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Surrender, retreat, or die(降伏か撤退か、それとも死か)
[Marsh's decisionⅡ(マルシュの決断)]
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結局一人で行くことは、ピエールをはじめ仲間たちが断固として反対した。
とは言っても俺が拘束された訳ではなく、皆もついて行くと言う。
「死んでも知らんぞ!」
「命を張っているのは何も奴等ばかりじゃねえ、俺達だって国のためになら命なんて惜しくはねえ! なあみんな」
ピエールの言葉に仲間たちが静かに賛同の声を上げる。
「仕方のねえ奴等だな」
「お互い様だぜ」
「着いて来るのは勝手だが、絶対に奴等に銃口を向けるな」
「じゃあ奴等が俺たちに銃を向けても、我慢しろとでも言うのか?」
「その通り。お互いに銃を向け合うと撃ち合いになる。そうなれば俺たちは全滅だ」
「でも敵に銃を向けねえのなら、奴等が撃って来たときにはどのみち俺たちは全滅だぜ」
「その通り」
「死にに行くのか!?」
「まあ、確率論や常識に捕らわれれば、そういう事になるな」
そう。
これはサン・ジャック通りでパリ中心部へ向かう連合軍部隊の前に1人で立ちはだかったアイツと同じ。
常識的に考えるなら、死んで当然。
だが、アイツは見事に目的を果たし、生き残った。
今度は俺が試される番。
ジュリーに似合う男かどうかを。
「無理して我慢する必要はないから、我慢できない奴は着いて来るな。無理をして着いて来られると全員の命に係わる。要は死んでも構わない奴だけ……それと、何が起きようとも、この先で起きたことは誰にも話さないと誓える者だけ同行を許す」
ここで殆どの仲間が銃を置いた。
残ったのはピエールの他には、ジャンと言う50代の仲間の2人だけ。
奇しくも、あの時のルッツが連れて行った人数と同じ3人。
残った仲間に、ジュリーが戻って来たときに俺が約束を果たしに行った事を伝える様に頼んで、俺達3人はルッツたちを追った。
奴がジュリーの言う様に、本当に頭が良いのなら最初に何所に向かうかは見当がつく。
ここで会えなければ、ジュリーの“買いかぶり”で俺たちが命を懸けてまで約束を果たす意味がないと言うこと。
「おいマルシュ、奴等を追って行ったって、行き先が分からねえんじゃ追いつけねえぜ」
「行く先の見当は付けてあるから、追わずに先回りする」
「さすが、ジュリーに頼られるだけあるぜ」
“頼られるだけある”か……正直、いま一番言われたくない言葉。
ジュリーがパリを出発する前、シテ島防衛線上の重要拠点であるプティ・ポン橋を守っていた彼等がディタリー広場へと移動した。
ジュリーは彼等にこの要所を守らせれば、凄まじい戦闘が起きて街が壊されてしまうだろうと言っていたが、それはそのまま彼等の有能さを物語るもので優秀な守備隊と言える。
確かにここでの奴等の戦闘を見る限りそれは間違ってはいない。
同じドイツ軍の司令官でもあるコルティッが、その事を知らない訳がない。
彼等の戦歴、特にルッツが柏葉付き鉄十字章を授与していると言う事を知らないはずがない。
おそらくジュリーが自ら、コルティッツに取り入って彼等をディタリー広場に移動させたに違いない。
何故?
