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Surrender, retreat, or die(降伏か撤退か、それとも死か)
[Marsh's decisionⅠ(マルシュの決断)]
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「マルシュ! 奴等が動き始めた‼」
ルッツと言う男が守るショワジー公園の見えるアパートから、外の様子を見ていたピエールが甲高い声を上げて俺を呼ぶ。
窓の傍まで行き、外を見ると陣地で装備をまとめている降下猟兵の分隊が居た。
「チクショウ、やはり奴は降伏しない気だ!」
マルシュが窓の傍の壁を拳で叩く。
窓の外で行われていたドンパチには左程驚く事もなく見ていたピエールたちが、マルシュの苛立った行動に驚き、皆が一瞬目を合わせて黙った。
皆に圧される様に、ピエールが再び口を開ける。
「どうするマルシュ。やっつけるか!?」
「やっつける?? 馬鹿野郎! そんな事をしようものなら反対に、こっちが遣られちまう」
窓から目を離したマルシュが、まるで喧嘩腰でピエールを睨みつけて言うと、ピエールの方もムキになって反論する。
「でも既にパリ市内のドイツ兵に降伏命令が出ている以上、従わずに逃げようとする奴等には俺達が撃たなくてもパリ市内に沢山いるどこかのレジスタンスが銃を向けるぜ」
その言葉が堪えたのか急にマルシュは黙ってしまい再び目を窓に向けると、しばらくして低く落ち着いた声で答えた。
「そうなると犠牲者が山のように出る」
「山のように!?」
「お前もさっきまでのアイツ等の戦いを見ただろう。アイツ等が何台の戦車や装甲車両を壊し、何百人のアメリカ兵を撃退したのか。そんな奴等を相手に俺達レジスタンスが戦って、無事でいられるとでも思っているのか」
「そりゃそうだな、俺達には戦車も重機関銃もなくて、持っている武器と言やあ猟銃や拳銃それに拾い物のドイツ軍のライフルくらいなものだからな」
「武器だけじゃねえ。奴等は命令とあれば、戦場のど真ん中でさえパラシュートで降りて行く空挺部隊だ。言ってみれば歩兵のプロ中のプロ。度胸も技術も俺達ド素人が束になっても敵う相手じゃねえ」
そう。
ドイツ空軍降下猟兵と言うのは特殊部隊に分類される能力を持っている。
彼等は重いパラシュートを使い、地上数百メートルの着地できるギリギリの低空を飛ぶ飛行機から空に飛び出す。
あまりの低さで充分な減速が出来ないため、武器や弾薬といった重い荷物は身に付けずに別のパラシュートに付けられたコンテナに乗せられるから、彼等が無事地上に降り立って最初にすることは武器の調達。
つまり彼等ドイツ空軍降下猟兵部隊は戦場のド真ん中に身一つで現れ、そのあと敵から受ける銃撃の雨を掻い潜りながら銃火器を装備する。
もちろん武器も飛行機からパラシュートで降ろされるから、重い対戦車砲などはなく、パンツァーファーストやパンツァーシュレックなどの貴重な対戦車兵器も無駄撃ちは出来ない。
だから彼等は様々な武器の特徴をよく理解して、状況にあった最良の武器を使用して最高の結果を出しているし、敵を倒した後に残った捕獲兵器にも精通している。
普通の歩兵に、撃破した敵の戦車に乗り込んで直ぐにその戦車砲を使って目標に命中させるなんてことは出来やしないし、戦場でルッツたちの様にタフには動き回る事は無い。
「マルシュ言い方じゃあ奴等をこのまま逃がしたら、あっちこっちで遭遇しちまうレジスタンスの仲間たちが奴等の餌食になる。かと言って俺たちが戦っても木っ端微塵にされちまうだけ。いったい、どうすりゃあいいんだ?」
ピエールの言う通り。
どのみち奴等に立ち向かうことは出来ない。
だが俺にはジュリーから大切な事を頼まれている。
ジュリーがパリを離れる時のこと。
話の途中でジュリーが頼み事があると言い、俺の耳元で囁くように小さな声で言った言葉。
『パリが解放される時、コルティッツ将軍は市内に居るドイツ軍部隊に降伏命令を出すはず。もしルッツが、この降伏に従わないでパリからの脱出を試みようとしたなら、止めて』
あの時は正直驚いたが、どうせジュリーは戻ってくるはずだしドイツ軍は部隊が壊滅でもしない限り降伏や撤退の判断はヒトラーの許しが必要だから、そうなることもないと思って引き受けた。
ヒトラーが降伏を許す状態であれば、あの勇猛果敢なルッツたちの降下猟兵も傷ついているか戦意を失っているはずだから……それにジュリーも俺なら出来ると言ってくれた。
だが今の状況は、俺が想像していたものとは全く異なる。
市内北部のドイツ軍部隊はまだ左程ダメージを被ってはいないし、南だってブローニュの森には未だ無傷のままの1個旅団が居る。
それに徐々に押されつつあるが、ディタリー広場を中心に展開するドイツ軍部隊もルッツたちの活躍も有って健在だ。
この状態で、どうやってあのルッツを俺が止められると言うのだろう。
ピエールと言い争ったように、下手に手を出してしまえば、こっちが遣られてしまう。
しかし何故、ジュリーは帰ってこない!?
いったいジュリーは今どこにいる?
「おいっ、奴等が動くぜ!」
やはり降伏はしないで、戦場を離脱するつもりか。
「どうする? マルシュ」
「行って来る!」
「えっ、えっ? 今なんて言った? “行こう”って言ったんだよな」
「いや、行くのは俺一人だ。だから“行って来る”」
「おっ、おい、冗談は止せ‼ 悪魔に唆そそのかされたのか? それじゃあ死にに行くようなものだ!」
「黙れ、ピエール‼ 俺は悪魔に唆されたんじゃねえ! 天使に囁ささやかれたんだ‼」
ルッツと言う男が守るショワジー公園の見えるアパートから、外の様子を見ていたピエールが甲高い声を上げて俺を呼ぶ。
窓の傍まで行き、外を見ると陣地で装備をまとめている降下猟兵の分隊が居た。
「チクショウ、やはり奴は降伏しない気だ!」
マルシュが窓の傍の壁を拳で叩く。
窓の外で行われていたドンパチには左程驚く事もなく見ていたピエールたちが、マルシュの苛立った行動に驚き、皆が一瞬目を合わせて黙った。
皆に圧される様に、ピエールが再び口を開ける。
「どうするマルシュ。やっつけるか!?」
「やっつける?? 馬鹿野郎! そんな事をしようものなら反対に、こっちが遣られちまう」
窓から目を離したマルシュが、まるで喧嘩腰でピエールを睨みつけて言うと、ピエールの方もムキになって反論する。
「でも既にパリ市内のドイツ兵に降伏命令が出ている以上、従わずに逃げようとする奴等には俺達が撃たなくてもパリ市内に沢山いるどこかのレジスタンスが銃を向けるぜ」
その言葉が堪えたのか急にマルシュは黙ってしまい再び目を窓に向けると、しばらくして低く落ち着いた声で答えた。
「そうなると犠牲者が山のように出る」
「山のように!?」
「お前もさっきまでのアイツ等の戦いを見ただろう。アイツ等が何台の戦車や装甲車両を壊し、何百人のアメリカ兵を撃退したのか。そんな奴等を相手に俺達レジスタンスが戦って、無事でいられるとでも思っているのか」
「そりゃそうだな、俺達には戦車も重機関銃もなくて、持っている武器と言やあ猟銃や拳銃それに拾い物のドイツ軍のライフルくらいなものだからな」
「武器だけじゃねえ。奴等は命令とあれば、戦場のど真ん中でさえパラシュートで降りて行く空挺部隊だ。言ってみれば歩兵のプロ中のプロ。度胸も技術も俺達ド素人が束になっても敵う相手じゃねえ」
そう。
ドイツ空軍降下猟兵と言うのは特殊部隊に分類される能力を持っている。
彼等は重いパラシュートを使い、地上数百メートルの着地できるギリギリの低空を飛ぶ飛行機から空に飛び出す。
あまりの低さで充分な減速が出来ないため、武器や弾薬といった重い荷物は身に付けずに別のパラシュートに付けられたコンテナに乗せられるから、彼等が無事地上に降り立って最初にすることは武器の調達。
つまり彼等ドイツ空軍降下猟兵部隊は戦場のド真ん中に身一つで現れ、そのあと敵から受ける銃撃の雨を掻い潜りながら銃火器を装備する。
もちろん武器も飛行機からパラシュートで降ろされるから、重い対戦車砲などはなく、パンツァーファーストやパンツァーシュレックなどの貴重な対戦車兵器も無駄撃ちは出来ない。
だから彼等は様々な武器の特徴をよく理解して、状況にあった最良の武器を使用して最高の結果を出しているし、敵を倒した後に残った捕獲兵器にも精通している。
普通の歩兵に、撃破した敵の戦車に乗り込んで直ぐにその戦車砲を使って目標に命中させるなんてことは出来やしないし、戦場でルッツたちの様にタフには動き回る事は無い。
「マルシュ言い方じゃあ奴等をこのまま逃がしたら、あっちこっちで遭遇しちまうレジスタンスの仲間たちが奴等の餌食になる。かと言って俺たちが戦っても木っ端微塵にされちまうだけ。いったい、どうすりゃあいいんだ?」
ピエールの言う通り。
どのみち奴等に立ち向かうことは出来ない。
だが俺にはジュリーから大切な事を頼まれている。
ジュリーがパリを離れる時のこと。
話の途中でジュリーが頼み事があると言い、俺の耳元で囁くように小さな声で言った言葉。
『パリが解放される時、コルティッツ将軍は市内に居るドイツ軍部隊に降伏命令を出すはず。もしルッツが、この降伏に従わないでパリからの脱出を試みようとしたなら、止めて』
あの時は正直驚いたが、どうせジュリーは戻ってくるはずだしドイツ軍は部隊が壊滅でもしない限り降伏や撤退の判断はヒトラーの許しが必要だから、そうなることもないと思って引き受けた。
ヒトラーが降伏を許す状態であれば、あの勇猛果敢なルッツたちの降下猟兵も傷ついているか戦意を失っているはずだから……それにジュリーも俺なら出来ると言ってくれた。
だが今の状況は、俺が想像していたものとは全く異なる。
市内北部のドイツ軍部隊はまだ左程ダメージを被ってはいないし、南だってブローニュの森には未だ無傷のままの1個旅団が居る。
それに徐々に押されつつあるが、ディタリー広場を中心に展開するドイツ軍部隊もルッツたちの活躍も有って健在だ。
この状態で、どうやってあのルッツを俺が止められると言うのだろう。
ピエールと言い争ったように、下手に手を出してしまえば、こっちが遣られてしまう。
しかし何故、ジュリーは帰ってこない!?
いったいジュリーは今どこにいる?
「おいっ、奴等が動くぜ!」
やはり降伏はしないで、戦場を離脱するつもりか。
「どうする? マルシュ」
「行って来る!」
「えっ、えっ? 今なんて言った? “行こう”って言ったんだよな」
「いや、行くのは俺一人だ。だから“行って来る”」
「おっ、おい、冗談は止せ‼ 悪魔に唆そそのかされたのか? それじゃあ死にに行くようなものだ!」
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