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Liberation of Paris(パリの解放)
[Battle of Joisi Park Ⅵ(ショワージ公園での戦闘)]
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時間は午後3時を回った。
最後の戦闘が終わってもう直ぐ2時間が経つが、敵は何も仕掛けて来ない。
敵はさっきの戦闘で消耗した部隊を後方に送り、新たな部隊に新たな作戦を与えて前線に送り出す準備に忙しいのだろう。
兵站の問題もあるし、次の攻撃は夕暮れ時からか、もしかしたら夜襲。
特に夜襲に備えて交代で見張りを立てて多くの兵士を休ませることにしたが、おそらく次の攻撃を防ぐことはできない。
パリ市内と言う袋小路の中に閉じ込められた俺たちは、逃げ場を探し彷徨ううちに1人ずつ狩られてゆく。
“ジュリー、俺は君との約束を守る努力はしてみたが、やはり守れなかった”
不思議なのはこの2時間、他の戦線でも銃声が殆ど止んでいる事。
嵐の前の静けさか……。
無線が鳴る。
鳴ったのはグリーデンの無線だけでなく、同じ陣地に居る国防軍の無線にも同時にコールが入る。
これは何か特別な事が起きたに違いない。
「ルッツ隊長!」
グリーデンに呼ばれて、無線機に向かう。
「誰からだ!?」
「総督府からです」
「総督府?」
一体なんだ?
コルティッツと言う将軍は、全部隊に激励を伝える程洒落た冗談の言える奴等じゃじゃないし、補給や応援を寄こす程イキな計らいが出来る奴等でもない。
もし、あるとすれば……。
とにかく答えは向こうから言って来るから、余計な詮索は無用。
「空軍降下猟兵ハウンドⅡ、ルッツ少尉です」
≪よし、指示を待て≫
「了解しました」
膠着状態とは言え、今は戦闘の真最中だと言うのに無線の前で待つように命令されて10分が過ぎた。
「どうかしてるぜ、こっちは戦闘中だっていうのに。待っている間に敵の攻撃で死んじまうぜ」
「だな。敵は総督府の放送なんて待ってはくれねえ」
「そりゃ、そうだ」
「でも、攻めて来ませんよ。敵もドイツ軍の無線を傍受しているはずなのに」
「そう言やあ、そうだな」
「どうして攻めてこねえんだ?」
「3時のティータイムじゃないのか?」
「馬鹿、そりゃあイギリス軍だけだ。俺たちが対峙しているのはアメ公だぜ」
「こらっお前たち、持ち場を離れるな!」
「りょっ、了解!」
いつの間にか後ろの建物に居るマイヤーとホルツ以外の4人が無線機を囲んで話し始めていたので持ち場に戻す。
あまりにも待たせるので時計を見る。
15時30分。
それからしばらくして、パリ総督府のコルティッツ将軍からパリ市内を守るドイツ軍部隊に降伏命令が下った。
敵が攻撃を中断した訳は、この降伏を知っていたからか……。
つまりコルティッツは、俺が予想していた通り事前に連合軍とパリの明け渡しについて交渉していたのだ。
「グリーデン、直ぐに中隊長に連絡!」
「あっ、ハイ……隊長、その中隊長からです」
≪聞いたかルッツ……≫
「聞きました」
開口一番、オスマン大尉はコルティッツ将軍の降伏命令について話した。
≪俺の中隊はパリ市内北部の端だ。現在は未だ敵部隊と交戦状態にはないが、市内中心部には敵の部隊が集結しつつある。この戦況が意味する事、分かってくれるか?≫
「分かります」
つまり市内中心部に敵の大部隊が集結した状態で、その中心部を突き抜けて市内南部の俺たちを救出しに行くことは出来ないと言う事。
≪俺たちは北に逃げ道が残っているから降伏はせずに撤退するが、お前たちはどうする? 状況が状況だけに……と言うか、この降伏は司令官からの命令だから従って当然。もう、これ以上は戦うな≫
「分かりました」
≪残念だが、仕方がない。君と一緒に戦えて良かった……≫
無線の先のオスマン大尉は、いまにも泣き出しそうな声で、そう言ってくれた。
「有り難うございます大尉。……ところで、パリを脱出した後の合流地点は?」
≪おっ、おまえまさか!?≫
「こんな筋書き通りの降伏なんて、俺は受け入れられません」
≪だからと言って……やっ、やめておけ、無理だ!≫
「もちろん降伏命令が出ていますから、無茶はしません。無理なら止めます。ただ、幸運に恵まれて脱出できたとして、その先どこに行けばいいのか分からなければ迷子になってしまうでしょう?」
≪OK! 集合地点はパリを出て北東70kmのコンピエーニュだ≫
「休戦の街(※下段にて説明)ですね。そりゃあ好い。では、後ほど」
≪くれぐれも言うが、もう無茶はするな≫
「了解しました」
(※)休戦の街:1918年11月11日、第一次世界大戦でのドイツと連合国の休戦協定は、このコンピエーニュで行われた。
最後の戦闘が終わってもう直ぐ2時間が経つが、敵は何も仕掛けて来ない。
敵はさっきの戦闘で消耗した部隊を後方に送り、新たな部隊に新たな作戦を与えて前線に送り出す準備に忙しいのだろう。
兵站の問題もあるし、次の攻撃は夕暮れ時からか、もしかしたら夜襲。
特に夜襲に備えて交代で見張りを立てて多くの兵士を休ませることにしたが、おそらく次の攻撃を防ぐことはできない。
パリ市内と言う袋小路の中に閉じ込められた俺たちは、逃げ場を探し彷徨ううちに1人ずつ狩られてゆく。
“ジュリー、俺は君との約束を守る努力はしてみたが、やはり守れなかった”
不思議なのはこの2時間、他の戦線でも銃声が殆ど止んでいる事。
嵐の前の静けさか……。
無線が鳴る。
鳴ったのはグリーデンの無線だけでなく、同じ陣地に居る国防軍の無線にも同時にコールが入る。
これは何か特別な事が起きたに違いない。
「ルッツ隊長!」
グリーデンに呼ばれて、無線機に向かう。
「誰からだ!?」
「総督府からです」
「総督府?」
一体なんだ?
コルティッツと言う将軍は、全部隊に激励を伝える程洒落た冗談の言える奴等じゃじゃないし、補給や応援を寄こす程イキな計らいが出来る奴等でもない。
もし、あるとすれば……。
とにかく答えは向こうから言って来るから、余計な詮索は無用。
「空軍降下猟兵ハウンドⅡ、ルッツ少尉です」
≪よし、指示を待て≫
「了解しました」
膠着状態とは言え、今は戦闘の真最中だと言うのに無線の前で待つように命令されて10分が過ぎた。
「どうかしてるぜ、こっちは戦闘中だっていうのに。待っている間に敵の攻撃で死んじまうぜ」
「だな。敵は総督府の放送なんて待ってはくれねえ」
「そりゃ、そうだ」
「でも、攻めて来ませんよ。敵もドイツ軍の無線を傍受しているはずなのに」
「そう言やあ、そうだな」
「どうして攻めてこねえんだ?」
「3時のティータイムじゃないのか?」
「馬鹿、そりゃあイギリス軍だけだ。俺たちが対峙しているのはアメ公だぜ」
「こらっお前たち、持ち場を離れるな!」
「りょっ、了解!」
いつの間にか後ろの建物に居るマイヤーとホルツ以外の4人が無線機を囲んで話し始めていたので持ち場に戻す。
あまりにも待たせるので時計を見る。
15時30分。
それからしばらくして、パリ総督府のコルティッツ将軍からパリ市内を守るドイツ軍部隊に降伏命令が下った。
敵が攻撃を中断した訳は、この降伏を知っていたからか……。
つまりコルティッツは、俺が予想していた通り事前に連合軍とパリの明け渡しについて交渉していたのだ。
「グリーデン、直ぐに中隊長に連絡!」
「あっ、ハイ……隊長、その中隊長からです」
≪聞いたかルッツ……≫
「聞きました」
開口一番、オスマン大尉はコルティッツ将軍の降伏命令について話した。
≪俺の中隊はパリ市内北部の端だ。現在は未だ敵部隊と交戦状態にはないが、市内中心部には敵の部隊が集結しつつある。この戦況が意味する事、分かってくれるか?≫
「分かります」
つまり市内中心部に敵の大部隊が集結した状態で、その中心部を突き抜けて市内南部の俺たちを救出しに行くことは出来ないと言う事。
≪俺たちは北に逃げ道が残っているから降伏はせずに撤退するが、お前たちはどうする? 状況が状況だけに……と言うか、この降伏は司令官からの命令だから従って当然。もう、これ以上は戦うな≫
「分かりました」
≪残念だが、仕方がない。君と一緒に戦えて良かった……≫
無線の先のオスマン大尉は、いまにも泣き出しそうな声で、そう言ってくれた。
「有り難うございます大尉。……ところで、パリを脱出した後の合流地点は?」
≪おっ、おまえまさか!?≫
「こんな筋書き通りの降伏なんて、俺は受け入れられません」
≪だからと言って……やっ、やめておけ、無理だ!≫
「もちろん降伏命令が出ていますから、無茶はしません。無理なら止めます。ただ、幸運に恵まれて脱出できたとして、その先どこに行けばいいのか分からなければ迷子になってしまうでしょう?」
≪OK! 集合地点はパリを出て北東70kmのコンピエーニュだ≫
「休戦の街(※下段にて説明)ですね。そりゃあ好い。では、後ほど」
≪くれぐれも言うが、もう無茶はするな≫
「了解しました」
(※)休戦の街:1918年11月11日、第一次世界大戦でのドイツと連合国の休戦協定は、このコンピエーニュで行われた。
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