それはジュリーがルッツを愛しているから。
いつもなら隠し事を絶対に相手に悟られない彼女が、ルッツに関する事は俺にだって分かるほど筒抜けで、恋をする者の弱点を晒している。
俺だってジュリーの事は……。
走る、走る、走る。
ドイツ軍の将軍が自らの部隊に降伏命令を出した以上、もうコソコソと泥棒の様に用心しながら出歩く必要はない。
ここは俺達の街だ。
今まで俺たちの街を泥だらけのブーツで我が物顔に汚していたドイツ兵たちが今度はコソコソする番。
なにしろ奴等は、俺達からパリを盗み取ろうとした本物の泥棒なのだから。
「おいっ、マルシュ、ここは……」
目的地に到着したとき、ピエールが驚いて声を上げた。
ここはサルペトリエール病院の敷地内にあるレンガの崩れた荒れた倉庫の傍。
つい1ヶ月ほど前の7月20日、ルッツを連れたジュリーがここでルーアンの村の住民を虐殺しようとした。あの親衛隊の少佐に銃を向けられて殺されかけていた場所。
もちろんその少佐はジュリーが始末した。
「本当にここに来るのか?」
「ああ、奴等の本隊は北に居る。北に移動するには必ずセーヌ川にかかる橋を渡らなければならないが、そこをあの少人数で渡る事はもはや不可能」
連合軍は完全に市内中心部を掌握しているから、当然全ての橋は固めている。
そこを突破する事は自殺行為であることは、勇猛果敢なルッツでも充分に分かっているはず。
だから逃げるつもりなら、ここから。
ジュリーが教え、ジュリーと一緒に使った、今は使われていない地下鉄の点検用縦穴を奴が忘れる訳がない。
「マルシュ! 誰か来る‼」
ルッツたちに違いない。
「ピエール、ジャン、建物の中に隠れろ」
「了解‼」
「くれぐれも言っておくが、決して奴等に銃を向けるな」
「了解! マルシュも早く来いよ」
「俺は、ここに残る」
「残る!?」
「ああ、サン・ジャック通りで奴が先行突入してきた部隊の将校の前に1人で立ち向かったときの様に、ここは俺も一対一の、さしでやらせてもらう」
「しかし」
「黙って俺の好きにさせてくれ」
奴がサン・ジャック通りで連合軍部隊を1人で止めたとき、俺は出ていく事はおろか動く勇気さえなかった。
しかし、今なら出来る。
ジュリーが戻って来られない以上、俺が彼女に代わってルッツを止めてみせる。
「分かった。その様子じゃあ、何を言っても無駄のようだな。だがお前が奴等に撃たれそうになったら、俺達も撃つぜ。それでいいだろう」
「駄目だ」
「駄目?」
「もし俺が奴等によってリンチに遭おうとも、お前たちは黙って見ていろ」
「どうして!?」
「見ていた全てをジュリーに伝えて欲しい。そしてジュリーの眼を覚まさせてくれ」
「やっぱりジュリーは!?」
「それは分からないが、とにかく頼む」
「分かったマルシュ。お前さんの一世一代の大勝負、とくと拝見させてもらうぜ!」
とは言っても俺が拘束された訳ではなく、皆もついて行くと言う。
「死んでも知らんぞ!」
「命を張っているのは何も奴等ばかりじゃねえ、俺達だって国のためになら命なんて惜しくはねえ! なあみんな」
ピエールの言葉に仲間たちが静かに賛同の声を上げる。
「仕方のねえ奴等だな」
「お互い様だぜ」
「着いて来るのは勝手だが、絶対に奴等に銃口を向けるな」
「じゃあ奴等が俺たちに銃を向けても、我慢しろとでも言うのか?」
「その通り。お互いに銃を向け合うと撃ち合いになる。そうなれば俺たちは全滅だ」
「でも敵に銃を向けねえのなら、奴等が撃って来たときにはどのみち俺たちは全滅だぜ」
「その通り」
「死にに行くのか!?」
「まあ、確率論や常識に捕らわれれば、そういう事になるな」
そう。
これはサン・ジャック通りでパリ中心部へ向かう連合軍部隊の前に1人で立ちはだかったアイツと同じ。
常識的に考えるなら、死んで当然。
だが、アイツは見事に目的を果たし、生き残った。
今度は俺が試される番。
ジュリーに似合う男かどうかを。
「無理して我慢する必要はないから、我慢できない奴は着いて来るな。無理をして着いて来られると全員の命に係わる。要は死んでも構わない奴だけ……それと、何が起きようとも、この先で起きたことは誰にも話さないと誓える者だけ同行を許す」
ここで殆どの仲間が銃を置いた。
残ったのはピエールの他には、ジャンと言う50代の仲間の2人だけ。
奇しくも、あの時のルッツが連れて行った人数と同じ3人。
残った仲間に、ジュリーが戻って来たときに俺が約束を果たしに行った事を伝える様に頼んで、俺達3人はルッツたちを追った。
奴がジュリーの言う様に、本当に頭が良いのなら最初に何所に向かうかは見当がつく。
ここで会えなければ、ジュリーの“買いかぶり”で俺たちが命を懸けてまで約束を果たす意味がないと言うこと。
「おいマルシュ、奴等を追って行ったって、行き先が分からねえんじゃ追いつけねえぜ」
「行く先の見当は付けてあるから、追わずに先回りする」
「さすが、ジュリーに頼られるだけあるぜ」
“頼られるだけある”か……正直、いま一番言われたくない言葉。
ジュリーがパリを出発する前、シテ島防衛線上の重要拠点であるプティ・ポン橋を守っていた彼等がディタリー広場へと移動した。
ジュリーは彼等にこの要所を守らせれば、凄まじい戦闘が起きて街が壊されてしまうだろうと言っていたが、それはそのまま彼等の有能さを物語るもので優秀な守備隊と言える。
確かにここでの奴等の戦闘を見る限りそれは間違ってはいない。
同じドイツ軍の司令官でもあるコルティッが、その事を知らない訳がない。
彼等の戦歴、特にルッツが柏葉付き鉄十字章を授与していると言う事を知らないはずがない。
おそらくジュリーが自ら、コルティッツに取り入って彼等をディタリー広場に移動させたに違いない。
何故?
それはジュリーがルッツを愛しているから。
いつもなら隠し事を絶対に相手に悟られない彼女が、ルッツに関する事は俺にだって分かるほど筒抜けで、恋をする者の弱点を晒している。
俺だってジュリーの事は……。
走る、走る、走る。
ドイツ軍の将軍が自らの部隊に降伏命令を出した以上、もうコソコソと泥棒の様に用心しながら出歩く必要はない。
ここは俺達の街だ。
今まで俺たちの街を泥だらけのブーツで我が物顔に汚していたドイツ兵たちが今度はコソコソする番。
なにしろ奴等は、俺達からパリを盗み取ろうとした本物の泥棒なのだから。
「おいっ、マルシュ、ここは……」
目的地に到着したとき、ピエールが驚いて声を上げた。
ここはサルペトリエール病院の敷地内にあるレンガの崩れた荒れた倉庫の傍。
つい1ヶ月ほど前の7月20日、ルッツを連れたジュリーがここでルーアンの村の住民を虐殺しようとした。あの親衛隊の少佐に銃を向けられて殺されかけていた場所。
もちろんその少佐はジュリーが始末した。
「本当にここに来るのか?」
「ああ、奴等の本隊は北に居る。北に移動するには必ずセーヌ川にかかる橋を渡らなければならないが、そこをあの少人数で渡る事はもはや不可能」
連合軍は完全に市内中心部を掌握しているから、当然全ての橋は固めている。
そこを突破する事は自殺行為であることは、勇猛果敢なルッツでも充分に分かっているはず。
だから逃げるつもりなら、ここから。
ジュリーが教え、ジュリーと一緒に使った、今は使われていない地下鉄の点検用縦穴を奴が忘れる訳がない。
「マルシュ! 誰か来る‼」
ルッツたちに違いない。
「ピエール、ジャン、建物の中に隠れろ」
「了解‼」
「くれぐれも言っておくが、決して奴等に銃を向けるな」
「了解! マルシュも早く来いよ」
「俺は、ここに残る」
「残る!?」
「ああ、サン・ジャック通りで奴が先行突入してきた部隊の将校の前に1人で立ち向かったときの様に、ここは俺も一対一の、さしでやらせてもらう」
「しかし」
「黙って俺の好きにさせてくれ」
奴がサン・ジャック通りで連合軍部隊を1人で止めたとき、俺は出ていく事はおろか動く勇気さえなかった。
しかし、今なら出来る。
ジュリーが戻って来られない以上、俺が彼女に代わってルッツを止めてみせる。
「分かった。その様子じゃあ、何を言っても無駄のようだな。だがお前が奴等に撃たれそうになったら、俺達も撃つぜ。それでいいだろう」
「駄目だ」
「駄目?」
「もし俺が奴等によってリンチに遭おうとも、お前たちは黙って見ていろ」
「どうして!?」
「見ていた全てをジュリーに伝えて欲しい。そしてジュリーの眼を覚まさせてくれ」
「やっぱりジュリーは!?」
「それは分からないが、とにかく頼む」
「分かったマルシュ。お前さんの一世一代の大勝負、とくと拝見させてもらうぜ!」
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