69 / 98
Surrender, retreat, or die(降伏か撤退か、それとも死か)
[Mysterious Man's HouseⅡ(謎の男の家)]
しおりを挟む
ルッツなら、どうしただろう。
ルッツは強い人だから、人の助けを乞う様なイメージは幾ら考えても思い浮かばない。
だからと言ってルッツには人の助けが要らない訳ではない。
人の助けなしに生きていける人間なんて、この世の中に居はしない。
“仲間!”
そう、ルッツには仲間が沢山いる。
分隊の仲間に、中隊長のオスマン大尉。
オスマン大尉の先輩のオットー・ヘイム中佐に、同じ正義感を失わないドイツ兵たち。
でも、この場所に私の仲間は居ない。
私は混乱している頭を抱えて考えた。
ルッツの周囲には、どうしてあれ程までに素敵な仲間が居るのかを。
ルッツを初めて見たとき、彼は教会の前で親衛隊に囲まれて処刑される寸前の村人たちを見て何をしたのか?
ルッツは“お祈りをする”と言い、その集まった人たちの中に入って行った。
親衛隊の少佐に銃を渡されそうになった時は、虐殺かどうかを聞き、少佐が正当な行為だと答えると“証拠”を確認した。
少佐がまるで有り得ない馬鹿げた理由を挙げても何故司法組織に引き渡さなのかと問い、それも受け入れられないのでルッツは呆れて銃を向けられていた村人たちの中に入って行き、その正当性の無さを主張して“どうせこの先、戦場で死ぬのなら”と大声で周囲のドイツ兵に訴えた。
確かに銃を向けられている中で勇気のある行動ではあるが、特別な事は何もしていない。
何やらおかしなことをしている人たちに理由を聞き、悪いことだと教え止める様に言ったが受け入れられなかったので、周囲に訴えかけただけ。
戦争と言う狂った状況の中で、ルッツは至極まともな行動を取ったに過ぎない。
だがそれは戦争の中にあっては、やはり勇気があり誠実な行為だ。
ルッツの事を思うと、胸が熱くなる。
そして自分が何故今直ぐにパリに行かなければならないのか、パリで何をしなければならないのかを思い出す。
急いでパリに行かなくてはならないのはルッツに会うためであり、そのルッツを救うため。
いまルッツを止めなければ、2度と彼を止める機会は来ない。
パリが解放された後、ドイツは国土の東西から攻められ泥沼の戦場と化すだろう。
ヒトラーが生きている限り降伏はしないとなれば、彼等兵士たちに課せられた運命は、最後の1兵まで戦うこと。
その前にルッツを……いやルッツたちを救わなければ。
もう私にはルッツの居ない未来なんて想像も出来ない。
そう。これは私の戦争でもあるのだ。
老人を呼び、しばらく待っていると部屋にスープを持って入って来た。
ドアの向こうにドイツ兵が居るかどうかは確認できなかったが、ドアの向こうに誰かが居る気配だけは感じた。
でも今はもう、そんな事は左程重要な意味を持たない。
「有り難う。私の名前はジュリー・クレマン、出身はルーアンです」
「ああ、ジュリーと言うのかね、良い名前だ。ワシはシャルル・アルパーニ。昔からここに住んでいる農夫だ」
「何故私をここへ?」
「怪我をしていたからだが、なにか?」
「あの夜私はパリに向かっていて、その途中でドイツ軍の銃撃に会い、それで車のコントロールを失って……」
「ああ、そうだったな」
「そこにアナタが居たのは何故ですか?」
「そこにはワシは居なかった」
「居なかった? では誰が、ここに?」
「……」
老人は私の質問に直ぐには答えずに黙ってしまった。
“やはり、この人は協力者コラボラシオン?”
いや、チョッと待って。
ひょっとすると私がこの老人を協力者コラボラシオンと疑っているのと同じように、この老人も私の事を疑っているとすればどうだろう?
やはり私と同じように、素性を明かすのは躊躇うはず。
どちらかが先に本当の事を言わなければ、話は前には進まない。
こうしている時間が長引けば、その分ルッツは遠ざかって行く。
ルッツ流に、一か八か相手の懐に飛び込むしか手はない!
「私はレジスタンスの一員で、急いでパリに行く途中でした」
もう自分の身の安全など構っている暇はない。
私は正直に自らの素性を老人に伝えると、予想通り老人が背にしていたドアのノブがユックリと回り始め、絞められていたドアに隙間が出来る。
やはり隣の部屋には誰かが居て、私の話しを聞いていた。
“いったい何者が居るの!?”
ルッツは強い人だから、人の助けを乞う様なイメージは幾ら考えても思い浮かばない。
だからと言ってルッツには人の助けが要らない訳ではない。
人の助けなしに生きていける人間なんて、この世の中に居はしない。
“仲間!”
そう、ルッツには仲間が沢山いる。
分隊の仲間に、中隊長のオスマン大尉。
オスマン大尉の先輩のオットー・ヘイム中佐に、同じ正義感を失わないドイツ兵たち。
でも、この場所に私の仲間は居ない。
私は混乱している頭を抱えて考えた。
ルッツの周囲には、どうしてあれ程までに素敵な仲間が居るのかを。
ルッツを初めて見たとき、彼は教会の前で親衛隊に囲まれて処刑される寸前の村人たちを見て何をしたのか?
ルッツは“お祈りをする”と言い、その集まった人たちの中に入って行った。
親衛隊の少佐に銃を渡されそうになった時は、虐殺かどうかを聞き、少佐が正当な行為だと答えると“証拠”を確認した。
少佐がまるで有り得ない馬鹿げた理由を挙げても何故司法組織に引き渡さなのかと問い、それも受け入れられないのでルッツは呆れて銃を向けられていた村人たちの中に入って行き、その正当性の無さを主張して“どうせこの先、戦場で死ぬのなら”と大声で周囲のドイツ兵に訴えた。
確かに銃を向けられている中で勇気のある行動ではあるが、特別な事は何もしていない。
何やらおかしなことをしている人たちに理由を聞き、悪いことだと教え止める様に言ったが受け入れられなかったので、周囲に訴えかけただけ。
戦争と言う狂った状況の中で、ルッツは至極まともな行動を取ったに過ぎない。
だがそれは戦争の中にあっては、やはり勇気があり誠実な行為だ。
ルッツの事を思うと、胸が熱くなる。
そして自分が何故今直ぐにパリに行かなければならないのか、パリで何をしなければならないのかを思い出す。
急いでパリに行かなくてはならないのはルッツに会うためであり、そのルッツを救うため。
いまルッツを止めなければ、2度と彼を止める機会は来ない。
パリが解放された後、ドイツは国土の東西から攻められ泥沼の戦場と化すだろう。
ヒトラーが生きている限り降伏はしないとなれば、彼等兵士たちに課せられた運命は、最後の1兵まで戦うこと。
その前にルッツを……いやルッツたちを救わなければ。
もう私にはルッツの居ない未来なんて想像も出来ない。
そう。これは私の戦争でもあるのだ。
老人を呼び、しばらく待っていると部屋にスープを持って入って来た。
ドアの向こうにドイツ兵が居るかどうかは確認できなかったが、ドアの向こうに誰かが居る気配だけは感じた。
でも今はもう、そんな事は左程重要な意味を持たない。
「有り難う。私の名前はジュリー・クレマン、出身はルーアンです」
「ああ、ジュリーと言うのかね、良い名前だ。ワシはシャルル・アルパーニ。昔からここに住んでいる農夫だ」
「何故私をここへ?」
「怪我をしていたからだが、なにか?」
「あの夜私はパリに向かっていて、その途中でドイツ軍の銃撃に会い、それで車のコントロールを失って……」
「ああ、そうだったな」
「そこにアナタが居たのは何故ですか?」
「そこにはワシは居なかった」
「居なかった? では誰が、ここに?」
「……」
老人は私の質問に直ぐには答えずに黙ってしまった。
“やはり、この人は協力者コラボラシオン?”
いや、チョッと待って。
ひょっとすると私がこの老人を協力者コラボラシオンと疑っているのと同じように、この老人も私の事を疑っているとすればどうだろう?
やはり私と同じように、素性を明かすのは躊躇うはず。
どちらかが先に本当の事を言わなければ、話は前には進まない。
こうしている時間が長引けば、その分ルッツは遠ざかって行く。
ルッツ流に、一か八か相手の懐に飛び込むしか手はない!
「私はレジスタンスの一員で、急いでパリに行く途中でした」
もう自分の身の安全など構っている暇はない。
私は正直に自らの素性を老人に伝えると、予想通り老人が背にしていたドアのノブがユックリと回り始め、絞められていたドアに隙間が出来る。
やはり隣の部屋には誰かが居て、私の話しを聞いていた。
“いったい何者が居るの!?”
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる