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Surrender, retreat, or die(降伏か撤退か、それとも死か)
[Mysterious Man's HouseⅡ(謎の男の家)]
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ルッツなら、どうしただろう。
ルッツは強い人だから、人の助けを乞う様なイメージは幾ら考えても思い浮かばない。
だからと言ってルッツには人の助けが要らない訳ではない。
人の助けなしに生きていける人間なんて、この世の中に居はしない。
“仲間!”
そう、ルッツには仲間が沢山いる。
分隊の仲間に、中隊長のオスマン大尉。
オスマン大尉の先輩のオットー・ヘイム中佐に、同じ正義感を失わないドイツ兵たち。
でも、この場所に私の仲間は居ない。
私は混乱している頭を抱えて考えた。
ルッツの周囲には、どうしてあれ程までに素敵な仲間が居るのかを。
ルッツを初めて見たとき、彼は教会の前で親衛隊に囲まれて処刑される寸前の村人たちを見て何をしたのか?
ルッツは“お祈りをする”と言い、その集まった人たちの中に入って行った。
親衛隊の少佐に銃を渡されそうになった時は、虐殺かどうかを聞き、少佐が正当な行為だと答えると“証拠”を確認した。
少佐がまるで有り得ない馬鹿げた理由を挙げても何故司法組織に引き渡さなのかと問い、それも受け入れられないのでルッツは呆れて銃を向けられていた村人たちの中に入って行き、その正当性の無さを主張して“どうせこの先、戦場で死ぬのなら”と大声で周囲のドイツ兵に訴えた。
確かに銃を向けられている中で勇気のある行動ではあるが、特別な事は何もしていない。
何やらおかしなことをしている人たちに理由を聞き、悪いことだと教え止める様に言ったが受け入れられなかったので、周囲に訴えかけただけ。
戦争と言う狂った状況の中で、ルッツは至極まともな行動を取ったに過ぎない。
だがそれは戦争の中にあっては、やはり勇気があり誠実な行為だ。
ルッツの事を思うと、胸が熱くなる。
そして自分が何故今直ぐにパリに行かなければならないのか、パリで何をしなければならないのかを思い出す。
急いでパリに行かなくてはならないのはルッツに会うためであり、そのルッツを救うため。
いまルッツを止めなければ、2度と彼を止める機会は来ない。
パリが解放された後、ドイツは国土の東西から攻められ泥沼の戦場と化すだろう。
ヒトラーが生きている限り降伏はしないとなれば、彼等兵士たちに課せられた運命は、最後の1兵まで戦うこと。
その前にルッツを……いやルッツたちを救わなければ。
もう私にはルッツの居ない未来なんて想像も出来ない。
そう。これは私の戦争でもあるのだ。
老人を呼び、しばらく待っていると部屋にスープを持って入って来た。
ドアの向こうにドイツ兵が居るかどうかは確認できなかったが、ドアの向こうに誰かが居る気配だけは感じた。
でも今はもう、そんな事は左程重要な意味を持たない。
「有り難う。私の名前はジュリー・クレマン、出身はルーアンです」
「ああ、ジュリーと言うのかね、良い名前だ。ワシはシャルル・アルパーニ。昔からここに住んでいる農夫だ」
「何故私をここへ?」
「怪我をしていたからだが、なにか?」
「あの夜私はパリに向かっていて、その途中でドイツ軍の銃撃に会い、それで車のコントロールを失って……」
「ああ、そうだったな」
「そこにアナタが居たのは何故ですか?」
「そこにはワシは居なかった」
「居なかった? では誰が、ここに?」
「……」
老人は私の質問に直ぐには答えずに黙ってしまった。
“やはり、この人は協力者コラボラシオン?”
いや、チョッと待って。
ひょっとすると私がこの老人を協力者コラボラシオンと疑っているのと同じように、この老人も私の事を疑っているとすればどうだろう?
やはり私と同じように、素性を明かすのは躊躇うはず。
どちらかが先に本当の事を言わなければ、話は前には進まない。
こうしている時間が長引けば、その分ルッツは遠ざかって行く。
ルッツ流に、一か八か相手の懐に飛び込むしか手はない!
「私はレジスタンスの一員で、急いでパリに行く途中でした」
もう自分の身の安全など構っている暇はない。
私は正直に自らの素性を老人に伝えると、予想通り老人が背にしていたドアのノブがユックリと回り始め、絞められていたドアに隙間が出来る。
やはり隣の部屋には誰かが居て、私の話しを聞いていた。
“いったい何者が居るの!?”
ルッツは強い人だから、人の助けを乞う様なイメージは幾ら考えても思い浮かばない。
だからと言ってルッツには人の助けが要らない訳ではない。
人の助けなしに生きていける人間なんて、この世の中に居はしない。
“仲間!”
そう、ルッツには仲間が沢山いる。
分隊の仲間に、中隊長のオスマン大尉。
オスマン大尉の先輩のオットー・ヘイム中佐に、同じ正義感を失わないドイツ兵たち。
でも、この場所に私の仲間は居ない。
私は混乱している頭を抱えて考えた。
ルッツの周囲には、どうしてあれ程までに素敵な仲間が居るのかを。
ルッツを初めて見たとき、彼は教会の前で親衛隊に囲まれて処刑される寸前の村人たちを見て何をしたのか?
ルッツは“お祈りをする”と言い、その集まった人たちの中に入って行った。
親衛隊の少佐に銃を渡されそうになった時は、虐殺かどうかを聞き、少佐が正当な行為だと答えると“証拠”を確認した。
少佐がまるで有り得ない馬鹿げた理由を挙げても何故司法組織に引き渡さなのかと問い、それも受け入れられないのでルッツは呆れて銃を向けられていた村人たちの中に入って行き、その正当性の無さを主張して“どうせこの先、戦場で死ぬのなら”と大声で周囲のドイツ兵に訴えた。
確かに銃を向けられている中で勇気のある行動ではあるが、特別な事は何もしていない。
何やらおかしなことをしている人たちに理由を聞き、悪いことだと教え止める様に言ったが受け入れられなかったので、周囲に訴えかけただけ。
戦争と言う狂った状況の中で、ルッツは至極まともな行動を取ったに過ぎない。
だがそれは戦争の中にあっては、やはり勇気があり誠実な行為だ。
ルッツの事を思うと、胸が熱くなる。
そして自分が何故今直ぐにパリに行かなければならないのか、パリで何をしなければならないのかを思い出す。
急いでパリに行かなくてはならないのはルッツに会うためであり、そのルッツを救うため。
いまルッツを止めなければ、2度と彼を止める機会は来ない。
パリが解放された後、ドイツは国土の東西から攻められ泥沼の戦場と化すだろう。
ヒトラーが生きている限り降伏はしないとなれば、彼等兵士たちに課せられた運命は、最後の1兵まで戦うこと。
その前にルッツを……いやルッツたちを救わなければ。
もう私にはルッツの居ない未来なんて想像も出来ない。
そう。これは私の戦争でもあるのだ。
老人を呼び、しばらく待っていると部屋にスープを持って入って来た。
ドアの向こうにドイツ兵が居るかどうかは確認できなかったが、ドアの向こうに誰かが居る気配だけは感じた。
でも今はもう、そんな事は左程重要な意味を持たない。
「有り難う。私の名前はジュリー・クレマン、出身はルーアンです」
「ああ、ジュリーと言うのかね、良い名前だ。ワシはシャルル・アルパーニ。昔からここに住んでいる農夫だ」
「何故私をここへ?」
「怪我をしていたからだが、なにか?」
「あの夜私はパリに向かっていて、その途中でドイツ軍の銃撃に会い、それで車のコントロールを失って……」
「ああ、そうだったな」
「そこにアナタが居たのは何故ですか?」
「そこにはワシは居なかった」
「居なかった? では誰が、ここに?」
「……」
老人は私の質問に直ぐには答えずに黙ってしまった。
“やはり、この人は協力者コラボラシオン?”
いや、チョッと待って。
ひょっとすると私がこの老人を協力者コラボラシオンと疑っているのと同じように、この老人も私の事を疑っているとすればどうだろう?
やはり私と同じように、素性を明かすのは躊躇うはず。
どちらかが先に本当の事を言わなければ、話は前には進まない。
こうしている時間が長引けば、その分ルッツは遠ざかって行く。
ルッツ流に、一か八か相手の懐に飛び込むしか手はない!
「私はレジスタンスの一員で、急いでパリに行く途中でした」
もう自分の身の安全など構っている暇はない。
私は正直に自らの素性を老人に伝えると、予想通り老人が背にしていたドアのノブがユックリと回り始め、絞められていたドアに隙間が出来る。
やはり隣の部屋には誰かが居て、私の話しを聞いていた。
“いったい何者が居るの!?”
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