90 / 98
Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)
[War criminals(戦争犯罪者)]
しおりを挟む
俺たち空軍降下猟兵最後の空挺作戦も失敗し、俺の分隊で集合できたのはシュパンダウとグリーデンとホルツの3人だけ。
ロス伍長をはじめザシャとマイヤーの3人とは遂に会えずじまいになってしまい、中隊長のオスマン大尉もこの戦いで行方不明になってしまった。
指揮官のハイテ中佐と150名の隊員だけが目標地点付近に降下出来たものの、作戦計画上では降下した17日中にはドイツ軍部隊が到着する予定だったものの19日になっても到着せず1日の食料と弾薬しか携行していない部隊は食料も弾薬も尽きて、その日のうちに降伏した。
輸送機のパイロットの技能低下は著しく、一部の部隊はドイツ国内のボンに降下し、ベルギーを飛び越えてオランダに降下した部隊も居たらしい。
折角最新鋭の武器や戦車を揃えても、部隊の前進に合わせて補給するための車両もなければ、肝心かなめの燃料もない。
部隊の前進をサポートする予備兵力もないから一部の地域では、捕虜を持ち余して虐殺が起きた。
そして国際法で禁止されている敵兵の軍服を着て、アメリカ兵に成り済ました部隊まで投入した。
結局ラインの守り作戦は失敗し、翌年の1月8日にはヒトラー自身による撤退命令が下った。
この自分勝手で野蛮な作戦を目の当たりにして、ジュリーがくれた微かな希望をもとに生き続けて行こうと思っていた心が折れそうになったが、その都度にシュパンダウたち3人に励まされて勇気を振り絞ってきた。
1945年4月30日。
ついにソビエト軍に攻め立てられたヒトラーは総統地下壕で自殺すると、この日を待っていたかのように新しく大統領に就任した海軍のデーニッツ元帥を中心に停戦交渉が始まり5月8日には降伏文書に調印し、この忌わしい戦争は終わった。
「やっと戦争が終わったな!」
「これで晴れて自由ですか?」
「いや、しばらくは収容所だろう」
「何故です? 戦争はもう終わったのに」
確かに戦争は終わった。
だが、戦争の傷跡は未だ残っている。
中でも戦争と言う状況を悪用して、人為的に作られた傷の原因は調べなければならない。
その為の事情聴取が終わるまで、俺達は自由にはならない。
「でも俺たちはホロコーストには係わっていねえぜ」
「それに戦闘中に犯罪的な行為もしていません」
「そう。俺たちは敵に対する戦闘以外はしていません」
ホロコーストとは大量虐殺を意味する。
ナチスによるホロコーストとしては、ユダヤ人約600万人とソビエト軍捕虜約330万から570万人の虐殺が有名であるが、アインザッツグルッペンによる占領下のポーランドやソビエトでの虐殺数も85万人から130万人と言われる。
3人の言う通り何も疚しいことなどないから、一通り事情聴取が行われてそれが済めば解放されるはずだった。
「ルードウィヒ・ツァインホルン(ルッツの本名) ドイツ空軍所属、降下猟兵少尉。間違いありませんか?」
「間違いありません」
「1944年12月17日、あなたは何所に居ましたか?」
「ラインの守り作戦(バルジの戦い)のため、ベルギー北部にいました」
「もっと詳しい地名を」
「降下部隊はベルギーのリエージュ州ユーベンにある十字路を確保するように命令を受けましたが、私の搭乗した輸送機はコースを誤りベルギー北東部のドイツ国境付近の森で我々を降下させました」
「そこから昼頃には何所に居ましたか?」
「本隊に合流するために北上して、昼にはマルメディーの南にあるボーグネスと言う村に居ました」
「そこであなたは何をしました?」
「親衛隊が小屋に通信機を設置していたので、小屋に入り本隊に連絡を取ろうとしました」
「小屋を出たときに、あなたは何を目撃しましたか?」
「……親衛隊による捕虜の虐殺を見ました」
「ありがとう。今日は以上です」
「ルードウィヒ・ツァインホルン……いや、仲間が呼ぶようにルッツ少尉と呼びましょう。いいですか?」
「かまいません」
「あなたの付けているその柏葉付き騎士十字章は大変珍しいですが、名誉な勲章なのですか? なにか特典があると伺いましたが……」
「ええ、この勲章を着けていると、敬礼を優先的に受けられます」
「例えば親衛隊の中佐にも?」
「相手の持っている勲章が、これ以下なら」
「それだけ権威が有る勲章だと言うことですね」
