
「俺は怪我の影響で体の自由が利かねえから、職を紹介してやると言われました」
「何のことです? つまり、それは……」
「そうです。我々はお金や仕事の為に、仲間を売る所でした。これまでの証言は全て嘘です」
「嘘!? 法廷侮辱罪にあたりますよ」
「仕方なかったんです」
「降下猟兵は、エリート部隊です。だから俺たちは、それに憧れて入隊しました」
「戦時中は、他の国防軍兵士からも降下猟兵と言うだけで一目置かれていました」
「でも、終戦になると、状況は180度変わった」
「エリート部隊は、占領軍に睨まれる」
「他の国防軍兵士たちと違って、降下猟兵と言うだけで雇用先に敬遠されているんです」
「たしかにナチス関係者をはじめ、戦時中に良い思いをしたドイツ人たちの立場は敗戦を機に一転していることは存じていますが、お金や就職と嘘の証言の関連性が分かりませんが。そこのところを詳しく教えてもらえませんか? お金は何のために、誰に貰ったのですか?」
ジョンソン大尉の質問に、3人が検事長の方を見る。
50代半ばの検事長が目を反らし、事件に関係ない証言であることを裁判長に進言し、発言を止めさせるように申し出る。
裁判長が、それに応えて発言を止めさせようとしたとき、傍聴人席に居た将軍の1人が大声を上げた。
「発言させろ‼ 戦争はもう終わった。我々は事実が知りたいだけで、誰も無実の人間を吊るし上げてまで裁こうとはしていないはずだ! 罪は罪だが、罪もない人間に罪を着せるのは虐殺行為と同じではないのか!?」
裁判長が傍聴人に静かにする様に言うが、将軍も黙ってはいない。
「自由な社会を作るのが我々の目的のはずだ、ところがこの裁判は一体なんだ!? まるでナチスイズムそのものじゃないか! 俺たち兵士は、それを叩きのめすために戦場で多くの仲間を失ったと言うのに、これじゃあ死んでいった兵士たちの墓標で俺は何と言えばいいんだ‼」
「パットン将軍に退席を命じます!」
あれが、猛将として有名なパットンか……。
俺を含めて、おそらく法廷に居る1人を除いた全員がMP(軍警察官)に取り押さえられようとしているパットン将軍の方を見ていた。
そして、見ていないたった一人の人間が話し始め、騒然としていた法廷が一気に静まり返った。
「私は、ハンバーガーヒルと呼ばれた森で息子を亡くしました。息子以外にも多くの連合軍兵士がそこで戦死しましたが、ドイツ軍は砲弾の信管を敏感にすることで森の樹木に砲弾が触れた瞬間に爆発させて爆風や破片をより広範囲に飛ばす事で殺傷力を高め、これはのちのヒュルトゲンの森でも行われました。砲撃戦が終わったあと直ぐに私は息子が居た戦場に赴くことが出来ました。生きていて欲しいと願っていました。でも現実は絶望的でした。息子の居た部隊は跡形もなく、人が人である状態の死体すら発見が困難な状況。周囲に散らばっているのは、それが人間のモノだったのか動物のモノだったのかも判別できない臓器や骨の欠片が散らばっているだけでした。せめて息子の死体の一部でも抱くことが出来たなら、それさえも許さない戦争を、いやドイツ人を怨みました……」
「恨みは平和をもたらしませんよ」
傍聴人席の誰かが言った。
一瞬その言葉を発したのが、もしかしたらジュリーではないかと傍聴人席を見渡したが、それらしい人物は見当たらなかった。
「その通りです。私が間違っていました」
検事長が、そう言って項垂れた。
証言台に上がったのは、あの日俺と行動を共にしていた3人の降下猟兵。
「……」
「さあ正直に話して、戦争以外の事で人の命がかかっている事です。勇気を出して事実を」
戸惑い、黙っていた3人を諭すようにジョンソン大尉が話し掛けると、固く閉ざされていた水門が徐々に開くように3人が話し始めた。
「……少尉は、散り散りになった部隊を集めるため無線機のある親衛隊部隊の本部棟に入っただけです」
「そこで、親衛隊の指示を受けて虐殺命令を下したと、アナタ達は証言しましたが間違いありませんね」
「……」
「……」
「しょ、少尉は、降下に失敗した俺を見捨てずに救ってくれました」
「たしかに、ルーアンの一件で分かったように、この被告人には道徳心があるようですね。しかしこの件とアメリカ人捕虜の虐殺とは全く関係はありません。どんなに優れた人物であろうとも、戦場で武器を持っている以上、間違いは起こり得る。この裁判は、そう言った間違いをこの先誰も犯す事の無いように、強く裁く。いわば見せしめの意味も込めた裁判なのですから」
「……」
証言した、骨折した男が黙ると、隣の男が唐突に発言した。
「お金を貰いました」
「はあ? 何のことです? 意味が分かりませんが」
ジョンソン大尉が怪訝そうに兵士を見つめると、隣の兵士も意を決したように同じ言葉を発した。
「俺は怪我の影響で体の自由が利かねえから、職を紹介してやると言われました」
「何のことです? つまり、それは……」
「そうです。我々はお金や仕事の為に、仲間を売る所でした。これまでの証言は全て嘘です」
「嘘!? 法廷侮辱罪にあたりますよ」
「仕方なかったんです」
「降下猟兵は、エリート部隊です。だから俺たちは、それに憧れて入隊しました」
「戦時中は、他の国防軍兵士からも降下猟兵と言うだけで一目置かれていました」
「でも、終戦になると、状況は180度変わった」
「エリート部隊は、占領軍に睨まれる」
「他の国防軍兵士たちと違って、降下猟兵と言うだけで雇用先に敬遠されているんです」
「たしかにナチス関係者をはじめ、戦時中に良い思いをしたドイツ人たちの立場は敗戦を機に一転していることは存じていますが、お金や就職と嘘の証言の関連性が分かりませんが。そこのところを詳しく教えてもらえませんか? お金は何のために、誰に貰ったのですか?」
ジョンソン大尉の質問に、3人が検事長の方を見る。
50代半ばの検事長が目を反らし、事件に関係ない証言であることを裁判長に進言し、発言を止めさせるように申し出る。
裁判長が、それに応えて発言を止めさせようとしたとき、傍聴人席に居た将軍の1人が大声を上げた。
「発言させろ‼ 戦争はもう終わった。我々は事実が知りたいだけで、誰も無実の人間を吊るし上げてまで裁こうとはしていないはずだ! 罪は罪だが、罪もない人間に罪を着せるのは虐殺行為と同じではないのか!?」
裁判長が傍聴人に静かにする様に言うが、将軍も黙ってはいない。
「自由な社会を作るのが我々の目的のはずだ、ところがこの裁判は一体なんだ!? まるでナチスイズムそのものじゃないか! 俺たち兵士は、それを叩きのめすために戦場で多くの仲間を失ったと言うのに、これじゃあ死んでいった兵士たちの墓標で俺は何と言えばいいんだ‼」
「パットン将軍に退席を命じます!」
あれが、猛将として有名なパットンか……。
俺を含めて、おそらく法廷に居る1人を除いた全員がMP(軍警察官)に取り押さえられようとしているパットン将軍の方を見ていた。
そして、見ていないたった一人の人間が話し始め、騒然としていた法廷が一気に静まり返った。
「私は、ハンバーガーヒルと呼ばれた森で息子を亡くしました。息子以外にも多くの連合軍兵士がそこで戦死しましたが、ドイツ軍は砲弾の信管を敏感にすることで森の樹木に砲弾が触れた瞬間に爆発させて爆風や破片をより広範囲に飛ばす事で殺傷力を高め、これはのちのヒュルトゲンの森でも行われました。砲撃戦が終わったあと直ぐに私は息子が居た戦場に赴くことが出来ました。生きていて欲しいと願っていました。でも現実は絶望的でした。息子の居た部隊は跡形もなく、人が人である状態の死体すら発見が困難な状況。周囲に散らばっているのは、それが人間のモノだったのか動物のモノだったのかも判別できない臓器や骨の欠片が散らばっているだけでした。せめて息子の死体の一部でも抱くことが出来たなら、それさえも許さない戦争を、いやドイツ人を怨みました……」
「恨みは平和をもたらしませんよ」
傍聴人席の誰かが言った。
一瞬その言葉を発したのが、もしかしたらジュリーではないかと傍聴人席を見渡したが、それらしい人物は見当たらなかった。
「その通りです。私が間違っていました」
検事長が、そう言って項垂れた。
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