「まあ、古いプロイセン騎士道の名残でしょう」
「ありがとう。ルッツ少尉、また会いましょう」
「ルッツ、まだ取り調べか? やっぱ将校になると大変だな」
「僕たちは、明日で釈放です。隊長も早く出て来て下さい」
「ホルツ、釈放は止せ」
グリーデンが釈放と言う言葉を使ったホルツを嗜める。
シュパンダウたち3人も、俺に掛けられた嫌疑を知っているのだ。
嫌疑は、1944年12月17日に起きたマルメディー虐殺事件。
あの日、俺は偶然虐殺を実行した部隊の本部に居た。
ただそれだけではない。
虐殺を生き延びた複数のアメリカ兵の証言によると、本部から出て来た将校の号令を合図に、一斉にドイツ軍兵士たちが銃を撃ち始めたことになっている。
その小屋から出てきた将校が、この俺という訳。
俺はあのとき拳銃を撃った親衛隊将校を止めようとして“Hör auf mit dummen Sachen‼(愚かなことは止めろ!)”と叫んだが、その将校は俺の言葉を無視するように直ぐに虐殺の命令を下した。
ドイツ語の分からないアメリカ兵にとって、親衛隊の将校は俺の合図で部下に虐殺の指示を出したように見えるかも知れない。
そして俺は、柏葉付き騎士十字章を胸に付けていることが、更なる災いとなってしまった。
ロス伍長をはじめザシャとマイヤーの3人とは遂に会えずじまいになってしまい、中隊長のオスマン大尉もこの戦いで行方不明になってしまった。
指揮官のハイテ中佐と150名の隊員だけが目標地点付近に降下出来たものの、作戦計画上では降下した17日中にはドイツ軍部隊が到着する予定だったものの19日になっても到着せず1日の食料と弾薬しか携行していない部隊は食料も弾薬も尽きて、その日のうちに降伏した。
輸送機のパイロットの技能低下は著しく、一部の部隊はドイツ国内のボンに降下し、ベルギーを飛び越えてオランダに降下した部隊も居たらしい。
折角最新鋭の武器や戦車を揃えても、部隊の前進に合わせて補給するための車両もなければ、肝心かなめの燃料もない。
部隊の前進をサポートする予備兵力もないから一部の地域では、捕虜を持ち余して虐殺が起きた。
そして国際法で禁止されている敵兵の軍服を着て、アメリカ兵に成り済ました部隊まで投入した。
結局ラインの守り作戦は失敗し、翌年の1月8日にはヒトラー自身による撤退命令が下った。
この自分勝手で野蛮な作戦を目の当たりにして、ジュリーがくれた微かな希望をもとに生き続けて行こうと思っていた心が折れそうになったが、その都度にシュパンダウたち3人に励まされて勇気を振り絞ってきた。
1945年4月30日。
ついにソビエト軍に攻め立てられたヒトラーは総統地下壕で自殺すると、この日を待っていたかのように新しく大統領に就任した海軍のデーニッツ元帥を中心に停戦交渉が始まり5月8日には降伏文書に調印し、この忌わしい戦争は終わった。
「やっと戦争が終わったな!」
「これで晴れて自由ですか?」
「いや、しばらくは収容所だろう」
「何故です? 戦争はもう終わったのに」
確かに戦争は終わった。
だが、戦争の傷跡は未だ残っている。
中でも戦争と言う状況を悪用して、人為的に作られた傷の原因は調べなければならない。
その為の事情聴取が終わるまで、俺達は自由にはならない。
「でも俺たちはホロコーストには係わっていねえぜ」
「それに戦闘中に犯罪的な行為もしていません」
「そう。俺たちは敵に対する戦闘以外はしていません」
ホロコーストとは大量虐殺を意味する。
ナチスによるホロコーストとしては、ユダヤ人約600万人とソビエト軍捕虜約330万から570万人の虐殺が有名であるが、アインザッツグルッペンによる占領下のポーランドやソビエトでの虐殺数も85万人から130万人と言われる。
3人の言う通り何も疚しいことなどないから、一通り事情聴取が行われてそれが済めば解放されるはずだった。
「ルードウィヒ・ツァインホルン(ルッツの本名) ドイツ空軍所属、降下猟兵少尉。間違いありませんか?」
「間違いありません」
「1944年12月17日、あなたは何所に居ましたか?」
「ラインの守り作戦(バルジの戦い)のため、ベルギー北部にいました」
「もっと詳しい地名を」
「降下部隊はベルギーのリエージュ州ユーベンにある十字路を確保するように命令を受けましたが、私の搭乗した輸送機はコースを誤りベルギー北東部のドイツ国境付近の森で我々を降下させました」
「そこから昼頃には何所に居ましたか?」
「本隊に合流するために北上して、昼にはマルメディーの南にあるボーグネスと言う村に居ました」
「そこであなたは何をしました?」
「親衛隊が小屋に通信機を設置していたので、小屋に入り本隊に連絡を取ろうとしました」
「小屋を出たときに、あなたは何を目撃しましたか?」
「……親衛隊による捕虜の虐殺を見ました」
「ありがとう。今日は以上です」
「ルードウィヒ・ツァインホルン……いや、仲間が呼ぶようにルッツ少尉と呼びましょう。いいですか?」
「かまいません」
「あなたの付けているその柏葉付き騎士十字章は大変珍しいですが、名誉な勲章なのですか? なにか特典があると伺いましたが……」
「ええ、この勲章を着けていると、敬礼を優先的に受けられます」
「例えば親衛隊の中佐にも?」
「相手の持っている勲章が、これ以下なら」
「それだけ権威が有る勲章だと言うことですね」
「まあ、古いプロイセン騎士道の名残でしょう」
「ありがとう。ルッツ少尉、また会いましょう」
「ルッツ、まだ取り調べか? やっぱ将校になると大変だな」
「僕たちは、明日で釈放です。隊長も早く出て来て下さい」
「ホルツ、釈放は止せ」
グリーデンが釈放と言う言葉を使ったホルツを嗜める。
シュパンダウたち3人も、俺に掛けられた嫌疑を知っているのだ。
嫌疑は、1944年12月17日に起きたマルメディー虐殺事件。
あの日、俺は偶然虐殺を実行した部隊の本部に居た。
ただそれだけではない。
虐殺を生き延びた複数のアメリカ兵の証言によると、本部から出て来た将校の号令を合図に、一斉にドイツ軍兵士たちが銃を撃ち始めたことになっている。
その小屋から出てきた将校が、この俺という訳。
俺はあのとき拳銃を撃った親衛隊将校を止めようとして“Hör auf mit dummen Sachen‼(愚かなことは止めろ!)”と叫んだが、その将校は俺の言葉を無視するように直ぐに虐殺の命令を下した。
ドイツ語の分からないアメリカ兵にとって、親衛隊の将校は俺の合図で部下に虐殺の指示を出したように見えるかも知れない。
そして俺は、柏葉付き騎士十字章を胸に付けていることが、更なる災いとなってしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻
初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。
1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。
霧深き北海で戦艦や空母が激突する!
「寒いのは苦手だよ」
「小説家になろう」と同時公開。
第四巻全23話
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
葉桜
たこ爺
歴史・時代
一九四二年一二月八日より開戦したアジア・太平洋戦争。
その戦争に人生を揺さぶられたとあるパイロットのお話。
この話を読んで、より戦争への理解を深めていただければ幸いです。
※一部話を円滑に進めるために史実と異なる点があります。注意してください。
※初投稿作品のため、拙い点も多いかと思いますがご指摘いただければ修正してまいりますので、どしどし、ご意見の程お待ちしております。
※なろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿中
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
大罪人の娘・前編 最終章 乱世の弦(いと)、宿命の長篠決戦
いずもカリーシ
歴史・時代
織田信長と武田勝頼、友となるべき2人が長篠・設楽原にて相討つ!
「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したい」
この志を貫こうとする織田信長。
一方。
信長の愛娘を妻に迎え、その志を一緒に貫きたいと願った武田勝頼。
ところが。
武器商人たちの企てによって一人の女性が毒殺され、全てが狂い出しました。
これは不運なのか、あるいは宿命なのか……
同じ志を持つ『友』となるべき2人が長篠・設楽原にて相討つのです!
(他、いずもカリーシで掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる